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うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない  作者: ギガントメガ太郎


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第470話 大阪観光です!

 八月の太陽が照りつける大阪は道頓堀(どうとんぼり)。浅草の仲見世通りにも負けぬ人、人、ロボ、人。その人だかりの中に、白ティー丸メガネ黒髪おさげのケツデカお姉さんと、赤い和風メイド服の金髪巨乳メイドロボが立っていた。


「ご主人様! 見てください! あれが有名なグリコの看板ですね!」

「ええ? ああ、うん。人が多い……」


 黒乃はげっそりとした顔で巨大な看板を見上げた。尼崎の実家から道頓堀までは一時間ほど。黒乃は子供のころからよく家族で訪れていたので、珍しくもなんともない。黒乃の母黒子(くろこ)は大阪の出身であり、母の実家と道頓堀は目と鼻の先だ。


「シューちゃん、こっち〜!」

「ミラちゃん、待ってーな」


 白ティー丸メガネ黒髪おさげの少女は、赤みがかったショートヘアがかわいらしい小柄な少女の手を引っ張って走った。この二人は黒ノ木家四女鏡乃(みらの)と、そのルームメイトの桃ノ木朱華(しゅか)だ。二人は高校一年生。この春から浅草の学校に通っているのだ。

 鏡乃と朱華は橋の下を覗き込んだ。この橋は道頓堀川にかかる戎橋(えびすばし)。道頓堀を象徴するスポットだ。


「ほら! 見て!」鏡乃は水中を指さした。

「ほんまや、すごかねー」


 二人はしげしげと水中に沈む不思議な像を眺めた。それは真白いスーツを着て直立する、品の良さそうな白髪白髭のおじさんだった。手首にかけられたステッキがダンディさを強調させていた。


「あれね、何百年も前からあるらしいよ」

「へー」

「チキンの神様なんだって!」

「すごかねー」


 前世紀には汚泥とゴミで見るも無惨な水質であったが、二十二世紀現在では水質の改善が完了し、川底が見えるほどの美しさを取り戻していた。ちょうどお掃除ロボが川を泳いで現れ、熱心に謎の像を磨き始めたのであった。

 鏡乃と朱華は手を合わせて拝んだ。


「ご主人様! すごい活気ですね! なんていうか、仲見世通りとはまた違った感じがします!」


 日本有数の観光スポットである浅草と道頓堀。隅田川と道頓堀川、仲見世通りと道頓堀商店街。人も違えばロボも違う。飛び交う言葉も、匂いも、色も音も、なにかが違う。


『なんでやねん!』

『なんでやねん!』

「ご主人様! そこら中から、なんでやねんという声が聞こえますよ!」

「いや、なんでやねん」

「ご主人様! アレやっていいですか!?」

「アレとは?」

「バン!」


 メル子は右手の指で銃を作ると、橋の上を歩く人目掛けて撃った。すると、それを見た見ず知らずのおっさんが、胸を押さえて倒れた。


「やられた〜」

「やりました!」

「こらこら」

「あはは! パラララララ! パラララララ!」


 さらに両手でイングラムM10を作り、あたり一面を薙ぎ払うように掃射した。橋の上を歩く人々がうめき声をあげながら次々と倒れ、プルプルと悶えた。戎橋は地獄絵図と化した。


