第447話 ロボチューブ生配信です! その十九
「あ、はい、あ、はい。あ、始まりましたで始まりました。あ、どうも皆さん、『ご主人様チャンネル』の黒男です」
画面に白ティー黒髪おさげ、丸メガネの上からグラサンをかけた女性が現れた。
『始まったwww』
『久しぶりwww』
『大平原w』
「あ、めっきりなつなつさん、こんにちは。あ、飛んで平八郎さん、今日も楽しんでいってくださいね。あ、古古古古米さん、大平原ではありませんよ。メル蔵!」
「はい!」
画面に頭から紙袋を被った巨乳メイドロボが現れた。
『メル蔵〜!』
『でっかwww』
『¥5000。メル蔵のおっぱいに乾杯』
「今日はなにをやるの!」
「今日はゲームの実況プレイをやります! 遊ぶゲームは〜? デュルルルルルルル、デデン!」
「ロボハザード11、ロボットレイン〜」
「パフパフパフ!」
『ロボットレインきた〜!』
『最新作やんけ!』
『これ、俺も買ったw』
「このゲームは、ご主人様が以前勤めていた会社が開発したものです!」
「……」
黒男の顔が真っ青になった。
「ちなみにご主人様は、ロボハザード9でやらかして、会社をクビになりました!(115話参照)」
「……」
『メル蔵、言ってやるなwww』
『追い討ちww』
『ひでぇwww』
「では、本日も豪華ゲストがきてくれています! お二人、どうぞ!」
画面に金髪縦ロール、シャルルペロードレスのグラサンをかけたお嬢様が現れた。
「オーホホホホ! 近所に住んでるマリ助ですわー!」
画面に金髪縦ロール、シャルルペローメイド服の紙袋を被ったメイドロボが現れた。
「オーホホホホ! お嬢様の助手のアンキモですわー!」
「「オーホホホホ!」」
『マリ助、かわえー』
『アンキモ、アンキモ、アンキモ!』
『黒男、立ち直れwww』
「では、ゲームを開始します! ご主人様!? 始めますよ!」
「ええ? ああ、うん」
「それでは、スタート! ポチ!」
『ロボォ〜、ハザードォ〜、イレブ〜ン!!』
「ぎゃあ!」
「始まりましたのー!」
「ロボ渡りを選ぶ画面ですのー!」
プレイヤーは八人のロボ渡りの中から好きなキャラクターを選び、ゲームを開始する。
「よしよし。ご主人様は、マッチョポリスを選ぶよ!」
「私はもちろん、マッチョメイドですよ! 最強キャラですから!」
「わたくしは、金髪クノイチを選びますわー! 使い慣れたキャラクターが一番ですものねー!」
「わたくしは、金髪女スパイを選びますわよー! これでお嬢様をサポートいたしますわー!」
『定番www』
『いつものw』
『はじまた!』
画面が切り替わり、ヘリに乗る四人の姿が映し出された。
「えーとね、このゾンボ(ゾンビロボット)が溢れるロボ新宿の街がゲームの舞台なのね。ヘリで自由に場所を選んで降りられるんだよ」
「ご主人様! 都庁に降りましょうよ!」
「都庁はゾンボが多そうですわー!」
「ロボ歌舞伎町のロボキホーテなら、アイテムが多そうですわー!」
「いいね! ロボ歌舞伎町に向かうか……ん?」
その時、ヘリの下方からなにかが迫ってくるのが見えた。噴煙をあげて飛来するそれは、あっという間にヘリに直撃した。
「ぎゃばー! ロケランだ!」
「なにごとですか!?」
「落ちますのー!」
「ヘリは落ちるものですのー!」
ヘリは見事にロボ歌舞伎町に墜落した。
『知ってたwww』
『ざまぁw』
『まあでも、ロボ歌舞伎町についたじゃんwww』
墜落ですべての武器を失ったマッチョポリス、マッチョメイド、クノイチ、女スパイは歌舞伎町の街をさまよった。
