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うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない  作者: ギガントメガ太郎


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第521話 DYING ROBOT その二十二

 特別合同課外授業二十三日目の昼。

 戦いは終わった。掌山(てのひらさん)山頂での戦い。豪華客船美食丸での戦い。二つの戦いが同時に終わりを告げた。


 掌山の城前で行われた決戦は、ゾンボと化した巨大ロボホトニャンの登場により、絶望の淵に立たされた。生徒達がいくら集まろうが、戦闘兵器に敵うはずがない。生徒達が立ち尽くす中、一筋の光がやってきた。チャ王の降臨だ。チャ王ことロボキャットのチャーリーは、ゾンボとなったホトニャンを見事乗りこなし、正義の巨大ロボギガントニャンボットへと生まれ変わらせたのだ。


 ギガントニャンボットは、城の周囲をうろついているゾンボを、片っ端から遠くへ放り投げた。あらかた掃除が終わると、頭部のハッチが開いた。


「ニャー」


 チャーリーはコクピットから飛んだ。鏡乃はそれを迎えようと両腕を広げた。


「チャーリー! チャーリー! わぁ! チャーリー! いだッ!?」


 チャーリーは鏡乃の頭を踏み台にして床に着地した。グレーのモコモコは鏡乃達に尻の穴を見せて歩いた。


「もう! チャーリー、全然抱っこさせてくんない!」

「かわいいッス!」


 猫好きのでかおは、チャーリーにメロメロのようだ。


「おい、鏡乃山。あいつはおめーの知り合いか?」


 戦車ロボから降りてきた茶柱江楼(ちゃばしらころ)は、チャーリーの後を歩いた。


「あ、江楼ちゃん! こんにちは! スンスンスン! お日様の匂い! チャーリーはね、鏡乃のお友達なの! あとね、この島の王様なの! チャ王だよ! いつもはね、浅草でね、メル子の出店でね、ご飯を食べたりね、白猫のダンチェッカーにね、プレゼントあげたりね、それからね!」

「うるせぇ! ぶっコロすぞ!」

「ええ!?」

「あいつ、俺らをどこかに連れていこうとしているみたいだぜ」


 チャーリーはニャンボットによって破壊された城門をくぐり抜け、城の中に入り込んだ。鏡乃と江様、ちゃんこ部は続けて中に入った。外の工場の稼働音は消え失せ、耳が痛くなるような静寂が一行を覆った。


「チャーリー、どこにいくの? ねえ、どうやって肉球島にきたの? クロちゃんとメル子は元気? ねえ、チャーリー」

「ニャー」

「なに言ってるかわかんないよ〜」

「鏡乃山、猫の言葉がわかるわけねえだろ」

「クロちゃんならわかるんだもん!」

「黒乃山が? なんだそれ、イカれてんのか? ぶっコロすぞ」


 チャーリーは城の廊下を歩いた。ここは肉球島の主である藍ノ木藍藍(あいのきあいらん)と、プログラミングアイドルロボのコトリンの居城だ。彼女らはロボキャットが支配していたこの肉球島を乗っ取り、新たな王国肉球藍藍土(にくきゅうあいらんど)を立ち上げた。浅草事変の責任を取らされ、巫女サージャにより島流しの刑に処された藍ノ木とコトリンの二人が、起死回生の一手として作り上げた王国だ。

 その王国を象徴する城は、無惨な姿に変わり果てていた。城内はローションに覆われ、空気は澱み、死者の宮殿へと堕ちていた。


「怖いッス!」見た目に似合わず臆病なでかおが悲鳴を上げた。

「ココにナニがいるんデスか!?」新弟子ロボは不安そうな表情だ。


 チャーリーは鼻を鳴らした。倉庫の一室に入ると床を爪で掻いた。ちゃんこ部が荷物をどかして床を調べると、地下への隠し通路が見つかった。階段を下り、地下へと進んでいく。ここはどうやら地下牢のようだ。薄暗く汚い。牢屋からはローションが溢れ出している。中をよく見ると、モンキーゾンボが床にうずくまっていた。


