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うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない  作者: ギガントメガ太郎


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第490話 ご奉仕します!

 十月の朝。豪壮なる浅草寺のお隣。ずいぶんと落ち着いた佇まいを見せるこの神社は、浅草神社、通称三社(さんじゃ)様という。

 浅草寺と比べ、規模も参拝客もこじんまりとしたその神社は、観光客で溢れる浅草の中で、結界が張られているかのような静謐さを湛えていた。

 その境内に、白ティー丸メガネ黒髪おさげののっぽ女性と、白い和風メイド服の金髪巨乳メイドロボがいた。


「ねえねえ、こんな朝からなんなのよ」

「そうですよ。我々はこれから、ラーメン大好きメル子さんの収録にいくところだったのですよ?」


 不満を漏らす二人に、褐色肌の美女二人組が、鋭い視線を投げかけた。


「黒乃山、これは大事なご奉仕だ。ラーメン食ってる場合ではないだろ」


 ベリーショートの黒髪に、パツパツのスポブラとスパッツで身を包んだ美女マヒナは黒乃を責めた。


「メル子。今日は厳粛な儀式が行われます。ラーメンはあとにしなさい」


 片目が隠れたベリーショートの黒髪に、ナース服ベースのメイド服を纏ったメイドロボのノエノエはメル子を嗜めた。

 マヒナとノエノエは、地面に跪いた。仕方なく、黒乃とメル子も地に膝をつけた。すると、本殿の戸が勢いよくぶち開けられた。


佇立(ちょりっす)佇立(ちょりーっす)武夷(ぶい)武夷(ぶい)


 戸から現れたのは、巫女装束ベースのメイド服を纏ったメイドロボ、サージャだ。目元をキラキラさせたギャルメイクと、ド派手なネイルでVサインを決めた。


「サージャ様!」

「サージャ様!」


 マヒナとノエノエはこうべを垂れた。このサージャ、こう見えてとても偉い。浅草神社の御神体ロボとして、浅草の平和を見守る由緒正しいロボットだ。この場の誰よりも長生きしている。