「ご主人様! どうすればいいですか!?」
「よし、ここで改めて、ロボットレインのルールを説明しよう」
ロボットレインは、ゾンボが蔓延るロボ新宿の街で、三日間生き抜くサバイバルアクションゲームだ。街を探索し、装備を整え、ゾンボを倒してレベルを上げ、夜に現れるボスを倒す。三日目の夜には、ゾンボの王と呼ばれる大ボスが出現する。このゾンボの王を倒せば、ゲームクリアとなる。
「まずは武器を集めないと!」
「アンキモさん! ロボキホーテはどこですか!?」
「こちらですのー!」
女スパイはスパイレーダーを使い、皆を導いた。ゾンボの群れを避け、用心深く進む。一行はロボキホーテの店舗内に侵入した。
「あります! 武器がたくさんありますよ!」
「ご主人様はポリスらしく、ニューナンブを選ぶぜ」
「わたくしは、手裏剣セットを発見しましたわー!」
「わたくしは、ロケランを持っていきますわー!」
各々が装備を整える中、マッチョメイドだけは必死に棚を漁っていた。
「メル蔵、どしたの?」
「ないのですよ!」
「なにがよ?」
「最強武器がないのですよ!」
「ロケランならありますわよ」
「ロケランなどというチンケな武器は探していないのですよ! 刺股ですよ、刺股! 刺股がなかったら始まりませんよ!」
『でたww』
『刺股www』
『いらんだろw』
その時、棚に潜んでいたゾンボがマッチョメイドに掴みかかった。
「ぎゃあ! ゾンボが隠れていました! 助けて! 痛い! 噛まれています! 助けて!」
「皆様! スパイレーダーにゾンボの反応がありますわ! 気をつけてくださいましー!」
「もう噛まれています! なんですか、その役に立たない情報は!」
マッチョメイドはグーパンチでゾンボを吹っ飛ばした。
「ハァハァ、今の騒ぎでゾンボが店内に侵入してきました! 逃げるしかありません!」
一行はゾンボを倒しながら、ロボックカメラを目指した。
「ハァハァ、ロボックカメラなら刺股があるはずです! そこへ向かいましょう! ユニクロボも併設されているので、防具も手に入るはずです!」
「メル蔵、けっこう遠いけど大丈夫?」
「刺股なしでクリアできるはずがありません! いくしかないでしょう!」
『刺股は諦めろwww』
『刺股原理主義w』
『カメラ屋に刺股はないだろw』
しかし、向かう途中で日が落ち、夜になってしまった。ゾンボが鳴りを潜めた伽藍堂の新宿通りを歩く一行。
「なにか様子がおかしいですの」
「お嬢様の言うとおりですの」
すると、通りの真ん中に巨大なロボットが出現した。巨大な燃える剣を持ち、体からも炎が噴き出ている。
「ぎゃあ! 夜に出現するボスです!」
「熔鉄ロボだって。あいつを倒して、夜を乗り切らないと」
ボスとの戦いが始まった。マッチョポリスが銃で撃ち、クノイチが爆弾手裏剣で鎧を破壊した。マッチョメイドが拳で殴りつけると、ボスは膝をついた。
「いけそうですわー!」
「さすがお嬢様ですわー!」
「アチアチ! 素手だから熱いです!」
瀕死状態になった熔鉄ロボは、大量の溶岩を辺りに撒き散らした。マッチョメイドは体を焼かれて倒れてしまった。
「ぎゃあ! やられました! ダウンです! 助けて! ハーブをください!」
「おハーブは持ってきていませんの」
「忘れていましたの」
「ハーブを忘れるとは何事ですか! なんのためにロボキホーテにいきましたか!」
女スパイは巨大なロケットランチャーを肩に構えた。そして倒れたマッチョメイド目掛けてトリガーを引いた。
「ぎゃあ! なぜ私を撃ちますか!? あれ? 復活しています! 動けます!」
