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うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない  作者: ギガントメガ太郎


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520/523

第520話 DYING ROBOT その二十一

 特別合同課外授業二十三日目の昼。

 掌山の城にグレーのモコモコことチャーリーが、いや、チャ王が降り立った。


「ええ!? 嘘でしょ!?」


 鏡乃(みらの)は自分が夢でも見ているのかと思った。毎日のように顔を合わせていたロボット猫、チャーリー。隅田公園で昼寝をしていたチャーリー。メル子の出店でランチを堪能していたチャーリー。抱っこしようと追いかけ回しても、まったく捕まらなかったチャーリー。そのチャーリーが肉球島にいる。

 鏡乃の目に涙が溢れてきた。姉のもとを離れて二十三日。肉球島での生活は、夢の中にいるかのように現実味がなかった。だが今となっては、浅草での生活こそ、夢だったのではないかと疑うようになっていた。チャーリーの存在は、肉球島も浅草もけっして夢ではないことの証明だった。ここにチャーリーがいるはずがない。だが、黒乃だったらここにチャーリーを送り込めるはずだと確信した。


「ニャー」


 ほとんどギガントニャンボット、略してホトニャンの頭部に降り立ったチャーリーは、ハッチを開けて操縦室に入り込もうとした。粘液に覆われてソラリスに乗っ取られているホトニャンは、頭を振って激しく抵抗した。


「ニャー」

「ああ! チャーリーが落とされちゃう! チャーリー!」

「鏡乃山、どうする!?」

「まるお部長! チャーリーはニャンボットのパイロットなんです! チャーリーなら、ニャンボットを操縦できるんです!」

「わかった! 巨大ロボの動きを邪魔すればいいんだな!」


 ちゃんこ部は動き出した。全長十八メートルの巨大ロボの足元には、大量のローションが溜まっていた。なぜこれほど大量のローションが? これはホトニャンを動かすために必要なものなのだ。ゾンボは例外なくローションに取り憑かれている。これだけ巨大なロボットだ。必要なローションも桁違いというわけだ。


「みんな! ローションを掃除するんだ!」

「「ごっちゃんです!」」


 ちゃんこ部は飛び散った鉄板を拾い上げた。それをヘラのようにして、床をすくった。ローションを掻き出す作戦だ。


「俺らもやるぜ!」


 カーリング部は、スウィーパーと呼ばれる氷面をはくブラシでローションを掻いた。野球部は、トンボを使ってグラウンドをならすようにローションを押し出した。ホトニャンは暴れた。頭に止まった蚊を叩き潰すように、手のひらを叩きつけた。チャーリーは紙一重で一撃をかわした。


「ああ!? チャーリーが危ない! チャーリー! まるお部長! チャーリーがピンチです!」

「くそお!」


 まるお部長は丸々としたほっぺを叩いた。ロボット猫があんなにがんばっているのに、我々ができることはローションの掃除だけ。これほど巨大な相手に対し、他になんの策があるというのか。


「一つダケ、方法がありマス!」新弟子ロボが叫んだ。

「なんだ、新弟子ロボ!?」

「弟弟子ロボを変形させマス!」

「その手があったか!」


 弟弟子ロボは皆の前に進み出でて、両手両足を大きく広げた。ちゃんこ部が作った弟弟子ロボには、隠された機能があった。それは、パワードスーツに変形することだ。新弟子ロボの発案で、設計に組み込まれていたのだ(507話参照)。


「ヘンケイヲ カイシ シマス」


 弟弟子ロボの腹が観音開きのようにして開き、空洞が現れた。


「わぁ、すごい! どいてどいて! 鏡乃が乗るね!」


 鏡乃は、乗り込もうとしていた新弟子ロボを押し飛ばし、胴体の中に足を滑り込ませた。両手を通すと扉が閉まり、完全に鏡乃の体を覆った。


「変身! チャンコマン!」


 チャンコマンは動き出した。初めはぎこちない足取りだったが、すぐに走れるようになった。チャンコマンは暴れるホトニャンに突進した。ホトニャンは全長十八メートル、対するチャンコマンはたった二メートルちょい。その差は歴然だ。

 誰もが、蹴り一発でチャンコマンが吹っ飛ばされるのを予想したが、現実は違った。チャンコマンはホトニャンの脚にしがみついて、動きを止めていたのだ。生徒達から大歓声が上がった。


