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うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない  作者: ギガントメガ太郎


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第519話 DYING ROBOT その二十

 特別合同課外授業二十三日目の昼。

 掌山の山頂は、戦場と化していた。火口の中に作られた城の周辺にはゾンボの群れが陣を構えており、城の守りを固めていた。討伐隊はそれを突破するべく、総攻撃を仕掛けた。

 帰宅部部長茶柱江楼(ちゃばしらころ)は発破をかけた。


「城の正門を狙え! 正面突破だ!」

「「おー!」」


 四足歩行の戦車ロボが、城の門に向けて砲弾を放った。薄い鉄板で作られた戸板は、いとも簡単にひしゃげた。そこへ戦車ロボが体当たりを仕掛けようと突進したが、ホッキョクグマゾンボが立ち塞がった。


「江様の戦車ロボをサポートしろ!」

「おうよ!」


 飛び出したのはサバゲ部だ。銃でひたすらホッキョクグマゾンボを撃ちまくった。十メートルを超えるニシキヘビゾンボが迫ってきた。長い体をくねらせ、戦車ロボに巻き付いた。


「くっ!?」

「江様! 動けません!」

「俺達に任せろ!」


 松明を持ってやってきた生物部は、ニシキヘビゾンボの顔付近に炎をちらつかせた。高温でピット器官を刺激されたニシキヘビゾンボは、感覚を狂わされてのたうちまわった。

 次に襲いかかってきたのはロブスターゾンボだ。巨大なハサミを振り回し、暴れ回った。ラーメン部が作った寸胴ロボが、ロブスターを出汁にしようと向かっていったが、ハサミに挟まれて遥か彼方に放り投げられてしまった。


「寸胴ロボー!」

「こっちはズワイガニゾンボだ!」

「うまそう!」


 城の前は大混戦となった。ゾンボは粘液に覆われているため、動きは鈍い。加えて知能も低下している。けっして勝てない相手ではないはずだ。だが、知能の低さからは考えられないほどの連携を見せている。これはハイデンが操っているのか、それともソラリスの共有意識によるものだろうか。生徒達は押され始めていた。


「ごっちゃんです!」


 威勢のいい掛け声が火口に響いた。


「ちゃんこ部だ!」

「ちゃんこ部がきてくれたぞ!」

「待ってたぜ!」


 鏡乃を筆頭に、まるお部長、ふとし、でかお、新弟子ロボ、弟弟子ロボが山頂にたどり着いた。襲いくるゾンボを張り手で吹っ飛ばし、ぶちかましで弾き飛ばし、上手投げで転がした。

 少人数ながら学園最強と名高いちゃんこ部の登場により、戦況は大きく変わった。


「どすこい!」


 鏡乃は、戦車ロボに群がっていたバッタゾンボを吹っ飛ばした。


「江楼ちゃん! 平気!?」

「鏡乃山! おせーぞ! 城門の突破まであと少しなんだ! 手を貸せ!」

「ごっちゃんです!」


 ちゃんこ部は、横一列になり城門に向けて突進した。その勢いの凄まじさに、ゾンボは箒で掃かれたかのように散っていった。


「今だ! 撃て!」


 戦車ロボが砲弾を放った。それは見事城門に炸裂し、大穴を開けた。


「やった! ……あれ?」


 その時、開いた穴から大量の粘液が流れ出してきた。その圧倒的な質量により、城門前の生徒達は、ゾンボもろとも押し流された。


「ぶえっぷ! すっごいヌルヌルする!」

「鏡乃山! 大丈夫か!?」

「まるお部長! 大丈夫です!」


 城門付近は、ロボローションの海になっていた。粘度が高いため、中々流れていかない。皆、足を取られて動きを封じられた。しかし、絶望はこれからだった。


 ドゴオオオオオン。

 爆音と揺れが同時にやってきた。皆、なにが起きたのか、理解するのに時間を要した。城の前に巨大ななにかが立っていたのだ。あまりの大きさ故、その先端を見ようと背筋を反らした者は、ローションで足を滑らせ仰向けにひっくり返った。