ロボットレインでは、倒れた仲間を攻撃することにより、復活させることができるのだ。
『なにこの仕様www』
『貴重なロケランを使うなww』
『ボス撃破おめwww』
ボスを撃破したマッチョポリス達は、ロボックカメラの中で野営をした。
「ハァハァ、なんとか一晩を過ごせました。しかし、ここでも刺股は手に入りませんでした」
「あ、雨が迫ってきてるよ」
「逃げないとまずいですのー!」
ロボットレインでは、時間の経過とともに黒い雨が襲ってくる。雨に触れるとダメージを受けてしまうため、雨から逃れるように移動しなくてはならないのだ。
二日目。ロボ國屋書店で地図を取得し、地下の焼きそば屋で体力を増やし、ロボ新宿駅へと向かう一行。
「だいぶ装備が整ってきたね」
「この調子なら、ゾンボの王も余裕ですのー!」
「さすがお嬢様ですのー!」
「皆さん、油断は禁物ですよ! なにせ、まだ最強武器である刺股が手に入っていないのですからね!」
『刺股はもう諦めろw』
『なぜそこまで刺股に執着すんねんww』
マッチョポリス達はロボ新宿駅に侵入した。ここは複雑な大規模ダンジョンになっており、より強い装備が手に入る可能性が高い。
薄暗く、荒廃したロボ新宿駅の中は、ただ歩くだけでも精神がすり減っていく。
「ハァハァ。なにか……ここは前にきたことがありませんか?」
「ロボハザード10のマップだね(277話参照)。開発費削減のために、マップを使い回すのはよくあることさ」
「ハァハァ、なるほど。あ、見てください! あそこにゾンボの群れがいます! そしてお宝を守っています!」
一行はゾンボを蹴散らした。装備が強化されたマッチョポリス達にかかれば、ザコゾンボなどものの数ではなかった。
「宝箱です! きっとこれに刺股が入っているに違いありません! それ! ぎゃあ!」
マッチョメイドが宝箱を開けた途端、その開口部にマッチョメイドの首が挟みこまれた。
「イダダダダダダ! これロボミミックです! イダダダダ! 助けて! 宝箱に食べられています! 誰か!」
「皆様、気をつけてくださいましー! スパイレーダーに罠の反応がありましたわー!」
「もうとっくに罠が発動しています! そのポンコツレーダーを捨ててください!」
『メル蔵が早まりすぎなんだよw』
『落ち着けwww』
『さすがマッチョメイド、知能ゼロww』
ロボ新宿駅を彷徨っているうちに夜が訪れた。二体目のボスが出現したが、危なげなく撃破した。
「さあ! いよいよ三日目だよ! 三日目の夜に現れるゾンボの王は、今までとは比べものにならないほどの強敵だからね。心して挑もう!」
「「ですのー!」」
マッチョポリスの発破に、クノイチと女スパイは拳を振り上げて同調した。しかし、マッチョメイドだけは下を向いたままであった。
「んん? どしたの、メル蔵」
「ご主人様……」
マッチョメイドは神妙な面持ちで語った。
「やはり……刺股は手に入りませんでした……」
「うん、まあ、そうだね」
「私、刺股のありかに心当たりがあります!」
「ええ!?」
「今から取りにいってきます!」
マッチョメイドは一人走り出した。
「待って、メル蔵!」
「いってしまいましたの」
「どうしますの、これ」
三人は呆然と見送るしかなかった。
『あーあー』
『また、分裂かいwww』
『なんでこの人達、いつも普通にプレイできないのww』
いよいよ三日目の夜がきた。雨に追われる形でやってきた戦いの場は、ロボ新宿西口ロータリーだ。スクラップになった多数のバスが、無惨な姿を晒していた。
「きた! あれだ! あれがゾンボの王だ!」