「えへえへ、サージャ様。今日はなにをするんですか?」

「サージャ様! ちゃっちゃと終わらせて、ラーメンを食べにいきましょうよ!」

「お〜、黒ピッピにメルピッピ。(うぇい)(うぇい)。元気してた?」


 サージャは本殿の階段を下り、黒乃と同じ地面に降り立った。跪く四人の頭を順番に撫でた。


「今日はね、御神体ロボとして、浅草のみんなにご奉仕にいくんよね。マジうけるwww」


 ケタケタと笑う巫女を、呆然と見上げる黒乃とメル子。


「ご奉仕!? サージャ様がメイドのご奉仕をするんですか!? うそー!?」

「こら、黒乃山。サージャ様に無礼だぞ!」マヒナは冷や汗を垂らした。

「神職に就くことを就職ではなく『奉職』、そのお仕事を勤務ではなく『奉仕』と言います」ノエノエが説明を添えた。

「ほえ〜」

「さあ! いくよ! 昇歩様(あげぽよ)ー!」


 サージャは歩き出した。四人は立ち上がり、そのあとを追いかけた。


「ほら、黒乃山。これを持て」

「なにこれ!?」


 マヒナが手渡したのは、短い棒の先に規則正しく鈴が取り付けられた、神楽鈴(かぐらすず)という道具だ。


「ああ、知ってる! 巫女さんがシャンシャン鳴らすやつだ!」


 黒乃は無邪気に鈴を鳴らしまくった。


「メル子はこれを持ちなさい」

「なんですか、これは!?」


 ノエノエが手渡したのは、竹製の笛だ。神楽笛(かぐらぶえ)と呼ばれる六穴の楽器だ。


「巫女さんが吹くものですね!」


 マヒナは拍子木(ひょうしぎ)を、ノエノエは小太鼓を構えた。


「それ!」


 サージャの掛け声とともに、楽器が打ち鳴らされた。

 ポン、ポポポン。シャンシャン。カンカンカン。ピーヒョロロロロー。

 ちぐはぐながらも、聞き覚えのある音の重なりは、不思議な雅さを生み出していた。


「あはは、あはは! これ、なんかたーのしー!」

「ご主人様! 愉快ですね!」


 巫女を先頭に、珍妙な一行が楽器を鳴らしながら通りを練り歩いた。

 シャンシャン。ポンポン。ピョロロロー。カンカン。

 雅な一行に驚いた人々は、巫女に道を譲った。


「はっはっは。皆の衆、元気かな?」

「巫女様じゃ〜。ありがたや〜ありがたや〜」


 老女が御神体ロボに手を合わせて拝んだ。


「おー、雛ピッピ。娘さんは元気?」

「サージャ様のおかげで、病気は治りまして〜、孫まで生まれました〜。ありがたや〜」

「もう、そんな昔のことだっけ? マジ伽杯(きゃぱい)www」


 カンカンカン。ポンポポン。シャンシャン。ヒョロロロロピー。

 さらに練り歩く。仲見世通りに入ると、人ごみが海を割るかのように左右に分かれた。


「やあやあ、皆の衆。お疲れちゃん、お疲れちゃん」

「サージャ様 おだんご もっていく」


 通りに面した和菓子屋『筋肉本舗』から、二メートルを超える巨漢のムキムキロボットが現れた。


「お〜、マチョピッピ。ありがとさん!」

「マッチョメイド! お前もご奉仕に参加しろ!」

「おで いく」


 マッチョメイドは大太鼓を持って列に加わった。


「なにをしていますのー!?」

「わたくし達も参加させてくださいましー!」


 向かいのフランス料理店『アン・ココット』から飛び出てきたのは、金髪縦ロールのお嬢様たちであった。


「いえーい、マリピッピにアンピッピ! いっしょに踊ろう(ダンスっちまおう)よ」


「はいですのー!」

「プオーンですのー!」


 マリーとアンテロッテは、巨大な法螺貝を手に列に加わった。


 シャンシャン。ピーヒョロロピー。ドンドン。カンカン。ポポポン。プオーン。


 ますます奇怪になった集団に驚きつつも、商店街の人々は巫女に貢物を捧げた。


「サージャ様! おかげで大学に合格できました!」

「よきよき」

「サージャ様! おかげでなくしていた土地の権利書が見つかりました!」

「それな」

「サージャ様! おかげで便秘が治りました!」

「腸活マジ大事」


 プオーン。シャンシャンシャン。カカカン。ドンドドン。ピーヒョロピーヒョロロピー。ポンポン。


 愉快な音色に誘われてか、どこからともなくグレーのモコモコこと、ロボット猫のチャーリーが現れた。チャーリーは店の屋根からダイブすると、サージャの胸に飛び込んだ。


「ニャー」

「お〜、チャーリー、お前もご奉仕すっか〜?」


 チャーリーを抱きかかえたサージャを先頭に、雅楽(ががく)の集団は浅草の町を一周した。



 一行が浅草神社に戻ってきたころには、すっかり夕方になっていた。仲見世通りを突き進み、隅田公園を渡り歩き、浅草動物園で動物ロボを従え、ロボヶ丘小学校では子供達と触れ合った。


「あ〜、疲れた〜」

「疲れました〜」


 黒乃とメル子は、肩を寄せ合って本殿前の階段に座った。そこにチャーリーがやってきたので、メル子はロボット猫を膝の上に乗せた。参加者達も思い思いの場所で寛いでいるようだ。

 そこへ、クラシックなヴィクトリア朝メイド服を纏ったメイドロボ、ルベールが紅茶を配って回った。


「イェーイ、ルーピッピ。(おっつー)

