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第51話 ロボット大運動会です! その三

 ランチタイムが終わり、穏やかな空気が一変、戦いの前の静けさへと転調した。勝利の栄光はいったい誰が掴むのか。観客の胸は期待で踊った。


『秋のロボット大運動会ー! 午後の部が始まろうとしていまァす。改めまして、音楽ロボのエルビス・プレス林太郎でェす』

『おっぱいロボのギガントメガ太郎です。よろしくお願いします』

『午前の部の結果は、

 一位、サッカーロボのディエゴ・マラドー夏の介ペア、

 二位、ボクシングロボのモハメド・有田ペア、

 三位、マリーペアとなっていまァす』

『マリーペアの活躍が目覚ましいですね。ちなみに、黒乃ペアは競技ポイントゼロで最下位です。立派なのはおっぱいだけではないところを見せてもらいたいですね』



「ふあー、なんか寝たらすごい調子よくなったよ」

「それはよかったです」

「でもマリーとアン子が増えるっていう、めちゃ怖い夢見たんだよね」

「マリーちゃんとアン子さんが増えるなんて、あるわけがないですよ」

「ハハハ、そりゃそうか。さあ午後の競技頑張るよ!」

「はい!」


 人間とロボットの熾烈な戦いが繰り広げられた……。



 ——最終種目、ローションドッヂボール。


 ローションドッヂボールは、ロボローションがたっぷりと張られたコート内で行うドッヂボールだ。四つのペアがチームを組んで戦う。つまり八対八の試合だ。


 黒乃チームは、黒乃ペア、モハメド・有田ペア、マッチョメイドロボペア、ゴリラロボペアの組み合わせだ。

 マリーチームは、マリーペア、ディエゴ・マラドー夏の介ペア、大相撲ロボペア、将棋ロボペアの組み合わせである。


「よし! みんな聞け! 敵はサッカーロボと大相撲ロボが要だ。他は雑魚、相手にしなくていい。こっちはボクシング、マッチョメイド、ゴリラのマスターが外野スタートでいく。気合い入れろ!」

「「おー!」」「ウホ」

「なぜご主人様が仕切っているのですか……最下位チームなのに」


 ピー!という笛の音とともに、試合が始まった。観客から大きな歓声があがる。


『最終種目が始まりましたァ! 黒乃チームボールでスタートでェす!』

『この戦いで優勝チームが決まるので、頑張ってほしいですね』


 黒乃はボールを持ち、相手チームを窺った。マリー、アンテロッテ、ディエゴ・マラドー夏の介、大相撲ロボ、将棋ロボの誰を狙うか慎重に見定める。

 黒乃はボールを片手で握り、勢いをつけて前へ駆けた。


「まず狙うのはマリーだ!」

「さすがご主人様! 一番か弱い子を狙うとは!」

「メル子のおっぱいをしゃぶった恨み、思いしれ!」


 しかし、当たり前のようにコートにぶちまけられたロボローションに足を取られ、すっ転ぶ。その拍子で、ボールは相手コートへ転がった。


「チクショー!」


 ディエゴ・マラドー夏の介が自陣に転がってきたボールを蹴り飛ばした。すさまじい勢いで迫りくるボールを、モハメド・有田が蝶のように舞い避ける。


『激しいボールの応酬でェす! あー! ボールがメル子選手に襲いかかるゥ!』


「危ないメル子!」黒乃がメル子とボールの間に割って入ろうとするも、ロボローションで滑りコートを滑走した。

 ロボローションまみれのボールがメル子の乳にヒットする。


『あー! これは痛ァい! おっぱいにクリーンヒットだァー!』

『ブルンブルンと素晴らしい揺れです。おっぱいポイント五百点追加です』


 メル子の乳で跳ね返ったボールを、マッチョメイドが見事にキャッチした。


「マッチョメイド! 助かりました!」

「おで メル子 まもる」

「マッチョメイド! ボールを投げるのです!」


 マッチョメイドがボールを思い切りぶん投げた。すると、マッチョメイドのすぐ前にいたゴリラロボの後頭部にヒットした。ゴリラロボはズンと倒れ、動かなくなった。


『マッチョメイドが味方のゴリラロボを破壊ィ! やはり筋力にステータスを振った分、知力が足りなかったかァ!』


「マッチョメイド、なにをしているのですか!?」

「おで やくたたず ごめん」

「あー、泣かないでマッチョメイド、平気だから」


 メル子がマッチョメイドの頭を撫でる。客席からパチパチと拍手が巻き起こった。


『美しい百合シーンです。百合ポイント百点追加です』

「ゴツい百合シーンだなぁ」黒乃は呆気に取られた。


 黒乃はボールを受け取った。


「私に作戦がある!」黒乃は両手でボールを上下から挟み込んだ。腕を伸ばし、体をコートの左側に向ける。


「さあ、モハメド・有田! やれ!」


 モハメド・有田は蜂のようなパンチを繰り出した。それはボールの芯を捉え、大砲のように黒乃の手から飛び出した。

 ボールはディエゴ・マラドー夏の介と将棋ロボを、ビリヤードの様に次々と弾き飛ばした。


『これは見事な連携だァ!』

『漫画みたいですね』


 大相撲ロボがボールを拾い力強く投げた。マッチョメイドがいとも簡単にそれを受け止めた。


「やりました。すごいです、マッチョメイド!」

「おで つよい メル子 ほめる」

「よくやった、マッチョメイド! でもお前が投げるとまた誤爆するから、ボール貸して!」


 先程と同じように、黒乃がボールを手に持ち、モハメド・有田が打つ作戦だ。


「いけー! モハメド・有田!」

「ここに 百円 おちてる おで ひろう」


 モハメド・有田が拳を繰り出した瞬間、マッチョメイドが百円玉を拾おうとして間に入り込みしゃがんだ。マッチョメイドの顔面に拳が炸裂し、ロボローションの上をコートの外まで滑りリタイアした。