「うおおおおおお!」

「すげえ!」

「チャンコマン!」

「チャンコマン、がんばれー!」


 鏡乃が持つ大相撲パワーが、弟弟子ロボの科学パワーと生徒達の応援によって増幅され、奇跡が起きた。チャンコマンが徐々に、ホトニャンの片足を持ち上げ始めたのだ。


「ふんにょろにょろにょろにょろ! クロちゃんから受け継いだ大相撲パワー! みんなの友情! くらうぽき!」


 ホトニャンのパワーが弱っているのを感じた。ローションの掃除が効果を発揮したようだ。戦車ロボがダメ押しの一発を放った。砲弾は見事ホトニャンの股間に命中し、思わず内股になった。完全にバランスを崩したホトニャンは、仰向けに倒れた。その衝撃で城門は破壊された。


「やった! 今だよ、チャーリー!」

「ニャー」


 チャーリーは、動かなくなったホトニャンの頭部のハッチを前足で器用に開けると、ローションだらけのコクピットに滑り込んだ。スイッチを片っ端からオンにし、操縦桿を握った。コクピットに光が灯り、チャーリーを主人として受け入れた。


『ニャー』


 ホトニャンはゆっくりと立ち上がり、雄叫びを上げた。全身からローションが噴き出てくる。もうゾンボなどではない。ましてや、パチモノでもない。真っ赤な宇宙服を纏った猫型巨大ロボは、掌山の山頂で高らかに片手を突き上げた。


 正義の巨大ロボ、ギガントニャンボットの誕生だ。





 ——豪華客船美食丸。

 船内には混乱と恐怖が渦巻いていた。第二デッキの乗員用船室から溢れ出てきた、百体の乗員ゾンボ。彼らはハイデンに導かれ、船内を闊歩した。粘液に覆われ、唸り声を響かせながら迫りくるゾンボ軍団は、学生達に凍るような恐怖を与えた。


「きゃああああ!」

「逃げろー!」

「ゾンボがくるぞー!」

「ロボットは絶対にゾンボに噛みつかれるなよ! 取り憑かれるぞ!」


 ゾンボはすでに、第五デッキのレストラン街まで迫ってきていた。生徒会長の茶柱初火(ちゃばしらういほ)にできることは、避難誘導だけだった。間もなくゾンボ軍団は、中学生達が暮らす第六デッキに到達する。彼らを船室に籠らせておくべきか、それとも上層へ避難させるべきか。それすらも判断がつかない。


「ハァハァ、茶々姉様」


 第六デッキには医療室があり、大勢の怪我人が収容されている。その中には初様の姉の茶柱茶鈴(ちゃばしらちゃりん)も含まれる。茶々様はハイデンとの戦いで負傷し、動ける状態ではない。


「茶々姉様……茶々姉様……」


 初様はつぶやいた。これは姉を心配しているのか、姉に助けを求めているのか。それすらも自分ではわからない。初様は右の脇腹を押さえた。子供のころからそうだった。なにかあるとここが疼く。


「ここで食い止めますわよ」

「!?」


 初様は驚いて振り向いた。そこには真っ青な顔をしたお嬢様がいた。その横には、決意の表情の小梅がいた。


「マリーさん!?」

「ここから上は生活スペースですの。そこを奪われたら、千名を収容できる余地がなくなりますの」

「それに、ハイデンを倒さなければ船を丸ごと奪われてしまいます。ここでハイデンと戦いましょう!」


 小梅は握り拳を作った。マッチョマスター直伝の空手でハイデンと戦うつもりのようだ。


「無茶です!」

「無茶ではありませんの。ハイデンのボディは戦闘用ではなく、乗員ロボのもの。かつてのような動きはできないはずですの。それに、わたくしも戦いますわよ」

「そんな体でどうやって!?」


 マリーは両手を掲げた。どこからともなく、飛翔音が聞こえてきた。複数の金属製パーツが飛来してきた。それは次々とマリーの体に装着されていった。


「オーホホホホ! お嬢様専用戦闘礼服三型『マリアンマン』で戦いますわよー!」


 金色のバトルスーツを纏ったマリアンマンは、ジェット噴射で宙に浮いた。


「あなた達は中学生です! 戦いは……」


 初様は右脇腹を押さえた。冷たい汗が無限に湧き出てくるようだ。あの時の屈辱が思い出された。第四デッキで初めてハイデンと対峙した、あの時を。


「初様!」

「ゾンボがきます!」

「ハイデンだ!」

「逃げろ! 上の階へ逃げろ!」

「俺らは戦うぜ!」


 勇気ある部活動が残ってくれた。バスケ部、バレー部、家庭科部、書道部、怪盗部。彼らは各々の武器を構えた。


「皆さん……避難を……」


 初様の言葉は誰にも聞こえなかった。もう戦いは始まった。マリアンマンと小梅が、ハイデンに向かっていった。他の部は周囲のゾンボを押さえる役目だ。


 マリアンマンは宙を飛んで上からハイデンに襲いかかった。それと同時に小梅が低空から足を刈りにいった。ハイデンは軽い身のこなしで攻撃を避けると、目にも止まらぬ速さで、カウンターの一撃を二人に与えた。


