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うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない  作者: ギガントメガ太郎


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第486話 進化します! その一

 ボロアパートの小汚い部屋の床に、ミニチュアハウスがあった。小汚い部屋を模したプチ小汚い部屋の中には、三体のプチロボット達が暮らしていた。一体は黒乃にそっくりなプチ黒。一体はメル子にそっくりなプチメル子。もう一体はチャーリーにそっくりなプッチャである。


「お〜、プチメル子は今日もお洗濯をがんばっているな〜」

 

 手のひらサイズの三頭身のメイドさんが、小さな洗濯機の中から小さな白ティーの山を取り出していた。それを一つ一つ丁寧にハンガーに引っ掛けていく。窓を開け、物干し竿に吊るした。プチメル子は満足げに洗濯物を眺めた。


「まあ、窓の外に干してもそこはやっぱり部屋の中だから、日は当たらないんだけどね」

「お任せください」


 それを見たメル子は、小さな洗濯物をつまむと窓を開けて外の物干し竿に引っ掛けた。今度こそ本物の太陽が純白のプチ白ティーを照らした。いつもの手順である。それを見たプチメル子は、笑顔で盛大に手を叩いた。


「ふふふ、喜んでる、喜んでる」

「お洗濯はメイドさんの命ですから」



 夕方、メル子は窓の外に干した洗濯物を取り込んでいた。大きな白ティーは床へ、小さな白ティーはミニチュアハウスの窓の外に引っ掛けておく。


「おや? ご主人様、プチメル子とプッチャはどこにいきましたか?」

「え?」


 メル子がミニチュアハウスを覗き込むと、そこにいたのは太々しく寝転がる白ティー丸メガネのプチロボットだけであった。


「プチご主人様しかおりませんが」

「プッチャに乗って散歩にでもいったのかな?」


 とそこへ、案の定プッチャに跨ったメル子が帰ってきた。どうやらキッチンの方へ出掛けていたようだ。腕になにかを抱えている。


「プチメル子、それはなにを持っていますか?」


 メル子が覗き込むと、プチメル子は慌ててそれを後ろに隠した。そして首を左右に振った。


「なんですか? キャベツの切れ端ですか? ダメですよ、そんなものを持ってきたら」


 メル子が指を伸ばしたが、プチメル子は慌てて部屋の中に駆け込んだ。


「こら、返しなさい」

「ほっといてあげなさいよ。なんかやりたいんでしょ」

「はあ……ご主人様がそう言うなら」



 翌日の朝。メル子はプチ小汚い部屋を覗き込み仰天した。


「なにをやっていますか、プチメル子!」

「うわ、なになに? どうしたのよ、もう」

「見てください、ご主人様!」

「ええ?」


 それは床に投げっぱなしのプチ白ティーの山であった。


「白ティーがどうしたのさ?」

「どうしたって、お洗濯物を片付けていないのですよ! メイドさんなのに!」

「そういう日もあるでしょ」


 メル子は部屋の中をよく観察した。プッチャを枕にして寝転がるプチ黒。正座をしてしらばっくれるプチメル子。メル子は悟った。


「わかりました! 押入れの中になにか入っていますね!?」


 メル子は押入れに向けて指を伸ばした。プチメル子はその指に飛びつき、必死に阻止しようとした。


「離しなさい! 開けますよ!」


 メル子は問答無用で押入れを開けた。そこから飛び出てきたのは、三本の塊だった。


「うん? なにこれ……ぎょわわわわわわわ!」


 黒乃は謎の物体を指でつまんだ途端、それを投げ出し後ろにひっくり返った。


「うわあああああッ! 芋虫だ! これ芋虫だよ!」

「落ち着いてください、ご主人様。たかが芋虫ですよ。それにしてもプチメル子、なぜ芋虫を押入れに格納していたのですか!? どこから持ってきましたか!?」


 プチメル子は三匹の芋虫にしがみついた。守ろうとしているようだ。


「ハァハァ、なんだろ。芋虫を飼いたいのかな?」

「しかし、ボロアパートはペット禁止ですよ。おや?」


 メル子は芋虫によく顔を近づけてみた。なにか違和感を感じる。指で一つつまみ、ひっくり返してみた。


