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うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない  作者: ギガントメガ太郎


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第514話 DYING ROBOT その十五

 特別合同課外授業十八日目の夜。

 船内に敷かれていた緊急事態宣言は解除された。船室に閉じ込められていた生徒達は、息を吹き返したかのように生き生きと船内を動き回った。今宵は宴の様相を呈していた。補給物資が次々と送られてきたからだ。そして、明日への壮行会でもある。


「みんな! 明日は気合いを入れていくぜ!」

「「ごっちゃんです!」」


 まるお部長の掛け声で、プラスチック製のカップが打ち合わされた。第五デッキのレストラン街にあるちゃんこ屋では、パーティーが開かれていた。ちょっとした飲み物、ちょっとしたつまみ、そして、クズ野菜だらけのちゃんこ鍋。今できる最高の贅沢だ。


 明日、ちゃんこ部は肉球島に遠征を行う。補給物資を獲得するためだ。ゾンボが蔓延る島内に侵入し、コンテナを探し当て、物資を持ち帰らなくてはならない。船内は食糧危機にある。誰かが危険を冒す必要がある。

 いくつかの部活動が名乗り出た。体力に自信のある陸上部、機動力は誰にも負けない自転車部、圧倒的破壊力を誇る戦車部、武装したサバゲ部、新聞配達で鍛えた脚が自慢の新聞部。そして、我らがちゃんこ部。

 勇気のある中学生達も名乗りを上げたが、彼らには船内のインフラの維持という重要な役割があるという名目で見送られた。危険に晒されるのは上級生の役目だ。


「鏡乃山! これ食え!」

「まるお部長! 一口しかない鶏肉をいいんですか!?」

「気にするな! 食え!」

「ごっちゃんです!」


 生徒会長茶柱初火(ちゃばしらういほ)により、獲得した補給物資は生徒会執行部が一元管理するという取り決めがなされている。これには多くの部が反発した。リスクに対して、見返りがなにもないからだ。とはいえ、物資を獲得したものがそれを独占してしまったのでは、弱肉強食の社会ができあがってしまうだろう。それは避けたい。


 現状、船内は三つの勢力に分かれている。

 一つは生徒会長茶柱初火率いる生徒会連合。生徒会執行部と武道系の部を中心に、秩序を重んじる部活動が加盟している。

 一つは帰宅部部長茶柱江楼(ちゃばしらころ)率いる帰宅部連合。生徒会執行部に反発するものを寄せ集めた、自由を求める連中だ。

 一つは中学生連合。マリー・マリーを軸に、船内のインフラを牛耳る。中立の立場であり、彼らの結束は固い。


 この状況の中、獲得した物資を誰がどのように管理するか? この問題は生徒会長を大いに悩ませた。


肉球(ポー)コインで、買うたらええんちゃいますか?」


 そう言ったのは、茶道部部長にして前生徒会長の茶柱茶鈴(ちゃばしらちゃりん)だ。船内には元々、ポーを中心とした経済が回っていた。補給物資を、その輪の中に組み込もうという大胆な考えだ。部が島に入り補給物資を持ち帰る。それを生徒会執行部が、ポーを支払って買い取る形だ。あとは経済が動くに任せる。


「無理をして支配するよりも、生徒達の自主性に任す方が、うもういきますえ。元々、そないな趣旨の授業どすさかい」

「自主性……」


 この案は直ちに採用され、全生徒に通達された。



 ——第十二デッキ。会議室。


 深夜。生徒会執行部のお隣の部屋の会議室では、数学部と電算部が必死に解読作業をしていた。


「お疲れ様ですの。お調子はいかがですの?」


 金髪縦ロール、シャルルペロードレスのお嬢様マリーは、モニタを覗き込んだ。船内には電子機器の持ち込みが厳しく制限されていて、出航時に没収されていたのだが、部活動の必須道具としての持ち込みは許可されている。電算部が持つコンピュータは、船内に存在する数少ない貴重な電子機器だ。


「解析中です。ですが、これは暗号化ではありませんね」数学部が言った。


 彼らが挑んでいるのは、ちゃんこ部が手に入れた『救助手順書』と書かれていると思しき冊子の解読だ。どういうわけか、救援物資はすべてズタボロの状態で島に送られており、特に電子機器や文字はまったく用をなさない有様だった。


