第458話 ロボチューブ生配信です! その二十
(雅なBGM)
「あ、はい、あ、はい。あ、始まりましてございます。『ご主人様チャンネル』の黒男です」
「助手のメル蔵です!」
画面に白ティー黒髪おさげ、丸メガネの上からグラサンをかけた女性と、頭から紙袋を被った爆乳メイドロボが現れた。
『始まったw』
『久しぶりww』
『どこここwww』
「あ、マスマスなつなつさん、お元気ですか? あ、飛んで平八郎さん、今日も楽しんでいってくださいね。あ、コンプラ違反さん、ここはね、美食ロボ部ですよ。あ、今日はね、あの、あれをね、やりますよ。メル蔵!」
「はい! デュルルルルルルル、デデン!」
「俳句を詠んでみた〜」
「パフパフパフ!」
『俳句www』
『夏らしくていいねw』
『みやび〜w』
「あ、今日はね、大勢のね、あの、ゲストを呼んでいますから。みんなにね、俳句を詠んで、もらいたい。なんてね、思いますよ」
「では、最初のゲストです! どうぞ!」
「オーホホホホ! 近所に住んでるマリ助ですわー!」
「オーホホホホ! お嬢様の助手のアンキモですわー!」
「「オーホホホホ!」」
画面にグラサンをかけた金髪縦ロールのお嬢様と、紙袋を被った金髪縦ロールのメイドロボが現れた。
『きたーwww』
『マリ助かわえーw』
『アンキモ! アンキモ! アンキモ!』
「やあやあ、二人ともようこそようこそ」
「料亭で日本庭園を見ながら歌会とは、お贅沢ですのねー!」
「お貧乏様の黒男様とは思えませんわー!」
『お貧乏様www』
『言うなw』
『さすがお嬢様ww』
「あ、美食ロボ部はですね、あの、今ね、うちの妹の鏡豚のものになっていますのでね、あ、ちょっと借りて配信しています」
「鏡豚ちゃんが相撲で美食ロボを倒して、美食ロボを追い出した結果、鏡豚ちゃんのものになりました!(449話参照)」
『どういうことwww』
『なんで相撲で倒すと料亭をもらえるんだよwww』
『相変わらず、よくわからんことやってるなw』
「あ、はい、あ、はい、ではね、あの、みんなで俳句を詠んでいきたいと思いますよ。メル蔵!」
「はい!」
「メル蔵からいこうか!」
「はい!」
メル蔵は短冊と筆を手に持つと、勢いよく筆を走らせた。
「書けました!」
梅雨終わり
夏の日差しに
耐えかねて
白ティー脱ぎ捨て
ながめせしまに
「どうでしょうか!?」
「いいね〜」
「情景が思い浮かびますわー」
『これ俳句じゃなくて短歌だろwww』
『全裸w』
『とうとうロボットも句を詠む時代かw』
「それではね、マリ助! いこうか!」
「マリ助にお任せですわー!」
オーホホホ
オーホホオホホ
オーホホホ
故郷を想いて
夜ぞふけにける
「お〜、いい俳句だ〜」
「マリ助ちゃん! いい感じですよ!」
「さすがお嬢様ですの」
『高笑いで故郷を想うなw』
『だからこれ短歌なw』
『沁みるわ〜』
「次は、アンキモ! 頼んだ!」
「アンキモにお任せですわー!」
お嬢様
幾世の晩に
数えても
変わらぬ丈の
ながめせしまに
「お〜、アンキモもやるね〜」
「マリ助ちゃん、ドンマイですよ!」
「どういう意味なんですのー!?」
『そのうち伸びるさwww』
『微妙に被せてきてるなw』
『もう俳句はどうでもいいのかww』
「あ、ではね、次のゲストも呼んでいますのでね。はい、チャーリー! ゴリラロボ! マッチョメイド!」
画面にグレーのもこもこのロボット猫チャーリーと、二メートルを超える巨体を持つゴリラロボ、二メートルを超える巨体を持つゴスロリメイドロボが現れた。
「やあ、三人とも! 元気かい!?」