「なんですの、あれはー!?」
「飛んでいますわー!」
それは巨大なゾンボドラゴン、略してゾンドラ王であった。
『でけぇ!』
『やべぇ!』
『デカすぎるッ!』
夜の闇に紛れる漆黒のゾンドラ王は、マッチョポリス達の上を不遜な態度で旋回した。
「みんな! いくよ!」
マッチョポリスはライフル銃を乱射した。クノイチは毒手裏剣を投げた。女スパイはスパイビームを撃った。しかし、空を飛ぶゾンドラ王に対してはいかにも非力であった。
「あかーん! このままじゃジリ貧だ!」
「任せてほしいですのー! あちらに誘導するのですわー!」
三人はロータリーを走った。カリヨン橋をくぐり抜けた先で、ゾンドラ王を迎え撃つ。橋の下を飛行した竜は、体になにかが絡みつくのを感じた。女スパイが仕掛けたワイヤートラップだ。
「かかりましたのー!」
巨大な竜はワイヤーを引きちぎって上空に飛び上がった。そのワイヤーの先には三人のロボ渡り達がしがみついていた。
「直接体によじ登って戦うぞ!」
ワイヤーを伝い、竜の背中にしがみついた。鱗の隙間にライフル銃を差し込み、撃ちまくった。
『空中戦だ!』
『かっけぇ!』
『ハリウッド映画かwww』
悶えるゾンドラ王は、咆哮した。すると雷雲がロボ新宿の街を覆い出した。
「なんだ!? ぎゃばー!」
すさまじい雷光とともに、稲妻がゾンドラ王を直撃した。背中に乗っていた三人は電撃をもろに食らって倒れた。
『やべぇ!』
『全滅か!?』
『どうする!?』
その時、遠くでなにかが光った。稲光ではない。巨大な二股の棒がそびえ立っているのだ。
「なんだあれは!?」
「あれは、刺股ですのー!」
「どうして、あんな巨大な刺股があるんですのー!?」
再び雷光が走った。光に照らされ、その全容が明らかになった。
「都庁だ! あれは都庁だ!」
「都庁が光っていますのー!」
「都庁のツインビルが、まるで二股に分かれた刺股のように見えますのー!」
『うそだろwww』
『ここにきて刺股www』
『ロボ役人が、この時間まで都庁で残業中www』
「ご主人様ー!」
「あれはメル蔵!?」
マッチョポリスは見た。ツインビルの北展望室の屋上にいるマッチョメイドを。
ゾンドラ王は吸い込まれるように、巨大刺股の間を飛び抜けようとした。その瞬間を狙い、マッチョメイドは飛び降りた。
「今です!」
マッチョメイドは、岩のような拳を竜の背中に叩きつけた。その衝撃は周囲に伝播し、背中に乗っていたマッチョポリス、クノイチ、女スパイに大ダメージを与えた。
『味方を巻き込んでんじゃねーかw』
『いや、違うぞ!』
『仕様を思い出せ!』
そう、ロボットレインでは、ダウンした味方に対する攻撃は、復活行為になるのだ。
「メル蔵ー!」
「復活しましたわー!」
「トドメですのー!」
ダウン状態から復活した四人は、いっせいに総攻撃を仕掛けた。次々に漆黒の鱗が剥がれ落ち、翼が裂け、やがて竜は高度を落として地面に激突した。
『ROBOT SLAIN』
画面にデカデカと勝利のロゴが表示された。マッチョメイドは高々とその拳を突き上げた。
「刺股の勝利です!」
『刺股すげぇ!』
『刺股関係あったか?』
『まあ、勝ったからええかwww』
『¥8000。刺股に乾杯』
「あ、スシキングさん、楽しんでいただけましたでしょうか? あ、外食代行サービスさん、さすが刺股でしたね。あ、ニコラ・テス乱太郎さん、ロボチャットありがとうございます。あ、それではね、あの、今日はこの辺で終わりたいと思います。ごきげんよう!」
(軽快なBGM)