「文字というか、物質が原子単位で乱れています。これを復元するのは不可能ですが、予測はできるかもしれません」

「……やってくれますの?」

「お任せください。難問に挑むのは我々の日常です」


 数学部が理論を組み立て、電算部がそれをコード化する。成功するかどうかはわからないが、挑む価値はあるはずだ。


「救助手順書というくらいですから、救助までには、いくつかのステップを踏まないといけませんの。本来ならば、救助船やらなにやらが、助けにくれば済む話ですの。でもそれができないから、手順が必要なんですの。なぜ助けがこられないのか? どうすれば助けがこられる状態になるのか? そしてなにより、どうしたら連絡が取れるようになるのかが大事ですの」

「なるほど、なるほどー! さすが、マリーちゃんです!」


 小梅は長いポニーテールを揺らして感心した。


「わたくしは、紅子さんがヒントになっていると思いますの。紅子さんは霧に吸い込まれるようにして消えたと、朱華さんがおっしゃっておりましたの。紅子さんは量子人間……救援物資には原子の……乱れ……」


 マリーの体がよろめいた。慌てて小梅が背後から支えた。


「マリーちゃん!? 大丈夫ですか!?」

「大丈夫ですの……寝不足なだけですの……問題ありませんの……」


 マリーの顔は青く、心なしか縦ロールも燻んで見えた。小梅は腕にかかるマリーの軽さを感じて二度驚いた。


「こんな小さい体で、無茶しすぎですよ」


 小梅はマリーをお姫様抱っこ、いやお嬢様抱っこして会議室をあとにした。





 特別合同課外授業十九日目の朝。

 ちゃんこ部は美食丸を降り、霧が立ち込める港にいた。周囲には遠征に参加する部活動が勢揃いしており、後ろを振り返れば、デッキから手を振る生徒達の姿が見えた。皆、遠征に向かう勇者達を祝福してくれているようだ。


「フンスフンス! はー、どすこいどすこい!」


 鏡乃は白ティーをはためかせて四股を踏んでいた。


「鏡乃山サン! 気合が入っていマスね!」


 新弟子ロボはそれを頼もしげに見た。


「うん! 他のどの部よりも、たくさん物資を持って帰るから! みんなもがんばろうね! フンスフンス!」


 間もなく遠征開始の時刻だ。先日の最初の遠征の時とは違う。今思えば、あれは無謀だった。助けがきたことに我を忘れ、なんの準備もせずに突っ走ってしまった。怪我人もなく帰ってこられたのは幸運だった。今回の遠征は違う。しっかりと準備を整えての出発だ。

 まず、すべての部に用意されたのが発煙筒だ。これは美食丸の備品で、緊急用、連絡用など、用途によって使い分ける。次に物資運搬用の担架、ロープ、袋、そして武器が支給された。武器とはいっても護身用のもので、ゾンボに通用するのかは不明だ。


 救援物資が投下されたのは昨日だ。島全域に、複数のコンテナが投下されたのが確認されている。みんなでゾロゾロと一箇所に集まっていては、物資回収の効率が悪いし、ゾンボが集まってきやすい。かといって、あまり遠くまで赴くのは危険が大きい。

 参加する部活動同士で話し合い、どの辺りを探索するかの分担が決められた。機動力、攻撃力、防御力、運搬力、すべてにおいて優れている戦車部に、最も遠いエリアが割り当てられた。機動力は低いが、戦闘力と運搬力に優れるちゃんこ部は、島の西側のエリアを任された。戦闘力の低い部活は、港近辺の森の中を重点的に捜索する計画だ。


「フンスフンス! あと一分で出発! あれ? スンスンスン! 抹茶ラテの匂い! あ!?」


 鏡乃は見た。アメリカの戦車パットンのキューポラから頭を出している、白髪の女生徒を。


「あれ!? 茶鈴先輩!? スンスンスン! 茶鈴先輩だ! こんにちは! 茶鈴先輩も遠征に参加するんですか!?」


 茶々様は桜吹雪の扇子で首元を扇いだ。


「戦車の中は暑苦しおしてかなわしまへんなあ」

「どうして、茶鈴先輩が戦車に乗っているんですか!?」

「あても遠征に参加してみとうなっただけどす。森の中を歩くのんは疲れるさかい、戦車部に頼んだんどす」

「ええ!? すごい! 気をつけていってきてください!」

「そらどうも……え? ふんふん。鏡乃はんも気ぃつけとぉくれやす」

「ごっちゃんです!」



 出発の時刻がやってきた。デッキからの大歓声に見送られながら、遠征隊は動き出した。戦車部が景気付けの一発を放った。それは見事、港に侵入してきたバイソンロボに命中した。