「ニャー」
「ウホ」
「おで げんき」
『どういう組み合わせなんだよw』
『マッチョメイドを動物カテゴリーに混ぜるなw』
『こいつら、俳句詠めるのかよw』
「あ、どうかな。みんなは俳句とかやる方なの?」
「おで けっこう やる」
「ニャー」
「ウホ」
「ふんふん、なるほどなあ」
『なにを言っているかわからんw』
『ちゃんと訳せw』
『大丈夫かw』
「あ、じゃあ。マッチョメイド、いける?」
「おで かけた」
きんにくに
つゆとながるる
わがおもい
なつのくさきの
ながめせしまに
「あ〜、風流だね〜」
「マッチョメイド! すてきな俳句ですよ!」
『けっこうやるやんけw』
『正直、意味はわからんwww』
『ながめせしまに率が高すぎるww』
「ゴリラロボ! できた? いけ!」
「ウホ」
ウホウホホ
ウホウホウッホ
ウホホホホ
ウホウホウホホ
ウッホウホホホ
「そうきたか、ゴリラロボ〜。お前らしいわな」
「ナイスですよ! ゴリラロボ!」
『いや、わかんねえんだよなあw』
『まあ、こうなるだろうなww』
『ちゃんとルールに則って詠んだだけ偉いwww』
「ニャー」
「お、チャーリー、詠めた? 大丈夫? いけ!」
ニャーニャニャニャ
ニャニャニャニャニャーニャ
ニャニャニャニャニャ
ニャニャニャニャンニャン
ながめせしまに
「ほえ〜、そうきたか」
「チャーリー! がんばりましたね!」
『いや、最後喋っとるやんけww』
『急に喋るなwww』
『ながめせしまにはオチではないからなw』
「いや〜、盛り上がってきましたね」
「皆さん、俳句を読むのが上手で驚きました!」
「さあさあ、どんどんいきましょうか。はい、次のゲスト!」
画面に頭から紙袋を被った見た目メカメカしいロボットと、グラサンをかけた銀髪ムチムチ美女が現れた。
「ミナサン、コンバンハ! シャチョーの部下のFORT蘭丸子デス!」
「はぁ〜い、だーりんのマスターの織田ルビ長ね〜。げっご〜いん」
『FORT蘭丸子ちゃんきたw』
『女の子要素はどこなんだよwww』
『ルビ長、エロすぎわろたww』
『あかん、配信BANされるぞww』
「どうなの? 二人はさ、句とか詠んだりするの?」
「しまセン!」
「でもさ、プログラミングって俳句みたいなもんじゃない? ルールが決まってて、そのとおりに文章書くんだからさ」
「ほわぁ〜っつ?」
『俳句とプログラムを同一視するのは、お前だけだろwww』
『なにいうてんねん、この貧乳www』
『ルビ長をもっと下から映してくれww』
「よし! FORT蘭丸子ちゃん、いって!」
「ハイィ!」
夜ふケテ
つのル寂しさ
オーバーラン
あすは山奥
なみだなりケリ
「??? ちょっと意味がわからないけど……」
「蘭丸子ちゃん、どうしました?」
『なんでわからないんだよwww』
『ブラック企業、こええw』
『FORT蘭丸子ちゃん、逃げてww』
「さあ! ルビ長はどうかな? ルビ長はアメリカ人だから俳句は難しいかな?」
「お〜らぃ、できたよ〜」
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「!?」
「なんですか、これは!?」
「ルビー! 十六進数のUTF-8で俳句を詠むのはやめてくだサイ!」
『なんじゃこりゃw』
『誰か変換してくれww』
『無理んごwww』
「ハァハァ、よく考えたら俳句とプログラムは真逆だったわ」
「でしょうね……」
「では、次のゲスト! カモン!」
画面にグラサンをかけた褐色肌の美女と、紙袋を被った褐色肌のメイドロボが現れた。