 それは全長十八メートルの巨大なロボットであった。真っ赤な宇宙服を纏ったネコ型巨大ロボ。夕方に放送をしている子供向けアニメに出てくる、正義の巨大ロボにそっくりであった。


「ええ!? これって!?」

「これは! ギガントニャンボットだ!」

「でも、なんか微妙に違うぞ!?」


 そう、これはギガントニャンボットを模して作られた、ほとんどギガントニャンボット、略して『ホトニャン』なのだ(348話参照)。かつてハルが製造し、鏡乃達が乗り、黒乃が操縦する『美食の巨人』と戦いを繰り広げた。

 そしてホトニャンは、粘液に覆われていた。


「嘘でしょ……ホトニャンがソラリスに乗っ取られているよ! ゾンボになってる!」


 鏡乃は震えた。この島にきて、始めて絶望したと言っていいかもしれない。操縦手の鏡乃だからこそわかることがある。ホトニャンはパチモノとはいえ、戦闘兵器。そこらのゾンボとはわけが違う。その大きさも、運動性能も、搭載している兵器も、なにもかもが違う。

 生徒達も立ち尽くした。誰もが悟った。最初から勝てる戦ではなかったことを。


 カァン。金属音が響いた。その音の軽さに絶望はますます深まった。戦車ロボの放った砲弾が、ホトニャンの胸に命中した音だった。


 ホトニャンが動き出した。操縦士がおらず、ソラリスに乗っ取られているため、本来の性能とは程遠いが、その一撃は生徒達の戦意を挫くのには充分だった。振り下ろした拳が、金属製の床に大穴を開け、周囲にいたものはゾンボを含めてまとめて吹っ飛んだ。


「江楼しゃま、撤退しゅましょう」

「……」

「江楼しゃま、江楼しゃま」


 鏡乃もローションの中に立ち尽くしていた。ただ、巨大ロボを見上げるばかりだ。


「鏡乃山! もう無理だ! 逃げるぜ!」

「退散ッス!」

「引くッス!」


 鏡乃は呆然と城を見上げていた。


「まるお部長……」

「なんだ!? どうした!?」

「あれを見てください……」


 鏡乃は震える指で城の上をさした。ゴシック様式の尖塔の上に、なにかがいるのだ。皆が指をさした。それは飛んだ。それはまるで太陽のように、霧で見えないはずのお日様のように光り輝いて見えた。


「ニャー」


 グレーのモコモコした塊は、ホトニャンの頭部に着地を決めた。


「チャーリー!?」





 ——豪華客船美食丸。

 第十一デッキのオープンデッキに、なにかが投下された。


「なんだ!? 爆弾か!?」


 オープンデッキにいた生徒達は、いっせいに伏せた。投下物は爆発はしなかったものの、生徒達に大きな衝撃を与えた。それはロボットのパーツであった。手、足、頭部、胴体にわかれた部品は、音を立てて甲板に転がった。


「なんだ!?」

「ロボットのパーツだ!」

「女性型ロボットだぞ!」


 生徒達は遠巻きにそれを見ていたが、やがて恐る恐る近づいていった。


「下がりなさい!」

「初様!?」


 生徒会長の茶柱初火(ちゃばしらういほ)が、甲板に走り出てきた。背後には剣道部と薙刀部が武器を構えて続いた。


「それはハイデンです! 危険です! 下がりなさい!」


 甲板に放り出された手足のパーツが、跳ねるように動き出した。頭部が転がり、初様を睨みつけた。その頭部には、先日の茶柱茶鈴(ちゃばしらちゃりん)との戦いで受けた損傷が、生々しく残っていた。


