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うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない  作者: ギガントメガ太郎


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485/510

第485話 ちゃんこ部対茶道部です! その二

 浅草駅から隅田川を遡ること少し。川沿いに大きな学園がある。ここは浅草市立ロボヶ丘高校。文武両道を重んじる校風は、すべての生徒に部活動を義務付けていた。

 それが故の行事が、今まさに校庭で繰り広げられようとしていた。



『さあ、始まりましたァ! 第三回ちゃんこ部対茶道部、部室争奪地獄の頂上決戦! 実況を務めますはァ、私音楽ロボのエルビス・プレス林太郎とォ!』

『解説を務めます、おっぱいロボのギガントメガ太郎です。よろしくお願いします』


 校庭が大歓声で埋め尽くされた。集まった生徒、生徒、生徒。この戦いを見届けようと、誰もが部活を放り出して駆けつけていた。


『この戦いはァ! 因縁多き二つの部活動、ちゃんこ部と茶道部の雌雄を決するものでェす! 第二回の対決の模様は446話をご覧くださァい!』

『今回の対決は茶道部の部室と、浅草寺の近くにある高級会員制料亭『美食ロボ部』を賭けての戦いとなります。なぜこのような対決に至ったのか。もう説明するのも面倒くさいくらいわけがわからないので、説明は省きます。対決をお楽しみください』

『ああッ! 両軍、入場だあッ!』


 東から現れたのは、巨体を揺らして歩く白ティー軍団、ちゃんこ部だ。部長のまるおに続き、鏡乃山(みらのやま)、ふとし、でかお、新弟子ロボが続く。

 西から現れたのは、しゃなりしゃなりと歩く雅な粋人達、茶道部なり。部長の茶柱茶鈴(ちゃばしらちゃりん)に続き、桃ノ木朱華(もものきしゅか)、茶の湯ロボ、平蜘蛛爆男(ひらぐもばくお)八角釜男(はっかくかまお)が続く。