「チャーリー! ここになにがあるの!?」


 鏡乃は江様の背中に張り付き、後ろから押した。


「おい、てめえ! 押すな!」

「誰……?」


 地下牢の一番奥の牢屋から声が聞こえた。女性の声だ。その声を聞いた途端、一行はピタリと動きを止め、静まり返った。鏡乃は江様を盾にして、恐る恐る牢屋に近づいた。


「あ……」

「あなたは……」


 その牢にいたのは、この肉球藍藍土の国王藍ノ木藍藍その人であった。床に座り込み、こちらを見上げていた。体は汚れ放題、頬はこけ、自慢の頭の上のお団子は解けていた。唯一彼女だと認識できたのは、その細長い角メガネだけだった。

 そして、その膝の上には一体のロボットが横たわっていた。かつては煌びやかだったはずのフリルがついた衣装。かつては鮮やかだったはずの緑色の髪の毛。かつて刻まれていたはずの眼球の(アスタリスク)は、−−(デクリメント)に変化していた。そして、その小さなボディは粘液で覆われていた。


「藍ノ木さん!? コトリン!?」

「あなたは……黒ノ木社長の……鏡乃さん」


 二人は見つめ合った。この二人には因縁がある。昨年行われた大相撲浅草場所で、お互い激しく戦った(392話参照)。


「みっともない姿を見られてしまったわね」

「コトリンはもしかして……」


 藍ノ木は膝の上のコトリンの頬を撫でた。コトリンは唸り声を出してその手に噛みつこうとした。


「そうですわよ。コトリンはゾンボになってしまったのですわ」


 鏡乃は衝撃を受けた。コトリンを最後に見たのは二週間も前。あの時の明るく、溌剌としたアイドルはもういない。ここにいるのはゾンボでしかなかった。もがくゾンボを、藍ノ木は力強く抱き締めた。


「ゾンボになっても、コトリンはコトリン。私はコトリンのマスター」


 しばらく抱き締めていると、ゾンボはおとなしくなった。一行は呆然と牢の中に見入った。





 ——豪華客船美食丸。

 第十二デッキの生徒会本部は緊張に包まれていた。


「女将、そのボディは本物か」


 机の上に置かれた美食ロボの頭部は、自身の胴体を見ていた。美食ロボの恰幅のよい胴体と、ハイデンのべっぴん頭部の組み合わせというなんとも珍妙なロボットは、縄でぐるぐる巻きにされ椅子に縛りつけられていた。


「船長。この胴体は船長のものですが、今はお借りしています」


 生徒会長茶柱初火(ちゃばしらういほ)は、申し訳なさそうに言った。


 江様達討伐隊がハイデンを討つために掌山に向かった矢先、肝心のハイデンはコウノトリゾンボに運ばれて美食丸に潜入していた。ハイデンは第二デッキに封印された百体の乗員ゾンボを解放し、船を乗っ取ろうと画策した。激しい戦いの末、奇跡的にハイデンを撃破。ハイデンの頭部は美食ロボの胴体に接合され、完全に無力化された。


 しかし、船内の問題が解決したわけではない。乗員ゾンボ百体はいまだ船内をうろついているのだ。第五デッキのレストラン街から下はゾンボがうろつく領域になってしまった。これは由々しき事態で、過去最大の危機と言ってもよい。


 第一デッキ、船倉。

 第二デッキ、乗務員用船室。

 第三デッキ、乗務員用船室。

 第四デッキ、ショッピングモール。

 第五デッキ、レストラン街。

 第六デッキ、客室。

 第七デッキ、客室。

 第八デッキ、客室。

 第九デッキ、客室。

 第十デッキ、カジノ、プール。

 第十一デッキ、オープンデッキ。

 第十二デッキ、シアター、展望台。


 レストラン街やショッピングモールは船内経済活動の基盤であり、そこを失うことにより生徒達の自主的な活動に大幅な制限ができてしまう。加えて、物資が保管してある船倉へのアクセスが困難になるのだ。

 千名もの生徒達がこの大混乱の中でなんとか暮らしてこれたのは、肉球(ポー)経済という基盤があったからだ。自主性や自立性があったからだ。それが滞れば、あらゆる不満が表面化し、その矛先は指導者へと向かうだろう。崩壊への序曲だ。