「ハイデン! なにをしにきましたか!?」


 ハイデンの頭部は、初様の震える足を見ると、床に転がった状態で不気味に笑った。


「おっと。これはこれは臆病者の生徒会長殿。姉上はお元気ですかな?」

「なにをしにきたと聞いています!」


 初様は木刀を構えた。


「うちの城に、生徒会長殿の妹君が遊びにきているようなのでね。代わりに、私は船に遊びにきたというわけですよ」

「ふざけているのですか!?」

「キャー!」


 初様の背後で、生徒が悲鳴を上げた。甲板のあちらこちらで騒ぎが始まっていた。頭部と会話している隙に、手足のパーツが動き回っていたのだ。


「くっ! ハイデンのパーツを破壊しなさい!」


 その指示は遅かった。すでに各パーツは生徒達の合間を掻い潜り、船内に侵入していたのだ。頭部も目を離した隙に消えていた。


「放送部! 緊急放送です! 中学生は全員客室に避難! 指示を受けた部は、指定の階層を捜索してください! 負傷しているとはいえ、ハイデンは強敵です! うかつに手を出さないように!」


 すぐさま船内は厳戒態勢に入った。



 ハイデンの頭部は、蛇のようにうねって進む腕のパーツに髪の毛を引っ張られて廊下を進んでいた。

 実は、ハイデンにとっても船への潜入は苦肉の策だった。茶々様との戦いで受けた損傷は著しく、包括的に手足を制御するための機構が完全に破壊されてしまった。故に、手足のパーツがバラバラなのだ。


「あの小娘。これを狙って必殺の一撃を打ち込んだというのか」


 ハイデンは茶々様との戦闘を思い起こして震えた。


「だが、奴にも重症を与えた。ロボットとは違い、脆弱な人間はあの傷ではもう動けまい」


 だからこそ、江様達が出陣し、手薄になった船を狙うのが定石であった。


「ククク。あそこにいけば、肉球島では作れない高度なボディが手に入る」


 ハイデンは空調用のダクトに潜り込んだ。パーツに分解されているので、入り込むのは簡単だ。ダクトの中にはオープンデッキのプールから流れ込んだローションが残っており、滑りもよい。

 ハイデンが目指しているのは、第二デッキの乗員用船室だ。美食丸の乗員ロボ百名は、ローションによって侵食されゾンボと化しており、第二デッキに閉じ込められている。彼らのボディを奪えばよいのだ。都合がいいことに、ゾンボの肉体はソラリスの粘液で覆われている。制御は容易い。


「ククク。ここだ」


 ハイデンはダクトから、部屋の中へ転げ落ちた。



 初様は走っていた。ハイデンがいきそうな場所は限られている。その中で、最も入られてはいけないのがここだ。


「奴の狙いは第二デッキです!」


 ゾンボが出てこないように防柵で封鎖された扉を守っていた卓球部は、ぞろぞろと階段を下りてくる一行に驚いた。


「初様!?」

「ここは無事ですか!?」

「はい!」


 無事ではなかった。扉の向こう側からは唸り声が聞こえる。その声は徐々に大きくなり、扉が激しく打ち鳴らされた。


「うわわわわわ!? 初様!?」

「バリケードを……」


 扉に亀裂が入った。どうやら大量のゾンボがなにかを使って扉を叩いているようだ。知能が低いゾンボにはできない芸当だ。これはもちろん、ハイデンが指示をしてやらせているのだ。

 とうとう扉が破られた。防柵の向こう側に、ハイデンの光る目が見えた。ゾンボ達が、生者を捉えようと腕を伸ばした。


「撤退! 第二デッキは捨てます! 撤退!」


 百体のゾンボが溢れ出てきた。粘液に覆われ生気を失ったロボットに囲まれて、ハイデンが悠然と歩いてきた。


「ふん。戦闘用のボディではないが、悪くはない」


 乗員ロボの胴体を乗っ取ったハイデンは、防柵を蹴り飛ばした。


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