 両雄が並び立った。お互い火花を散らし、睨み合う。再び大歓声が巻き起こった。


「茶柱! 今度こそ、部室を返してもらうぜ!」

「いやどすなぁ。暑苦しおしてかなわへん」


 挑発をするまるお部長を、茶々様は軽くいなした。桜吹雪の扇子で首元を扇ぐと、抹茶の香りがあたりに漂った。


「茶鈴先輩だ! シューちゃんとこっそりイチャイチャしていた茶鈴先輩だ! クンクン! 抹茶ラテの匂い!」

「ミラちゃん、やめてーな!」


 囃し立てる鏡乃と、丸い顔を桃のように赤く染める朱華。


「鏡乃はん、あれは単なる指導どすえ。勝手なこと言うと、ほんまに朱華はんをもろうてまいますで」

「シューちゃんは鏡乃のお嫁さんだからー! 絶対に渡さないもん!」


 その言葉に、観客達がいっせいにからかいの野次を飛ばした。


『あーッ! 全校生徒の前でお嫁さん宣言でェす!』

『これは恥ずかしいですねww』


 その時、喧騒が一瞬で鎮まった。温まっていた空気が、凍りついて地面に転がったかのような足音が聞こえた。


『おっとォ!? 女生徒が現れましたァ! 誰だァ!?』


 絹のような長い白髪、切れ長の目、完璧に整えられた黒いセーラー服、手には伸縮式の指示棒。氷のような雰囲気を纏った生徒が、ちゃんこ部と茶道部の間に立った。


『なんだこの美人はァ!? なにか、茶々様に似ているぞォ!?』

『このお方は現生徒会長の茶柱初火(ちゃばしらういほ)、通称(はつ)様です。そして茶々様の妹君の二年生です』


「生徒会長!」

初火(ういほ)会長!」

「初様!」

「初様ー!」


 畏敬の念が込められた歓声が初様に対して送られた。


「すごい! 初火会長かっこいい! なんか棒持ってる! かっこいい!」

「こら、鏡乃山! 落ち着け!」


 暴れる鏡乃山を、ちゃんこ部達は必死に押さえた。


「茶々姉様、このようなお戯れはほどほどになさっていただかないと」

「相変わらず(うい)はお堅いどすなぁ。ちゃちゃっと終わらすさかい、堪忍しとぉくれやす」


 二人の視線が一瞬だけ交錯した。それだけで、周囲のものは二人の関係性を悟ってしまった。


『なんでしょうかァ!? 姉妹仲はよくないんでしょうかァ!?』

『実はこの二人、生徒会選挙で激しく争った間柄です。結果は言わずもがなですね』


 初様が指示棒を伸ばして勢いよく振った。


「只今より、ロボヶ丘高校生徒会規約第五条部室争奪戦章典に則り、ちゃんこ部対茶道部の部室争奪戦を行う! 立会人はこの生徒会長茶柱初火が務める! 双方、正々堂々と戦うように!」