 しばらくは戦車部のパットンと戦車ロボが先頭となり、一列になって進んだ。相変わらず森の中には霧が充満しており、いつどこからゾンボが現れるのか見当もつかない。


「怖いッス!」でかおは怯えた。

「イザとなっタラ、ゾンボは弟弟子ロボが倒してくれマスよ!」新弟子ロボは自分が手塩にかけて作ったロボットに、全幅の信頼を寄せているようだ。

「ゴッチャンデス オマカセ クダサイ」弟弟子ロボは巨体で地面を揺らしながら歩いた。


 森の中を進むと、分かれ道にやってきた。ちゃんこ部はここで皆とは違うルートに進む。戦車の無限軌道の音が遠ざかって聞こえなくなり、代わりに耳に入ってくるのは木々が擦れる音だけだ。風か、動物か、はたまたゾンボか。とにかくなにかが動いている。恐怖により、ちゃんこ部の歩みは重くなった。それでも彼らは進んだ。


「この辺りのはずだぜ」


 事前の情報から換算された座標にたどり着いた。霧はますます深くなり、パラシュートの残骸も、コンテナの影もまるで見えない。


「静かに! なにか聞こえるよ!」


 鏡乃は耳をそばだてた。甲高い声が複数聞こえる。動物の群れだ。避けるべきと思ったが、なにやら嫌な予感が鏡乃の丸メガネをよぎった。


「まるお部長、いってみましょう」

「わかった」


 息を殺し、音を立てないようにすり足で近づく。日頃の稽古の賜物だ。そしてとうとう物資を発見した。


「ええ!? 嘘でしょ!?」

「なんだあいつら!?」


 ちゃんこ部は驚愕の光景を目にした。コンテナにモンキーゾンボの群れが群がっていたのだ。扉を開け、中からボックスを運び出していた。


「物資が! ボックスが持っていかれちゃうよ!」

「なんでゾンボが補給物資を!? 奪われるわけにはいかねえ! みんな! 戦うぞ!」

「「ごっちゃんです!」」


 こちらに気がついたモンキーゾンボは、叫び声を上げた。いっせいに木の枝に飛び乗り姿を隠した。霧の中から鳴き声だけが響いてくる。


「囲まれたッス!」

「どこから襲ってくるのかわからないッス!」

「みんな! 土俵入りだ!」

「「ごっちゃんです!」」


 まるお部長の指示により、ちゃんこ部六人は直径4.55メートルの円を描くようにして陣取った。円の中心に背を向け、どこから襲われても対応できる形だ。すぐさまモンキーゾンボが木の上から飛びかかってきた。鏡乃は正面からそれを迎え撃つと、渾身の張り手により撃墜した。


「ぽきゅー! もきゅー! どんどんかかってくるにょり!」


 次々に飛びかかってくるゾンボ達を、ちゃんこ部はぶつかり稽古のように、千切っては投げ捨てた。そのうちかなわないと悟ったのか、その鳴き声は霧の奥へと消えていった。


「ハァハァ、ヤリマシタ! 弟弟子ロボ! 無事デスか!?」

「モンダイ アリマセン」


 鏡乃はコンテナに駆け込んだ。昨日と同じプラスチック製のボックスが散乱していた。いくつかはゾンボに持ち去られてしまったようだが、それでもまだまだたくさんある。中には蓋を開けられているボックスもあった。

 ここでふとしが、コンテナを発見したことを示す発煙筒を焚いた。


「大量ッス!」

「やったッス!」

「大収穫だぜ!」

「運び出しまショウ!」


 部員達が運搬の作業に入る中、鏡乃は開けられたボックスを見て震えていた。


「鏡乃山、どうした!?」

「うう……うう……!」


 鏡乃は泣いていた。なにかをボックスから拾い上げた。


「なんだ? 白ティーか!? それがどうしたんだ!?」

「うう……これクロちゃんの白ティー……ボロボロだけど匂いでわかる……スンスンスン」

「ええ!? 黒乃山の!?」


 鏡乃はもう一枚、見慣れたドレスを取り上げた。


「こっちはアンキモのシャルルペロードレス……やっぱり、クロちゃんが鏡乃達を助けようとしてくれているんだ!」


 鏡乃は姉の白ティーに顔をうずめて泣いた。姉も今、全力で戦っている。それを確信した。



 こうしてちゃんこ部は無事、美食丸に帰還した。多くの部活が多くの成果を上げた。船内はお祭り騒ぎになったが、二つ問題があった。

 一つは茶々様が搭乗した戦車が、行方不明になったこと。

 もう一つは朱華が行方不明になったこと。


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