「マッチョメイドー!」

「メル子 おで がんばった でもここまで メル子 ぜったいかつ」

「絶対に勝ちます! 約束です!」


 客に拍手で見送られ、マッチョメイドは担架で運ばれていった。


『友情でェす。乙女同士の友情が生まれましたァ!』

『尊いですね。百合ポイント百点追加です』

「マッチョメイドって乙女だったのか(笑)」黒乃は呆然と見送った。


 ボールはマリーに渡った。マリーが勢いをつけて投げようとするが、ロボローションに滑り転んでしまった。


「お嬢様、大丈夫ですのー!?」


 駆けつけようとしたアンテロッテもロボローションで滑り、二人組んず解れつで絡み合ってしまった。


「ヌルヌルですわー!」

「テカテカですわー!」


 観客から大歓声があがった。


『出ましたァ! 皆さんお待ちかねの百合スポットォ!』

『ありがとうございます。もちろん百合ポイント三百点追加です』


 大相撲ロボがボールを拾った。そして渾身の力で投げる。ボールはすさまじい威力でモハメド・有田を襲った。


「有田、逃げろー!」黒乃が叫んだ。


 有田は逃げなかった。逆に飛んでくるボールに右ストレートでカウンターを取りにいった。拳は確実にボールを捉えたが、有田はその衝撃に耐えられず、コートの外に吹き飛ばされてしまった。


「有田ー!」


 右ストレートによって跳ね返されたボールは一直線に飛び、大相撲ロボの腹に命中した。


『大相撲ロボに命中だァ! これは決まったかァー!?』


 しかし大相撲ロボの腹にめり込んだボールは、その弾力によりさらに倍の威力で撃ち返された。殺人ボールがメル子を襲う!


「危ない!」黒乃がメル子の前に立ち塞がった。両手を広げ、その胸でボールを受け止めた。


「うおおおおお!」

「ご主人様ー!」


 黒乃のメル子を守るという気持ちと、その胸の絶壁が相互作用を起こし、奇跡を産んだ。

 ボールの回転エネルギーが、黒乃の体に染み込んだロボローションを通して地面のロボローションに伝わり、ロボローションが竜巻のように舞い上がった。ロボット達の戦いによって、ロボローションが荷電していたのだ。

 回転によって強力な磁場が発生し、竜巻ローションはボールを巻き込み天高く打ち上がる。そして大量の荷電ローションとともに大相撲ロボに降り注いだのだ。

 さすがの大相撲ロボもこの天変地異にはなす術なく、地面に倒れるしかなかった。


『なんということだァ! 奇跡のカウンターの応酬により、黒乃、大相撲ロボ、両者同時KO!』

『うーん、本来貧乳にはおっぱいポイントは付かないんですが、今回は奇跡ということで、おっぱいポイント千点追加です』


 メル子は倒れた黒乃に駆け寄った。ロボローションまみれの黒乃の頭を抱き起こした。


「メル子、後は頼んだよ。ガクッ」

「ご主人様ー!」


 メル子はボールを掴んで立ち上がった。コートに残ったマリーとアンテロッテに対峙する。


「絶対に……勝ちます!」

「望むところですわー!」

「かかってこいですわー!」


 しかし二対一ではどうしようもなく、普通にメル子は負けた。ローションまみれの金髪美少女達のキャットファイトに、今日一番の声援が送られた。



 ——閉会式。


『すべての競技が終了しましたァ。ギガントメガ太郎先生ェ、いかがだったでしょうかァ?』

『素晴らしい戦いと、素晴らしいおっぱいでした。私はロボット運動会を通して、この人間とロボットの社会の縮図を見ました。

 人間とロボットとの信頼なくして、この社会は成り立ちません。ロボットは人間の道具として生まれました。その本質は今でも変わっていません。今なおロボットは人間の道具なのです。

 しかしロボットと他の道具を区別するものはなんでしょうか? AIでしょうか? 人権でしょうか? 値段でしょうか?

 どれでもありません。それは「愛」です。愛がそこにあるかどうかなのです。取るに足らない道具でも、そこに愛があるのなら、それが人間のパートナーたらしめるのです。

 今日はそのことを改めて認識させられました。彼女達の愛がそこにあるから、彼女達は美しい。人間とロボットの社会がその美しさで輝くことを祈ります。

 皆様、大変お疲れ様でした』

『お疲れ様でしたァ!』



 ——競技結果。


一位、黒乃ペア。競技ポイント0、おっぱいポイント5000、百合ポイント1000。

二位、マリーペア。競技ポイント100、おっぱいポイント100、百合ポイント3000。

三位、ディエゴ・マラドー夏の介ペア。競技ポイント500

四位、有田ペア。競技ポイント450

五位、マッチョメイドペア。競技ポイント200、百合ポイント200


 優勝賞品。

・米一年分

・ロボローション一年分

・補修用ナノペースト一年分

・ギガントメガ太郎先生のサイン色紙一年分


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