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うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない  作者: ギガントメガ太郎


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第474話 ハッピーセットです!

 浅草神社の静かなる境内は、にわかにざわめき始めた。お隣の浅草寺に比べてまばらな参拝客に紛れて、異質な集団が陣取っているからだ。


「みんな! よく集まってくれた!」

「はい、静粛に! マヒナ様がお話をします!」


 黒いベリーショートの美女、月の女王マヒナは美しい褐色肌から盛大に汗を迸らせた。スポブラとスパッツがすでにずぶ濡れである。


「暑い! なんだこの暑さは!」

「マヒナ様、これが日本の夏です」


 褐色肌でベリーショートのメイドロボ、ノエノエはピンクのナース服ベースのメイド服の懐からハンカチを取り出すと、マヒナの顔を拭った。


「ウヒウヒ、今日もノエ子はかわいいなあ。で、今日はなんなのよ?」

「いったい何事ですか?」


 黒乃とメル子はダルそうに言った。それに続くように、夏休みにも関わらず突然呼び出された面々は、口々に不平の声を漏らした。


「今日はアンテロッテとお昼寝をして過ごす予定でしたのに」

「お嬢様の言うとおりですの」


 金髪縦ロールのお嬢様、マリーとアンテロッテは、お嬢様らしからぬ大欠伸をした。


「私はマリーちゃんと夏休みに会えて嬉しいですよ!」


 鼻息を荒くしているのは、ポニーテールがかわいらしくも勇ましいボーイッシュな少女、梅ノ木小梅(うめのきこうめ)だ。マリーの同級生である。


「おでたち なにしに きた」

「われ 空手道場が いそがしい」


 その小梅の後ろにそびえ立っているのは、二メートルを超える筋肉の化身、マッチョマスターとマッチョメイドだ。


「なんかこの組み合わせ、怪しいな」

「戦闘が起こりそうなメンツですが……」


 黒乃とメル子は身を寄せ合って怯えた。


「心配するな!」マヒナは吠えた。「今日集まってもらったのは他でもない。社会不適合ロボを更生させるためだ!」

「ほらみろ! どうせヤクザロボとかと戦わさせられるんでしょ!?」

「いやですよ!」

「安心しなさい、メル子。今日更生させるのは、そこまで危険なロボではありません」ノエノエがメル子をなだめた。


「いいか、よく聞け! 更生させるのは、転売ロボだ!」

「転売ロボ!?」


 その言葉に一同は目を丸くした。

 転売ロボ。商品を買い占め、不当に値段を釣り上げ、流通を阻害する、社会不適合ロボの一種だ。


「我々月面自治政府の組織『月面捜査局』通称『MBI』は、本日日本において『発飛威刹屠(ハッピーセット)』なるものが販売されるという情報を掴んだ!」

「普通にCMでやっていますわよ」

「誰でも知っていますわ」

「転売ロボ組織は、ハッピーセットを買い占め、その中に含まれる『呂墓紋禍唖怒(ロボモンカード)』を根こそぎ奪い取ろうとしている! なんとしても、阻止せねばならん!」

「……」


 熱弁するマヒナを、メル子はプルプルと震えながら見ていた。それをいぶかしげに見つめる黒乃。


「メル子、どした?」

「ロボモンカードといえば、伝説の刺股カードが含まれているという……あ、いえ、なんでもありません! 子供達がほしがるロボモンカードを独り占めしようなんて、絶対に許せませんよ!」

「お、おう」

「一網打尽にしてやりましょうよ、ご主人様!」


 ハッスルするメル子を見て、マヒナは満足げに頷いた。


「よく言ったぞ、メル子」

「えらいですよ、メル子」


 月の美女達に褒められて、メル子は汗を流しながら照れた。





 作戦の概要は以下のとおりだ。

 大手バーガーチェーン『ロボドメカド』の店舗で張り込みを行う。転売ロボと思しきロボットが店の中に入ったら、ハッピーセットの購入を確認する。一定の要件を満たした場合、転売行為とみなし尾行を開始する。アジトを割り出し、お縄にする。


 浅草界隈には数軒のロボドメカドが存在するので、黒乃達は数チームに分かれて張り込むことにした。


「このチーム、大丈夫かな?」

「なぜ戦闘要員がいないのですか!?」


 黒乃チームは黒乃、メル子、マリー、アンテロッテ、小梅の五人だ。


「私が空手でマリーちゃんを守ります!」


 小梅は拳を前に突き出した。


「小梅さん、頼りにしておりますわよ」

「任せてください!」


 想い人の言葉にますますハッスルした小梅は、連続で拳を繰り出した。


 まず、アンテロッテが子供チームを率いて店内で張り込む。黒乃とメル子は店外で見張る。現在の時刻は十時半。朝のメニューが終わり、昼メニューに切り替わる時刻だ。いよいよハッピーセットの販売が開始され、それとともに大量の客が店内に押し寄せてきた。