「なんでしょうか……ぎゃああああああ!!!」

「うわ!?」


 メル子は芋虫を投げ捨て、後ろにひっくり返ってピクピクと震えた。


「どした!?」

「ご主人様……それ、それ!」

「うん?」

「芋虫ロボです!」

「え? これロボットなの?」


 それを聞いた黒乃は、床に転がった芋虫を拾い上げ、よく観察をした。上側は本物そっくりであったが、裏返してみると、ロボットならではの機構が見え隠れしていた。


「うわ、ほんとだ! すっごい細かくできてる! かっけー! ほらメル子、見てごらん」


 黒乃は芋虫ロボをメル子の顔に近づけた。


「ぎゃあああああああ!!!」

「そんなに怖がらなくてもいいじゃないのよ。同じロボットなんだから、仲間でしょ」

「そんなわけがないでしょう! では、生芋虫はご主人様の仲間なのですか!?」


 プチメル子が必死に手を伸ばしていた。黒乃が芋虫ロボを渡してやると、大事そうに抱えて押入れに格納した。


「ご主人様! 早くそれを捨ててきてください!」

「こらこら、なんてことを言うのさ。芋虫ロボくらい、飼わせてあげればいいじゃないのさ」

「いやですよ!」

「てか、さっきのキャベツは芋虫ロボの餌だったのか。プチロボットですらナノペーストしか食べられないのに、なまものを消化できるなんてすごい性能だな。誰が作ったんだろ?」

「知りません!」


 メル子が散々ブー垂れたが、結局芋虫は飼われることになった。



 その日の夜、黒乃はデバイスをいじっていた。


「えーと、こっちのシンプルな緑色のがモンシロチョウの芋虫ロボで、こっちの黒いのがジャコウアゲハで、こっちの黒と黄色のド派手なのがアサギマダラか。よし、モン、ジャコ、アサと名付けよう」


 プチ小汚い部屋の真ん中には、黒乃が拾ってきた木の枝が置いてあり、そこに三匹の芋虫ロボが張り付いていた。黒乃が撫でてやると、頭の触角が細かく動いた。


「よく触れますね」

「かわいいもんだよ」


 そこへプチメル子がキャベツの切れ端を差し出した。芋虫ロボ達はがっつくようにそれに齧り付いた。


「これって、ひょっとしてさ。チョウチョになるのかな?」

「ご主人様、これはロボットですよ? 変態はしないでしょう」

「誰が変態やねん」


 プチメル子は愛おしそうに芋虫ロボを撫でた。



 翌日の朝。プチメル子は窓に張り付き、元気よく声を出していた。


『ごしゅじんさまー! ごしゅじんさまー!』


 呼ばれた黒乃はプチメル子に顔を寄せた。すると、手のひらサイズのメイドさんは窓を叩き始めた。


「なんだろ、お散歩したいのかな?」

「そうみたいですね」

「天気もいいし、隅田公園にでもいくか!」

「はい!」


 一行は秋の浅草の町へ繰り出した。



「いや〜、いい天気だねえ」

「空が高く見えます!」


 秋の空が高く見える理由はいくつかある。水蒸気が少ないので、上空まで青く見えるなどであるが、一番の理由は雲の高さにある。気圧の関係で、秋のイワシ雲やウロコ雲は高い位置に発生しやすいのだ。

 黒乃の手のひらに乗っているプチ達は、乾いた空気を思い切り吸い込んだ。プチメル子は芋虫ロボ達をしきりに撫でている。


「なるほど、芋虫ロボとお散歩したかったのか」

「なぜ、芋虫とお散歩をしないといけないのですか……」


 メル子は真っ青な顔でその様子を眺めた。



 一行は隅田公園にたどり着いた。秋のピクニックにきた家族連れ、学生達の集団、ひなたぼっこをしている老人。休日ということもあり、広場には大勢の人々が詰めかけていた。

 黒乃は公園の植え込みの葉の上に、モンとジャコとアサを置いた。


「おお、食べてる食べてる」

「よく食べますねえ」


 三匹は貪るように葉に群がった。プチメル子はそれを嬉しそうに眺めていた。

 するとそこへ、一匹の巨大な芋虫が近づいてきた。


「うげっ! 生芋虫だ!」

「大きいですねえ。クロメンガタスズメの幼虫のようです」


 生芋虫は縄張りを荒らされたと思ったのか、モンを目掛けて体当たりを仕掛けた。最初は張り合っていたモンであったが、勝てないことを悟ると尻を見せて逃げ出した。しかし、足を滑らし地面に落下してしまった。