「やあ、みんな。月からきたマヒ南左衛門だよ」
「みなさん、こんにちは。マヒ南左衛門様の助手のノエ乃進です」
『うひょーw セクシーw』
『マヒ南左衛門って語呂わるッww』
『女王様www』
「二人とも、よくきてくれたね」
「お二人は俳句は嗜みますか!?」
「フフフ。女王たるもの、あらゆる国の文化風習は修めているさ」
「さすがマヒ南左衛門様です」
「おお、これは期待できそうだ! じゃあマヒ南左衛門、お願い!」
あっついな
あついからあせが
たくさんでるな
かえったらシャワーを
あびたいな
「おお……」
「ああ……」
「どうだ!?」
「マヒ南左衛門様、完璧です」
『ああ……』
『うん……』
『いいと思う』
「これは私も負けていられませんね」
「よし……よし! ノエ乃進、頼んだよ!」
凍てつきし
氷の刃で
審判を
破滅の刻に
ながめせしまに
「プッ」
「フフッ」
「今、笑いましたか?」
『かっけぇwww』
『いたたたたたw』
『中二病かなww』
その時、突然座敷の襖が勢いよく開けられた。
「ごっちゃんです!!」
「ぎゃあ!」
画面に丸メガネの上からグラサンをかけた、白ティー黒髪おさげの少女が現れた。
「鏡豚!? どうした急に!?」
「美食ロボ部でバイトをしている鏡豚です! 鏡豚も俳句を詠んできました! よろしくお願いします!」
『黒男の少し小さいバージョンきたwww』
『美食ロボを追い出したバイトww』
『なんかかわいいwww』
「よくわからんが、詠んできたなら見せてみんしゃいよ」
「鏡豚の歌を聞いてください!」
クロちゃんね
いつも鏡豚を
気にしてくれて
ありがとね
メル子もね
いつもね
おいしいものくれて
ありがとね
ずっといっしょにいてね
ばいちゃばいちゃ
「うおおっ、うおっ。鏡豚〜」
「鏡豚ちゃん!」
「えへへ」
『いい俳句だな〜( ; ; )』
『俳句ってこんなに自由だったんだな( ; ; )』
『みやび〜( ; ; )』
その時、座敷の襖が勢いよく開いた。
「待っとぉくれやす」
「ええ!?」
「誰です!?」
襖の奥の座敷に正座をしていたのは、キツネの仮面を被った女子高生であった。結い上げた白髪に黒いセーラー服、桜吹雪の扇子の取り合わせが美しい。
『誰www』
『なんだこの美少女は!?』
『まじ誰ww』
「あてはこの美食ロボ部の会員、茶々丸どす」
茶々丸は扇子をピシャリと閉じた。
「のんびり食事をしてるのに、やかましおしてかなわへん。あての句で黙っとぉくれやす」
花乱れ
器舞い込む
宵の席
『お〜』
『すげぇ!』
『情景が浮かぶわー』
「いや、待ってください!」
「なんどす、メル蔵はん?」
「下の句を! 残る七七を詠んでください! それでは俳句になりませんよ!」
茶々丸は扇子を開いて首筋を扇いだ。
「下の句など、蛇足どすえ」
「……!!!」
『マジか!?』
『確かに俺も、俳句には下の句は不要だと前から思っていたわ!』
『まさか茶々丸様が、下の句を排するまでに極めておられたとは!』
「負けた……」
「参りました!」
黒男とメル蔵は畳に手をついて震えた。
こうして二十二世紀の世に、五七五の俳句が生まれたのであった。
「あ、クロちゃん達が動かなくなったので、鏡豚が締めます! あ、大統領からの手紙さん、今日も楽しかったですか!? あ、マラソンのヨーグルトメーカーさん、またきてください! あ、ニコラ・テス乱太郎さん、ロボチャットください! それでは皆さん、ごきげんよう!」
『ごきげんよう』
『ごきげんよう』
『ばいちゃばいちゃw』
(雅なBGM)




