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うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない  作者: ギガントメガ太郎


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475/510

第475話 メイドのお仕事です!

 ここは浅草。浅草寺に程近い住宅街の一角。そのボロアパートの小汚い部屋に、かわいいかわいいメイドさんがおりました。


「そう、私です。メル子です」

「どした?」


 カメラに向けてキメ顔を向ける、かわいいかわいいメイドさん。


「そう、私です。メル子です」

「どしたどした?」


 黒乃はその様子を床で寝転がり、ケツをかきながら呆然と眺めた。

 

「ご主人様」

「はいはい、なんじゃろ」


 メル子は黒乃の前までくると、メイド服の裾を丁寧に折りたたんで正座をした。


「いよいよ、五百話が近づいてまいりましたね」

「まあね。よく五百話も書くことあるよね」

「なにを言っていますか。我々の目標は二千話。こち亀超えですよ」

「こち亀超えとは大きく出たなあ。まあ浅草だし、目標にするのはいいとは思うけどね」

「それでですね」

「ほいほい」

「五百話からは、恒例の長編が始まるわけですよ」

「そうなの?」

「いえ、恐らくですよ。だいたいその二十話前から、長編の伏線が張られていくわけですよ」

「なんか嫌な暴露だなあ……」

「ということはですよ。グダグダ好き勝手やる回は、もうそろそろできなくなる頃合いなわけですよ」

「あー、なんか読めてきた。今日は長編前最後のグダグダ回ってわけね?」

「まあ、言ってしまえばそういうことですよ」


 黒乃は巨大なケツを手で叩いた。


「よっしゃ! そうと決まったなら、ご主人様はグダグダして過ごすよ。今日はなんも事件は起きないんだよね!?」

「起きませんね」

「でもそれだと、読者の人達が退屈しない?」

「大丈夫です。私がメイドさんのお仕事を、皆さんにお見せしますから」

「それ、おもしろいの?」

「かわいいです」

「え?」

「おもしろくはありませんが、非常にかわいいです」

「うーむ、すごい自信ではあるけども。まあ、じゃあその辺はメル子に任せるよ」

「お任せください」




 ピピピッ、ピピピッ。

 メイドロボの口から、朝を告げるアラームが鳴り響きました。メイドさんのお仕事はご主人様を起こすことから始まります。メル子は隣で眠る黒乃の布団を揺すりました。


「ご主人様、朝でございます。起きてくださいな」

「ふぁ〜、よく寝た」


 黒乃は欠伸をしながら布団から起き上がりました。枕元を漁り、命とも言える丸メガネを装着します。するとそこには、世にもかわいらしいメイドロボがいたのでした。


「かわいいメイドさんに起こしてもらえるなんて、幸せだなあ」

「うふふ、ご主人様ってば。『世界一の』が抜けていますよ」

「あはは」

「うふふ」


 一通りイチャついたら、朝ごはんの準備に入ります。今日のメニューは南米コロンビアの『チャングア』。卵入りのミルクスープです。


「フンフフーン、今日も朝からメイドさん〜。かわいいかわいいメイドさん〜。よいしょよいしょで朝メシを〜、ご主人様に作ります〜。フンフフーン」


 鼻歌が音符となり、小汚い部屋を飛んでいきます。音符は壁にぶつかると、きれいな音と光を発して砕けて消えました。その光の粉末を体に浴びていると、みるみるうちに朝の気だるい気分も消えていきます。

 黒乃は床のプチ小汚い部屋を見ました。その中では手のひらサイズの小さいメイドさんが、小さなお鍋に入ったナノペーストを小さなお皿に盛り付けているのでした。


「お、プチメル子も朝ごはんを作っているぞ」

「当然ですよ。小さくてもメイドさんですから」


 今は夏休み。ようやく台風で吹っ飛んだボロアパートの屋根が修理され、冷房の効きは完璧です。快適な部屋で、おいしい朝ごはんを食べる。こんな幸せがあるでしょうか?