「ああ! モンがやられた!」

「なにをやっていますか! 生芋虫なんかに負けてどうしますか!」


 メル子は怒った。しかし、もっと怒っていたのはプチメル子であった。手のひらの上から飛び出し、クロメンガタスズメに襲いかかった。巨大な胴体を鷲掴みにし、腰投げで放り投げた。宙を舞った生芋虫は、茂みの中に消えた。


「やりました!」

「もう〜、ケンカしないの〜」


 黒乃は地面に落ちたモンを拾い上げると、プチメル子の横に置いた。三頭身のメイドさんは何度もモンの緑色の背中を撫でた。



 数日後、ジャコとアサは羽化の準備に入った。プチ小汚い部屋に置かれた枝に張り付き、(サナギ)になったのだ。


「うわうわ、ロボットなのに蛹ロボになったよ。これ、すごすぎでしょ」

「ということは、チョウチョロボに進化するのでしょうか!?」


 しかし、懸念点もあった。モンだけが、芋虫のままなのだ。しかもほとんど動かない。プチメル子は心配そうにモンを見守った。


「モンだけ、どうしたんだろうなあ?」

「……」


 その日、プチメル子は徹夜でモンの世話をした。



 翌朝、黒乃は目を覚ますと、さっそくプチ小汚い部屋を覗き込んだ。ジャコとアサは立派な蛹になっていたが、モンは動かなくなっていた。プチメル子はその上に覆い被さり、緑色の背中を撫でていた。プチ黒はプチメル子の頭を撫でた。


「……」

「……」


 黒乃は動かなくなったモンを取り上げた。そのボディからは、(エネルギー)をまるで感じなかった。


「死んじゃったみたい……」

「モンの羽化は、時期ではなかったのかもしれません……」


 プチメル子は、大粒の涙を流して床にうずくまった。プチ黒とプッチャが、その背中を懸命に撫でていたが、何時間もそのままだった。



 黒乃達は動かなくなったモンとプチ達を連れて、八又(はちまた)産業浅草工場へとやってきていた。職人ロボのアイザック・アシモ風太郎に連絡を取り、モンの検査をしてもらうことにしたのだ。


「先生! モンについて、なにかわかりましたか!?」


 アイザック・アシモ風太郎は、様々な機械が並ぶ研究室のモニタと睨めっこをしていた。画面にはモンの解析データが下から上へと流れていく。


「分カッタノハ、市販品デハナイ、トイウコトデス。IDモ登録サレテイナイ、非合法ノ、ロボットデス」


 新ロボット法では、すべてのロボットに固有のIDが割り振られる。動物や虫のロボットは『保護対象』とみなされるが、非合法に作られ、害があり、かつAIが一定容量以下のものは『駆除対象』とみなされる。


 黒乃とメル子は顔を見合わせた。以前にも似たようなことがあったのを思い出したのだ。あれは、恐ろしきゴキブリロボとの邂逅……(42話参照)。


「コノ芋虫ロボハ、機能ヲ停止サセテイマスガ、完全ニ死ンダワケデモ、アリマセン」


 しかし結局のところ、復活させる方法は不明だ。失意のまま黒乃達は帰路についた。半ば諦め、どうやって供養しようかということに思いを巡らせる黒乃とメル子であったが、小さな二人はそうではなかった。



 真夜中。プチ黒はプチ小汚い部屋からそっと抜け出した。その後ろからプチメル子とプッチャが続く。背負われた巨大なリュックサックは、これから始まる冒険の過酷さを窺わせた。

 三体はお互いに視線を交わし合い、そして頷いた。プチ黒は鬨の声をあげた。


『おっぱい』


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