 初様は高らかに宣言した。


「おうよ! やってやらあ!」まるお部長は力強く応えた。

「正々堂々……戦いますえ」茶々様は妹に目を合わせずに応えた。



 試合一覧。


 第一試合、ふとし先輩VS八角釜男。

 第二試合、でかお先輩VS平蜘蛛爆男。

 第三試合、新弟子ロボVS茶の湯ロボ。

 第四試合、まるお部長VS桃ノ木朱華。

 第五試合、鏡乃山VS茶柱茶鈴。



『いよいよ戦いが始まりまァす! 組み合わせは前回と同じでェす! 先に三勝した方が勝ちになりまァす!』

『それぞれリベンジを果たしてほしいですね』


 初様は巨大なサイコロを放り投げた。観客達がいっせいに手を叩き、歌い始めた。


「「ロボが出るかな、ロボが出るかな、ほにゃららにゃんにゃんほにゃららん」」


 サイコロは地面を勢いよく跳ね停止した。初様はそれを天高く掲げた。


「にらめっこ対決! 略して!?」

「「にらけつ〜」」


『ふとし選手、八角釜男選手、両者椅子に座り向かい合ったァ!』

『丸い顔と角ばった顔の対決です。これは見ものですね』


 戦いが始まった。舌を出し、両手で耳を引っ張る変顔を披露した八角釜男に対して、ふとしは無表情を決め込んだ。次の瞬間、八角釜男は鼻水を噴出して爆笑していた。


『www 無表情の力士はなんかおもしろォい!』

『www 私も笑ってしまいましたw 見事ふとし選手の勝利ですw』


「すごい! ふとし先輩すごいw」

「ごっちゃんです!」

「幸先いいぞw でかおも続け!」

「ごっちゃんですw」



『二回戦は、でかお選手と平蜘蛛爆男選手の登場だあッ!』

『さあ、対決の内容は? おっと』


「相撲対決! 略して!?」

「「は〜、どすこい、どすこい」」


『さっそく相撲対決が出ましたァ!』

『さすがにちゃんこ部に有利すぎるので、茶道部は茶道具を一つ、土俵に持ち込むことができます』


 学園一の巨漢であるでかおを前にしては、それなりの体格の平蜘蛛では頼りなさが浮き彫りになってしまっていた。

 両者、土俵の中央で向かい合った。


『見合って、見合ってェ!』

『平蜘蛛選手は鉄瓶を選んだようです。金属製の茶道具をチョイスするとは、なかなか殺意が高いですね』


 二人は同時に地を蹴った。平蜘蛛は鉄瓶を振りかぶり、でかおの額目掛けて振り下ろした。


『ああッ! 鉄瓶が見事額に命中だあッ!』

『人の頭に遠慮なく鈍器を振り下ろす茶人は前代未聞ですね』


 しかし、鉄瓶は弾き飛ばされていた。高く宙を舞い、観客達の中に飛び込んで消えた。それを呆然と見送った平蜘蛛は、両手を上げて戦意がないことを告げた。


『平蜘蛛選手、降参でェす!』

『頭を狙っておいて、戦意がないは通らないでしょう』


「でかお先輩、すごい!」

「でかお、頭平気か!?」

「痛いッス」



『ちゃんこ部の二連勝で、茶道部のあとがなくなりましたァ!』

『ちゃんこ部は次で勝負を決めたいですね』


「激辛麻婆早食い対決! 略して!?」

「「おしり、ひりひり〜」」


『新弟子ロボ選手と、茶の湯ロボ選手の前にィ、真っ赤な麻婆豆腐が並びましたァ!』

『早く食べ切った方が勝利となりますが、これもちゃんこ部に有利ですね』


 勝負が始まった。新弟子ロボと茶の湯ロボは、レンゲで麻婆をすくい一口舐めた。


『悶絶しているゥ! 両者、激辛は苦手なのかァ!?』

『それでも食べ進めています。いや、これは日が暮れますね』


 初様の裁定により、勝負は引き分けと相成った。


「新弟子ロボ! がんばったよ!」

「ウウ……鏡乃山サン、勝てなくて、ゴメンナサイ」

「気にするな! 次は俺だぜ!」



 まるお部長と朱華が勝負の場に立った。サイコロが投げられた。


「相撲対決! 略して!?」

「「は〜、どすこい、どすこい」」


『また相撲対決だァ!』

『ちゃんこ部の部長と、小柄な少女。武器のチョイスが肝心ですね』


 朱華は水差しを持って土俵に入った。まるお部長は、白ティーにマワシという出立ちで少女を迎え入れた。


『これは体格差を考えると、水差しでは勝負にならないのではァ!?』

『なにか、作戦があるのでしょうか? 注目です』


 朱華はかわいらしく突進した。まるお部長の分厚い腹にぶつかり、弾き飛ばされてしまった。観客達から暖かい笑いが起きた。

 しかし、この時朱華が考えていたのは、いかにそれらしく負けるかだ。自分が負ければ、ちゃんこ部の勝利が確定する。朱華にとっては茶道部の部室よりも、鏡乃を勝たせる方が重要なのであった。