「おいしいなあ。メル子の料理はおいしいなあ。さすがメイドさんだよ」

「ご主人様、『世界一の』が抜けていますよ」

「あはは」

「うふふ」



 朝ごはんを食べ終え、洗い物を済ませたら、すぐさま次のお仕事に入ります。まずはお洗濯です。ご主人様の白ティーを洗濯機にぶち込みます。無添加の石鹸洗剤を加え、スイッチオン。ゴトンゴトン。古い型式の洗濯機が大きな音を立てて回ります。

 メイド服は洗濯機では洗えないので、手洗いをします。お風呂場のロボリン湯桶にお湯を張り、赤いメイド服を浸けます。無添加の洗剤を入れ、優しくモミモミ、丁寧にザブザブ。


 洗濯機が回っている間に、お掃除をします。お掃除もメイドさんの大事なお仕事。毎日毎日欠かせません。掃除機を押入れから取り出し、スイッチオン。ブオーン。床の埃を吸い込みます。溜まった埃は病気の元。きれいな空気は健康の元。メイドさんのお掃除で、ご主人様は今日も元気です。


「フンフフーン。メイドさんが掃除機で〜、汚いゴミを吸い取りまーす。ついでに社会のゴミクズも〜、きれいにきれいに吸い取りまーす。フンフフーン」


 メル子は床に寝そべる黒乃の巨ケツに、掃除機のノズルをガンガンぶち当てました。


「あはは」

「うふふ」


 プチ小汚い部屋を見ると、その中ではやはりプチメル子が、床に寝そべるプチ黒のケツにノズルをぶつけているのでした。


「プチメル子もお掃除がんばってるなあ」

「メイドさんですから、当然です」


 鼻高々のメル子。ドヤ顔を決めます。



 部屋の掃除が終わるころに、洗濯機が完了のブザーを鳴らしました。白ティーを洗濯バサミで吊り下げ、窓の外に引っ掛けます。八月の青空にはためく純白の白ティーは、かわいいメイドさんのお仕事の成果なのです。


「うーん、白ティーが白くてきれいだなあ」

「やはり、白ティーは白に限りますよ」

「だね」

「うふふ」

「あはは」


 朝のお仕事が終わったら、買い物がてら浅草の町に繰り出します。



 仲見世通りはいつものように観光客でごった返しています。その中を軽快に歩くメイドロボと、げっそりしながら歩くご主人様。


「メル子ちゃん、おはよう!」

「おはようございます!」

「メル子ちゃん、これ持っていきー」

「ありがとうございます!」


 商店街の人達は、メル子を見つけると次々に差し入れをしてくれます。


「いいな〜、メル子はなんでももらえてさ」

「かわいいからしょうがないのですよ。かわいいロボには、なんでもあげたくなりますから」

「子供扱いされているのでは……?」


 黒乃のうかつな一言に、メル子は鬼の形相を浮かべました。



 いつものスーパーマーケットに入ります。真夏の暑さから解放された二人は、ほっと息をつきました。野菜、お肉、お魚、新鮮な食材がずらりと並びます。


「ご主人様! お昼はなにをご所望でしょうか!?」

「そうだな〜……うーん……そうめんでいいよ」

「そうめんでいいよ!?」

「そうめんでいいよ」

「そうめんでいいよ!?」


 メイドロボは手際よく昼食と夕食の食材をかき集めていきます。特にトマトは念入りに選ばなくてはなりません。トマトは南米料理の要。個体差が大きく、味にばらつきがあるので、よく吟味します。黒乃は適当に手に取ると、カゴの中に放り込みました。


「キェェェェェェイ!!」

「うわ、なに!?」

「これは形が悪いですし、色もイマイチです!」


 メル子は黒乃が選んだトマトを、棚に戻しました。ムッとした黒乃は、メル子がカゴの中に入れたトマトを、こっそりと取り出しました。


「ほら、これなんてどう?」

「どれどれ? ぜんぜんダメですね! 色も形もイマイチです! どうしてちゃんとしたものを選べないのですか!?」


 メル子は自分で選んだはずのトマトを、棚に戻しました。


「ご主人様は、そうめんをお願いします!」

「へいへい」


 やることがなくなった黒乃は、売り場の片隅にある休憩スペースで水を飲みながら待ちました。たっぷり一時間かけてようやく戻ってきたメル子は、両手に巨大な袋を吊り下げていました。