「あはは! あはははは! 一網打尽です!」

「うわ、やりすぎだって!」

「メル子、すごい!」

「すごかー」


 黒乃はメル子の手を引いて戎橋から退散した。


『なんでやねん!』

『なんでやねん!』

「あはは! ご主人様! 大阪ってイメージどおりで楽しいですね!」

「いや、これ、だいぶ偏見が入ってるけどね……」


 黒乃は冷や汗を垂らしてメル子のあとを追った。押し寄せる人の群れ、あまりに雑多な街並み。黒乃は確実にダメージを蓄積していった。


「ほら、シューちゃん見て!」


 鏡乃は飲食店の壁に飾られた巨大なカニのオブジェクトを指さした。十本の手足と二つの目玉が、観光客を歓迎するかのように動いた。


「ミラちゃん、デカかねー」

「これね、何百年も前にとれたカニの神様。まだ生きてるでしょ?」

「ほんまや、すごかねー。でも真っ赤やから、一度茹でられたんやね」


 それを黒乃はプルプルと震えながら聞いた。


「母ちゃんが適当に言ったことを、全部信じとる……」


 鏡乃は朱華の手をひいて、勢いよく道を進んでいく。黒乃はついていくのにやっとだ。やってきたのは道頓堀の巨大商業施設、くいだおれビルだ。


「ほら、見てシューちゃん!」

「なんやのこれ?」


 ビルの正面に立っていたのは謎の人形であった。赤と白のド派手なピエロ服、リズムよく打ち鳴らされる太鼓、そして……。


「ほら! すごいでしょ! 丸メガネ!」


 そして堂々とかけられた丸メガネ。皆さんご存知、くいだおれ人形である。


「これね、何百年も前からここにいる丸メガネの神様なんだって! うちのご先祖様!」

「すごかー」


 鏡乃は手を合わせて祈った。朱華も真似をして祈った。


「ご先祖様、父ちゃんの工場を守ってください。ロボキャットが島に戻れるようにしてください。テストで百点を取らせてください。ちゃんこ部の部室を取り戻させてください」

「くいだおれ太郎がご先祖様なんやねー、すごかー」


『なんでやねん!』

『なんでやねん!』



 昼も過ぎ、四人は空腹を抱えて商店街を歩いた。


「クロちゃん、お腹減ったよ〜」


 鏡乃は甘えて姉の腰にしがみついた。それをケツ圧で弾き飛ばすと、黒乃は軽快に歩き出した。


「じゃあ、久しぶりにあそこにいくか!」

「あそこ!? いくいく!」鏡乃は鼻息を荒くした。

「あそこってどこですか!?」メル子は興味津々で聞いた。

「ふふふ、大阪にきたら必ず寄っていたお店があるのさ」

「めちゃくちゃおいしいから!」

「たのしみやねー」


 場所は先程のくいだおれビルのすぐお隣だ。


「ここここ」

「ここですか! えーと、ロボ龍ラーメンですね!」


 真っ赤でド派手な店構え、通りに面したテラス席、そして漂う豚骨の香り。頭上の愉快な顔の龍のオブジェクトが、一行を優しく出迎えてくれた。


「豚骨ラーメンですね!」

「メル子〜、違うよ〜、こっち〜」

「え!?」


 鏡乃はメル子のメイド服の裾を引っ張り、細い路地に誘い込んだ。


「せまッ! この路地の先にラーメン屋さんがあるのですか? あった!?」


 路地の上には、巨大な提灯が見え隠れしていたのだ。その提灯にはこう書かれていた。


「『どうとんぼりロボ座(ろぼくら)』ですか!」

「そ、ロボ座とロボ龍は大阪の二大ラーメンと呼ばれているのだ」

「お隣はラーメン四天王ですけれどね」


 一行は狭い路地を進んだ。路地の脇に店があるようだ。しかしメル子は違和感を覚えた。


「あれ? ここがロボ座ですよね? なにか、奥にもロボ座がありますが?」

「こっちの狭い方が千日前店で、あっちのでかくて綺麗な方が本店ね」


 黒乃はなんの躊躇いもなく千日前店へ入った。


「なぜわざわざ狭い方へ入りますか!?」

「だって、子供のころからきてたのはこっちなんだもん」


 店内には客はほとんどいない。皆広い方へいっているようだ。四人はカウンターの奥に並んで座った。しばらく待つと、メル子と朱華の前に丼が届いた。


「きました! おいしそうです!」

「うまそやねー」

「ささ、冷めないうちに食べて」

「「はい! いたーだきーます!」」


 二人はレンゲを構えた。黄金色のスープに浮かんでいるのは、ざく切りにされた白菜だ。その上に大判のチャーシューが乗っている。レンゲを差し込み、スープをすくいあげ、すする。