「ええ!?」

「ご主人様!」


 どこからともなく現れた大量のロボット達が、列をなして店内に進んでいく。その死んだ魚のような目をした集団に、二人は怖気を震った。


「多い! 多すぎる!」

「なんですか、あのあからさまに怪しい集団は!? 間違いないです! 転売ロボ軍団です!」

「マリー! ターゲットが中にいくよ!」

『了解ですのー!』黒乃のデバイスから、お嬢様の元気な声が聞こえた。『大量にきましたのー!』


「大丈夫かな?」

「中の様子を見にいきましょう!」


 ここまで多いのなら、外で見張る必要性は薄い。二人は店内に侵入した。扉を開けた途端、怒号が二人を迎えた。


「しゃっしゃとハッピーセットを出しゃんきゃい〜!」

「いちゅまで待たせるんじゃじゃ〜い!」

「ハッピーセット、百個まだきゃい〜!」


 カウンターに押し寄せ、次々に注文を繰り出す転売集団に、クルー達は顔を青くして対応に追われていた。


「あの、お一人様、五セットまでで……」

「子供達が家で十人待ってるんでしょぎゃーい!」

「あの、ナゲットのソースは……」

「ドリアン味に決まってるでしょぎゃぎゃーい!」

「お並びください!」

「ワイらが先に並んだんじゃろッピ!」

「ママー! ロボモンカードはー!?」

「帰るわよ!」

「うわーん!」

「きゃきゃきゃきゃ! カードは買えばよかろうもーん! ワイらから高値でにゃ!」


 転売ロボ達の怒号、慌てふためくクルー、泣き叫ぶ子供達、慌てて退散する家族連れ。店内はまさに地獄絵図と化した。


「うわうわ、ひっどいなこれ」

「これが転売ロボのやり方ですか!」

「黒乃様ー!」

「あ、アン子」


 マリー達が控えていた座席を見ると、マリーと小梅がぐったりとテーブルに突っ伏していたのだった。


「二人とも、大丈夫!?」

「この世の醜い部分を見て、心が清いお二人はショックを受けてしまったみたいですね」


 そうこうするうちに、ハッピーセットが提供された。転売ロボ達は大量の袋を持って店を出ていった。


「ご主人様! 見てください!」

「うわ、ひどい! 持ちきれないバーガーは、店内に放置している!」


 メル子はその袋を一つ一つ念入りに漁った。


「メル子?」

「やはりです! どの袋にもロボモンカードがありません! すべて抜かれています!」

「やっぱり、カードの転売が目的で確定だな!」

「……」

「メル子?」


 メル子は立ち上がった。怒りに燃える目で、転売ロボが消えた自動扉を見つめた。


「ご主人様、やりましょう。子供達の夢を強奪し、おいしいバーガーを廃棄し、お店に迷惑をかける。放っておいていいロボではありません!」

「おお! やる気だ!」


 黒乃チームは店の外に出た。商店街の人ごみを抜け、隅田川方面へ移動する転売ロボ軍団を発見した。大量の袋をぶら下げているので、一目瞭然だ。


「バーガーが重いぎゃ!」

「カードだーけ抜いたーら、あとはしゅてりゃーッピ!」

「ワイ、バーガー食べたいんぎゃーよ!」


 喚き散らしながら浅草の町を闊歩するロボ軍団を、黒乃達は尾行した。


「マヒナ様から連絡が入りましたのー!」アンテロッテが告げた。「月面チームも、マッチョチームも転売ロボ集団を確認。隅田川に向けて移動中とのことですわー!」


 各店舗に張り込んでいた別チームも同じ状況のようだ。


「ご主人様!」

「うむ! どうやら転売ロボ組織は、一カ所に集まろうとしているようだ。アジトを突き止めて、一網打尽にしよう!」

「「はい!」」


 しかし、めざとい転売ロボの一体が、黒乃達の尾行に気がついてしまったようだ。


「にゃーか、店の中にもいたお嬢様ぎゃー、追いかけてくりゃーよ!」

「尾行しゃれてるッピ!」

「逃げりゃー!」


 転売ロボはいっせいに走り出した。


「しまった! マリーとアン子は目立ち過ぎたか!」

「人選ミスです!」

「お嬢様は、知らず知らずのうちに人の目を惹きつけてしまうのですわー!」

「さすがマリーちゃんです! 私の目も釘付けです!」

「小梅さん、今はそんなことを言っている場合ではございませんわー!」


 気付かれた以上、隠れていても仕方がない。一行は転売ロボを追って走った。ここは隅田川沿いの遊歩道だ。歩行者達は、大騒ぎをしながら迫りくる一団に道を譲った。


「ハァハァ、待て待て待てー!」

「お待ちなさい!」

「待てと言われて、待つロボはいねーぎゃ!」

「きょれでも喰らうッピ!」