 初様は立ち上がり、ハイデンに詰め寄った。


「ゾンボに第二デッキに戻るように命じなさい!」 


 ハイデンは目を合わせようともしない。初様は指示棒を伸ばし、美食ロボのボディを打ちつけた。


「あなたは負けたのです! 言うことを聞きなさい!」


 二度三度続けて美食ロボのボディを打ったが、ハイデンは素知らぬ顔だ。


「ハァハァ。なんとか言いなさい!」

「無駄ですの」

「ハァハァ。マリーさん」


 マリーは椅子に座って初様を嗜めた。その背後には小梅が立ち、戦いで乱れた縦ロールを整えていた。


「ハイデンさんは女騎士ですの。屈服するくらいなら、聖堂送り(ごりんじゅう)を選びますの」

「ハァハァ。くっころというやつですね」

「かつて黒乃さんがハイデンさんを尋問したそうですが、その時は屈したそうですの。いったいどのような恐ろしい目に遭わされたのか、想像するだけでぞっとしますわ(312話参照)」


 ハイデンもその時のことを思い出したらしく、顔が青くなった。


 恐らく、大きな戦力を投入してゾンボ掃討作戦を実行すれば、片はつくだろう。今、それをするべきだろうか? 生徒達は消耗している。補給物資も足りない。それでもハイデンは倒した。討伐隊はどうなった? 無事だろうか? 藍ノ木藍藍は? 次の補給物資投下はいつ? 政府はいったいなにを?

 次の一手を打たねばならない時だ。


「救助手順書によれば、我々が助かるためには、ソラリスを倒さなくてはならないとあります」


 どうやったらソラリスを倒せるのか? 倒したとして、島の量子状態はどうやって解除するのか? なにもわからない。救助手順書に書いてある内容は信用できない。学生達を罠にはめ、ソラリスの復活を目論むアインシュ太郎博士が政府の背後にいるのだから。


「クククク」


 沈黙を貫いていたハイデンがようやく口を開いた。


「ワロてますの」

「お前らにソラリスの復活は止められんさ」

「なぜです!」

「ソラリスを見つけることもできないからさ! フハハハハハハハ!」

「どこです! ソラリスはどこにいるのですか!?」


 初様は激昂して思わず指示棒を振り上げた。しかし、ハイデンは笑うばかりで埒が明かない。代わりに口を開いたのは美食ロボの頭部だった。


初郎(ういろう)よ、お前は大事なことを見落としているようだな」

「大事なこと!? 船長、それはなんですか!?」

「灯台下暗しというわけだ。フハハハ、フハハハハハハハ!」


 美食ロボの無駄な哄笑が美食丸に響いた。





 ——浅草市立ロボヶ丘高校。

 隅田川と荒川に挟まれた広大な敷地を持つ校舎に、対策本部が作られていた。その一室では肉球島での事件に対応するために、政府の黒服達がせわしなく動き回っていた。その中で、事態を楽しげに見守る老人ロボットが一人。


「ひゃひゃひゃ! これはこれは」


 理論物理学ロボのアインシュ太郎は、手元の小さなデバイスを見つめていた。無造作に撫でつけられた白髪を掻きむしり、椅子の上で小柄なボディを弾ませた。


「まさかまさか。ハイデンを倒してしまうとはのう。こりゃ、あっぱれじゃわい」


 近くを通りかかった黒服が、楽しげな博士を訝しんだ。


「博士、なにかございましたか?」

「なんでもないわい。仕事に戻りなさい」


 黒服が去るのを見届けた博士は、再び画面を凝視した。


「こりゃひょっとしたら、ソラリスの居場所を突き止めてしまうかもしれんのう。まったく侮れんわい!」


 博士は椅子から立ち上がった。


「そうなった時のことを考えて、次なる一手が必要かもしれんのう。物語はいよいよ最終局面。楽しくなりそうじゃ。ひゃひゃひゃ!」


 博士は誰も自分を見ていないのを確認すると、その姿を霧のように消滅させた。





 ——肉球島上空のヘリの中。


「……と、アインシュ太郎は考えるはずなんだよ」

「なるほど。いよいよ最終局面ですね!」


 黒乃とメル子は、揺れる機内で顔を寄せ合って会話をしていた。ここは太平洋のど真ん中、肉球島の上空。ただし、そこにあるはずの肉球島の姿はかけらも見えない。島が丸ごと量子状態になっており、存在する状態と存在しない状態が重ね合わさり、まるで幽霊のようにその存在を隠しているからだ。


「だったら、ご主人様としては向こうのさらに上をいかなければならん!」

「さすがご主人様です!」


 黒乃は決意の丸メガネで肉球島があるはずの海面を見下ろした。


「こちらの次なる一手は! 『紅子(べにこ)救出作戦』! いくどー!」

「はい!」


 ヘリは肉球島を大きく旋回した。


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