 朱華はちらりと未来のお婿さんの方を見やった。そこに驚愕の光景を見た。


「ハァハァ、初火会長、かっこいい! アニメに出てくるキャラクターみたい!」

「ミラちゃん!?」


 鏡乃が自分の方を見ていないことを悟った朱華は、水差しの中身をぶちまけていた。水がまるお部長の白ティーにかかり、ムチムチの素肌が浮き彫りになった。


「いやん」


 羞恥のあまり身を屈めたまるお部長のケツを、朱華は遠慮なく蹴飛ばした。ゴロリと転がり、勝負ありとなった。


『軍配は朱華選手に上がったァ!』

『決まり手「透けティー落とし」です』


「まるお部長! 大丈夫!? 寒くない!?」

「新しい白ティーを頼む」



『いよいよ、最終決戦だあッ!』

『ちゃんこ部の二勝一敗一分です。ここで鏡乃山が勝ちか分ければ、ちゃんこ部の勝利となります』


「むきゅー! ぽきゅー! 絶対に勝つっしゅ! 引き分けは考えてないぽき!」


 鏡乃山はマワシをパンパンと叩きながら勝負の場に躍り出た。それに対し、茶々様はしゃなりしゃなりと進み出た。


「まったく、暑苦しおしてかなわへん。ちゃっちゃと終わらしますえ」


 初様がサイコロを投げた。


「相撲対決! 略して!?」

「「は〜、どすこい、どすこい」」


『あ〜! 三回目の相撲対決だァ!』

『これは茶道部、ツキがないですね』


 茶々様は広げた扇子越しに妹を睨んだ。


「おかしおすなぁ。サイコロを五回振って、同じ目が三回出る確率は三パーセントしかあらへんどすのに」

「茶々姉様。言いたいことは、遠回しをせずに言ったらいかがですか?」


『姉妹がまた火花を散らしているゥ!』

『怖いですね』


 鏡乃山が四股を踏んだ。姉妹に集中していた観客達の視線が、白ティー丸メガネの力士に移った。


「姉妹は仲良くしないとダメにょり! 鏡乃が勝ったら、仲直りするっしゅ!」


 大歓声が上がった。その声に押されるように、両者が土俵に入った。


『最後の戦いが始まりまァす!』

『浅草場所優勝の鏡乃山。合気柔術の達人である茶々様。前回は茶々様に軍配が上がりました。リベンジなるか? さあ、千秋楽結びの一番です』


 鏡乃山は腰を落として茶々様を凝視した。茶々様はその視線を軽く受け流し、半身に構えた。そして膝を曲げ、両手の人差し指を軽く地面につけた瞬間、鏡乃山は突進していた。


「もきゅー!」


 鏡乃山のぶちかましを、日本舞踊のような動きで軽くさばいた。土俵際で踏みとどまった鏡乃山は、反転し再び突進する。何度も突進し、何度も捌かれる。いつの間にか茶々様は、土俵際に追い込まれていた。


「ぷきゅー! ぽきゅー! 観念して、さば折りを食らうのり!」


 鏡乃山は渾身のぶちかましを仕掛けた。それを読んでいた茶々様は、右手の人差し指一本で力を受け流し、そのまま白ティー力士を土俵の外へ送り出した。


『あーっとォ! 決着かあッ!?』

『いえ、待ってください』


 鏡乃山は奇跡的に残っていた。巨ケツの割れ目に茶々様のスカートの裾を挟み込み、ギリギリで残っていた。


「こら、離さな怒りますえ」

「むきゅきゅきゅ! 絶対に離さないしん!」


 ケツでスカートを引っ張る鏡乃山。スカートを脱がされまいと引っ張り返す茶々様。最後の土俵際の攻防に、観客のボルテージは最高潮に達した。


「しゃあないどすなぁ……」


 茶々様は最後の手段に出た。スカートのホックを外し、脱ぎ捨てたのだ。支えを失った鏡乃山は土俵の外に転がった。


『ああああッ! 茶々様の勝利でェす!』

『そして!?』


 皆の視線が茶々様に集中した。


『……』

『……』


 観客から大きなため息が漏れた。


『茶々様は下にしっかりとブルマを履いていましたァ!』

『さすが茶々様です。残念』


 初様が高らかに宣言をした。「この勝負! 二勝二敗一分で引き分けとする! よって部室の移動はなし! 以上、解散!」


 勝負は終わった……。





 夕日の中、黒乃とメル子はボロアパートを目指して歩いていた。


「あ、また鏡乃とお嬢様だ」

「またですね」


 駐車場の車止めに腰掛けてうなだれる鏡乃を、朱華とマリーとアンテロッテが懸命に慰めている最中であった。


「その様子だと、また負けたのかな?」

「どんまいですよ、鏡乃ちゃん!」

「いや、対決は引き分けやったんやけど……」


 朱華は言葉を濁した。姉は妹の砂のついた白ティーに手を置いた。


「鏡乃」

「クロちゃん……」

「どした?」

「なんか、しーちゃんを思い出した」


 黒ノ木家サード紫乃(しの)。鏡乃の一つ上の姉だ。一番歳が近く、一番仲良しだった。


「茶鈴先輩と初火会長、仲が悪かった……」

「ほう」

「鏡乃としーちゃんも、ケンカしたことあったの思い出した……」


 黒乃は鏡乃の頭を撫でた。


「でも今は仲良しだろう?」

「うん」

「じゃあ、その先輩達も仲良しになれるさ」

「うん……」


 鏡乃と黒乃の丸メガネに、真っ赤な夕日が映っていた。


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