「お待たせしました、ご主人様!」

「長かったね。じゃあ帰ろっか」



 大きな袋を持った二人は、炎天下の浅草を歩きました。そこに、小学生の二人組が現れました。


「キャキャキャ! 巨乳メイドロボが汗だくだー!」

「メル子〜! おっぱいと買い物袋の区別がつかないぞ〜!」

「ああ! 近所のクソガキ達! ちゃんと夏休みの宿題は終わったのでしょうね!?」


 メル子の一撃に、顔を青くして退散する近所の子供達。



 二人は汗だくになりながら、ボロアパートに帰ってきました。さっそくメル子は昼食の準備に入ります。そうめん作りは重労働。気を抜けません。


「あれ? あれ!? ご主人様!? これ、そうめんではありませんよ!」

「え? そうめんでしょ」

「これは白石温麺(しろいしうーめん)です!」


 どうやら黒乃は、そうめんと間違えて温麺を買ってしまったようです。


「そうめんとなにが違うのさ?」

「まったくの別物です!」


 白石温麺とは、宮城県白石市の特産品です。そうめんと違い、油を使わずに作られます。やや太めで短めの麺は、つるつるシコシコの食感と食べやすさ、そして消化のよさが特徴なのです。


「じゃあ、うーめんでいいよ」

「うーめんでいいよ!?」

「うーめんでいいよ」

「うーめんでいいよ!?」


 すると真夏のボロアパートに、シベリアの永久凍土から溶け出たメタンガスのような声が響き渡りました。

 オーホホホホ……オーホホホホ……。


「ぎゃあ! なんですか、この声は!?」

「オーホホホホ! おそうめんがとてもおいしそうですのねー!」

「オーホホホホ! わたくし達にも食べさせてくだしゃりましぇー!」

「「オーホホホホ!」」

「あ、お嬢様だ。いらっしゃい。うーめんだけどね」


 黒乃が扉を開けると、金髪縦ロールの二人組が立っていたのでした。メル子は文句を言わずに、四人分のうーめんを茹で上げました。おもてなしはメイドさんの大事なお仕事です。急な来客にも完璧に対応しなくてはなりません。


「くるならくると、あらかじめ言っておいてください!」

「おそうめんなんて簡単だから、いいじゃありませんことー?」

「そうめんが簡単!? うーめんですけれどね!」


 なんだかんだ言いながら、四人はつるつるシコシコのうーめんをすすりまくったのでした。



 昼食を済ませると、ボロアパートの地下の謎空間に住んでいる紅子(べにこ)が、小熊のぬいぐるみのモンゲッタを抱えて遊びにやってきました。


「黒乃〜、メル子〜、あそぼ〜」

「紅子ちゃん! ワトニー! いらっしゃいませ!」

「お、夏休みだから暇してるな」


 子守はメイドさんの大事なお仕事です。三人はポーカーで遊ぶことにしました。紅子は天才隅田川博士の娘です。黒乃とメル子は、ボコボコにやられてしまうのでした。


 遊び終わったらみんなでお昼寝です。布団を敷いて、川の字になって眠ります。紅子は甘えてメル子にしがみついてきました。


「うふふ、まだ子供ですねえ」

「まあ、メル子は一歳児だから、紅子の方が年上なんだけどね」

「十九歳ですよ!!!」

「うるさっ」



 夕方、目を覚ますと紅子とモンゲッタはいつの間にか消えていました。代わりに腕の中にいたのは、白ティーおさげのご主人様でした。


「ぎゃあ!」

「いで!」

「寝過ぎてしまいました!」


 メル子は慌てて夕食の準備に入ります。晩餐はメイドさんの一番の腕の見せどころです。手を抜くわけにはいきません。

 メル子は純白のエプロンをかけ、台所に立ちました。


 メイドさんのお仕事は激務です。ご主人様のために、朝から晩まで働きます。ご主人様に笑顔になってもらうために、幸せになってもらうために、ひたすらメイドさんは働きます。

 それがメイドロボの幸せなのです。


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