 転売ロボはチーズバーガーを投げつけた。黒乃はもろにそれを顔面に受け、仰向けに倒れた。


「ご主人様!」

「ちくしょう! モグモグ、チーガーうまい」


 転売ロボ達は、川沿いの桟橋に降りた。そこで待ち構えていたのは、貨物ボートだ。彼らは、船上の小さいコンテナの隙間に隠れるように乗り込んだ。


「船を出すッピ!」

「アジトまで逃げりゃーよ!」

「しまった!」


 船はポンポンと音を立てて動き出した。このまま隅田川を下って逃げるつもりだ。


「そうはさせるか!」

「ご主人様! どうしましょう!?」


 黒乃は橋の上へ走った。そして欄干を乗り越えると、なんのためらいもなく飛び降りた。ちょうど橋の下を潜り抜けてきた船の上にケツから着艦(ちゃっけつ)すると、大きく揺れた船体に弾かれて、一体のロボが水中に沈んでいった。


「ご主人様ー!」

「私もいきます! マリーちゃん、見ていてください!」


 小梅は勢いをつけて橋からダイブした。空中でくるりと一回転し、華麗に着艦を決めた。


「黒乃山! いっしょに戦います!」

「誰が黒乃山じゃい」


 コンテナの上でお互いの背中をつけて構える二人。転売ロボ達がコンテナによじ登ってきた。


「覚悟するぎゃーよ!」

「ちょめーりゃ、水泳は得意なんぎゃろーにゃ!?」

「にゃーんだ、このケツのでかいおっしゃん!?」


 転売ロボがアップルパイを振り回して襲いかかってきた。その一撃をもろに頭頂部に受けた黒乃は、コンテナの上を転げ回った。


「あじゃじゃじゃじゃじゃじゃ! できたて!」


 別の転売ロボが、ビービーキューソースが入った容器を絞り出した。小梅は辛口のソースを紙一重で避けた。宙を飛んだソースは、背後にいた黒乃の丸メガネにもろにヒットした。


「ぎゃばばばばばばば! 目があああああ!」


 丸メガネを汚され瀕死状態になる黒乃。こうなってしまっては、戦力としては期待できない。


「げきゃきゃきゃきゃ、お嬢ちゃん、きゃんねんするんぎゃな」

「悪いようにはしにゃーきゃらよ……」


 言い終わらないうちに、転売ロボは吹っ飛んで川面に落ちた。小梅の頭よりも高く伸ばされた右のつま先が、太陽の光を隠した。


「マッチョメイド師範直伝の空手! ご覧にいれましょう!」


 小梅は襲いくる転売ロボ達を、次々に吹っ飛ばした。


「調子に乗ってんじゃにゃきゃろーもん!」


 操縦室から、一際ボディがでかいロボットが現れた。ヤクザ空手ロボだ。


「勝負!」


 小梅はヤクザ空手ロボに正拳突きを繰り出した。しかし、回し受けでそれをさばかれると、わずかに体勢を崩してしまった。大きなポニーテールを掴まれ、地面に投げ飛ばされた。


「卑怯者! 髪の毛を掴むのはルールで禁止です!」

「がきゃきゃきゃ! ヤクザロボはルール無用もーん! む!?」


 突如、ヤクザ空手ロボがふらついた。コンテナに這いつくばっていた黒乃が、足にしがみついてきたのだ。


「小梅! 今だ!」

「黒乃山! でええええい!」

「あふん」


 小梅の見事な金的蹴りにより、あえなくヤクザ空手ロボは、乙女ロボにジョブチェンジした。

 

「ご主人様ー!」

「小梅さーん!」


 その時、貨物ボートに並走する船が現れた。そこには今回参加したメンバーが揃って乗っていた。


「メル子! マヒナ! そっちはどうなったの!?」

「やつらのアジトを突き止めた! 今ロボマッポがアジトを包囲している! 作戦は成功だ!」


 その言葉を聞いた黒乃と小梅は、コンテナの上にへたり込んだ。そこへマリーがよじ登ってきた。


「小梅さん! 無事ですのー!?」

「マリーちゃん! 私の戦い、どうでしたか!?」

「無茶し過ぎですのよ」

「えへへ」


 マリーがポニーテールを撫でると、小梅は照れくさそうに顔を赤らめた。



 こうして転売ロボ事件は幕を閉じた。組織は解体され、首謀者はお縄になった。ロボドメカドは転売対策に本腰を入れて挑むことを公約した。


「あれ? メル子、なにやってるの?」


 黒乃は、転売ロボが残していったバーガーの袋を漁るメル子に声をかけた。


「え!? いや、なんでもありませんよ! これで子供達にロボモンカードが届きますね!」

「お、おう」





 後日、ロボモンカードに含まれるはずの、刺股カードが大量に消失していることがロボマッポの調べで発覚したが、原因の特定には至らなかった。


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