「サージャ様。お久しぶりのご奉仕でしたね」


 ルベールは紅茶が入ったカップをルベールに手渡した。


「まあね」

「前回は荒川博士もごいっしょでしたか」


 サージャの紅茶を持つ手がピクリと震えた。鋭い視線を向けられたルベールは、思わず一歩下がった。


「ルーピッピ」

「これは失礼しました」


 ルベールは慌てて頭を下げた。その様子を黒乃とメル子は不思議そうに眺めていた。


「……ねえ、メル子。荒川博士って誰?」

「……知りません」


 サージャはため息をつくと、二人を睨んだ。


「黒ピッピ、メルピッピ」

「はいい!?」

「なんでしょうか!?」


 二人は背筋を伸ばして、次の言葉を待った。


「荒川博士ってのはね、(あーし)のご主人様だよ」

「ご主人様!? サージャ様にご主人様がいたんですか!?」

「なにか、前に聞いたことがあるような気がします!(278話参照)」


 新ロボット法では、すべてのロボットには人間のマスターが存在することになっている。メル子に対する黒乃。アンテロッテに対するマリー。ゴリラロボに対する飼育員さん。しかし例外がある。それは御神体ロボだ。御神体ロボのマスターは神仏であるため、人間のマスターは存在しない。

 だがサージャには、かつてマスターがいた。


「えーと、その時にメイドロボとして荒川博士に仕えていたと?」

「そうだわさ」

「ほえ〜」


 ふとメル子を見ると、プルプルと肩を震わせていた。


「メル子、どした?」

「ご主人様、大変です……」

「なにが?」

「荒川博士について、私の高性能AIで調べました」

「ほうほう」

「荒川博士は、あの隅田川博士の、奥様ですよ!」

「へー、そうなんだ」


 近代ロボットの祖、隅田川博士。ルベールやニコラ・テス乱太郎を作り出した偉大なる科学者である(210話参照)。


「いや、なにをのほほんとしていますか!?」

「ええ?」

「隅田川博士の奥様ということは、紅子ちゃんのお母様ということではないですか!」

「紅子の母ちゃんは私だけど……え?」


 黒乃もようやく理解ができた。紅子の実父は隅田川博士であり、実母は荒川博士なのである。


「懐かしいわ〜。ボロアパートで暮らしていた日々が」


 サージャの呟きに、またもや度肝を抜かれた黒乃とメル子。


「サージャ様がボロアパートで!?」

「ひょっとして、紅子ちゃんが昔住んでいたというあの部屋ですか!?」

「そうだわさ」


 ボロアパートの一階の角部屋。今は鏡乃(みらの)朱華(しゅか)が暮らしている部屋だ。と同時にあることにも気がついた。もう隅田川博士も、荒川博士もいない。新たなるマスターもいない。サージャはひとりぼっちなのだ。


「そういえば、あなたもマスターがいませんね」


 メル子は膝の上のチャーリーの青みがかった毛皮を撫でた。彼もまた、マスターを失った立場だ(240話参照)。


「ニャー」


 マスターを失うとはどのような気持ちなのだろうか? メル子にはまだ経験はない。いずれくるであろうことは知ってはいる。納得はしていない。


「でもね、黒ピッピ、メルピッピ」


 サージャは珍しく優しい目を二人に向けた。


(あーし)はそんなに寂しくはないんよね。(あーし)には、浅草のみんながいるからね」


 サージャは二人の肩を抱き寄せた。黒乃とメル子の頭がくっつき、その上にサージャのあごが乗った。


「ね?」

「「はい!」」

「マジ昇歩様(あげぽよ)〜!」


 サージャは立ち上がり、エプロンを脱ぎ捨てた。本殿の階段の最上段に立ち踊り始めた。神ピッピに捧げる奉納の舞、神楽(パラパラ)だ!

 サージャは踊った。黒乃もメル子も踊った。チャーリーも踊った。みんな踊った。浅草神社は神楽殿(ディスコ)と化した。


「みんな元気で煤賠禁(バイバイキーン)!」


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