「んん!? なんですか、これは!? 食べたことがない味がします!」

「不思議な味やね〜」

「ふふふ」


 さらにスープをすすった。二度、三度続けてすすると、その全容が見えてきた。


「これは白菜のお出汁ですね! なんでしょう、不思議な感覚です! あっさりしていて、甘さがあって、落ち着く味。初めて食べたのに懐かしい味。これは……」

「日本の味やね」


 黒乃は朱華を指さした。「朱華ちゃん、正解。ここのスープは最初はけっこう戸惑うんだよね。食べたことがない味だからさ。人によってはラーメンぽくないと感じるかもね。でも、食べ進めるうちに段々とその魅力が体に染み込んでくるのさ。最後の一滴が一番おいしいスープなんだよ」


 メル子と朱華は夢中になって麺をすすった。プルプルとしたタマゴ感が強い麺は、スープの甘みを引き立ててくれた。


「あれ? ご主人様と鏡乃ちゃんのラーメンはまだですか?」

「うん? あ、きたきた」

「きたー!」


 丸メガネを輝かせる黒乃と鏡乃。


「「いたーだきーます!」」


 二人は勢いよく麺をすすった。すすってすすってすすりまくった。


「あの、お二人とも。麺をすすりすぎですよ。バランスよく食べてください」

「くくく」

「へへへ」

「ワロてますが」


 速攻で麺をすすりまくったせいか、丼からあっという間に麺が消え失せ、スープだけになってしまった。


「ほら、言わんこっちゃないです」

「ふふふ、これでいいのだ」


 すると黒乃は丼にレンゲを差し込み、そしてゆっくりとすくい上げた。そのレンゲに乗っていたものを見て、メル子は仰天した。


「ご飯!? スープの中にご飯と生卵が沈んでいます! ひょっとして、雑炊ですか!?」

「正解〜!」


 これはラーメン雑炊という裏メニューで、ラーメンと雑炊を一度に楽しめるという贅沢な一品だ。ライスを別に頼むのが恥ずかしいという、女性向けに開発されたものだ。無論、黒ノ木姉妹にそのような恥じらいなどあるはずもなく、ただご飯をがっつきたいだけなのは言うまでもない。


「うほうほ、このお得感!」

「大阪っぽい!」


 熱々の雑炊を頬張る白ティー姉妹を、メル子と朱華は呆れて見ていた。




 

『なんでやねん!』

『なんでやねん!』


 食後、黒乃とメル子はたこ焼き屋の行列に並んでいた。もう浅草へ帰る時間である。新幹線の中でたこ焼きを食べようという計画だ。


「ご主人様! 道頓堀っていい町ですね!」

「へへへ、そうかい。ご主人様はちょっと苦手だけどね」

「浅草と似ているかと思ったのですが、やはりいろいろと違う部分もあって、大阪が好きになりましたよ!」

「ムフフ、それはよかった」


 黒乃はメル子の金髪を撫でた。浅草と道頓堀。似て非なる町。同じものがあるのだとすれば、それは町をいく人々の笑顔。笑顔こそが万国共通のパスポートなのだ。

 メル子は焼きたてのたこ焼きの包みを受け取った。


「はい、メイドロボのお嬢ちゃん。お釣り百万円ね!」

「百万円!? やりました! お釣りで百万円をもらいました! ご主人様! ロボタクシーで帰りましょう! あれ? 百円玉です……百万円はどこにいきましたか!? 詐欺ですかこれは!? ロボマッポ! ロボマッポを呼んでください! お巡りさん、お釣りがまったく足りません! お巡りさん!」

「こら、メル子!」


 道頓堀に金髪巨乳メイドロボの怒声が響き渡った。


『なんでやねん!』

『なんでやねん!』


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