「ぐう!?」

「やはり強いですのー!」


 戦闘用ではないボディとはいえ、ハイデンの戦闘経験は健在だ。ハイデンは戦闘のプロ。タイトバースでは、騎士団を率いて戦争に明け暮れていた。


「ふふふ、勇者様。バトルスーツの調子が優れぬようで」


 ハイデンは妖艶な笑みを見せた。実際バトルスーツはエネルギー不足なのだ。肉球島では補充する術がないのだから。


「ご心配痛み入りますわー! そちらのボディのお調子はいかがですのー!?」

「貴様らを倒すのにはこれで事足りる!」


 今度はハイデンから攻めた。強烈な突きをマリアンマンに放ったが、間に割って入った小梅がかろうじてそれを受け止めた。


「そのマワシウケ……貴様、マッチョメイドの弟子か?」

「マッチョメイドは私の師範です!」


 小梅はハイデンの腕を掴み、引き寄せつつ、胴体に突きを入れた。


「ならば、絶対に潰さねばならんな!」


 その突きをものともせず、ハイデンは必殺の膝を放った。


「小梅さん!」


 マリアンマンが横から突進したが、力をそらされ、地面に激突した。それに動揺した小梅もハイデンに投げ飛ばされ、マリアンマンの上に重なった。


「マリーさん! 小梅さん!」


 初様はその光景をただ震えて見ていることしかできなかった。周囲にはゾンボと懸命に戦う生徒達がいたが、初様の目には入らなかった。次は自分だ。自分がやらなければならない。震える手で木刀を構えたが、落としてしまった。


「おやおや? お姉様の敵討ちはなさらぬので?」


 初様は慌てて木刀を拾い上げた。自分はなんだ? 生徒会長、剣道部部長、文武両道、才色兼備、秀外恵中、才媛、佳人、美乳。ありとあらゆる美辞麗句を浴びせかけられて育った人間だ。どの言葉も心地はよかったが、特段ほしいものでもなかった。昔も今も、真にほしかった言葉は……。


(うい)はあての妹どすさかい。できますえ」


 その言葉は反射的に初様を動かした。背後には茶柱茶鈴。朱華(しゅか)に支えられ、医療室からやってきていた。姉の言葉は、ガソリンのように妹のエンジンを回した。爆発的な木刀の一撃は、寸分違わずハイデンの首筋を薙ぎ払った。


「なにッ!?」


 ハイデンの頭は宙を舞っていた。視界が激しく回転した。そしてそれは、一人の生徒の手に収まった。


「お? お宝か?」


 黒いマントを羽織り、怪しい仮面を被った怪盗ロボは、ハイデンの頭部を高々と掲げた。


「大将首だ! 正真正銘のお宝だZE!」

「貴様! 離せ! いや、待てよ。貴様はゾンボだな!? ソラリスに取り憑かれているな!? いいぞ! 貴様のボディをよこせ!」

「は? なに言っているんだYO! 俺はゾンボなんかじゃねーZE!」

「いや、そんなはずは……これは命令だ!」

「うるせー! 怪盗ロボ様をゾンボと間違えるような輩は、こうしてくれるZE!」


 怪盗ロボはハイデンの頭部を持って走った。胴体だけで船内をうろついていた美食ロボを見つけると、その恰幅のよいボディにハイデンの頭を乗せた。


「お前には、このボディがお似合いだZE!」

「なにッ!? これは!?」


 美食ロボのボディを得たハイデンは歩き出した。


「なんだこのクソみたいなボディは!? 運動性能が低すぎるし、クソダサいし、体の節々が痛いし、ろくでもない! クズ過ぎる!」


 ハイデンは力を失い倒れた。そこに生徒達が殺到した。


「おらー!」

「てめー!」

「今までよくやってくれたなー!」

「覚悟はできているんだろうなー!」


 生徒達は美食ロボのボディごと、ハイデンを蹴りまくった。


「ぐわぁぁぁぁああ! やめろ! やめてくれ!」

「おらー!」

「くそがー!」

「べっぴんロボの頭に美食ロボのボディはきめぇww」

「うわあああああああッ!」


 こうして、ハイデンは聖堂送り(ごりんじゅう)となった。


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