表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/509

第43話 メイド交換です!

「アン子? どうしてここにいるの? マリーが心配してるから、おうち帰んな?」

「ご主人様を置いてどこかにいくなんて、できませんわー! オーホホホホ!」


 どうやらアンテロッテは、黒乃をご主人様だと認識しているようだ。先ほどのゴキブリ騒ぎのどさくさで、AIがおかしくなってしまったのだろうか?

 このままにしておくわけにもいかないので、アンテロッテを連れてマリーの部屋までいってみた。メル子も同様にマリーをご主人様だと認識しているようだった。

 それぞれの部屋に帰るように説得したが、頑として動かなかった。埒があかないので、アンテロッテを連れて部屋まで戻ってきた。


 職人ロボのアイザック・アシモ風太郎に連絡をして状況を伝えたが、検査をしてみないと詳しくはわからないという返事だった。しかしゴキブリロボが出す超音波によって、ロボットが変調をきたす例は存在するようであった。

 TM NETWORKの『SEVEN DAYS WAR』を聴かせれば直るかもしれないと言われたので熱唱してみたが、効果はなかった。


「明日工場にいって、検査してもらおう。でもアン子はクサカリ・インダストリアル製のロボットだから、そこの浅草工場じゃダメだよな。どうしよう?」

「ご主人様、わたくしはどこもおかしくありませんわー! オーホホホホ!」


 仕方ない。今日はこのままアンテロッテと一晩過ごすしかなさそうだ。下の部屋のメル子は大丈夫だろうか。

 改めて黒乃はアンテロッテを見た。派手な金髪縦ロールに青い瞳、口元のほくろ。シャルルペローの童話に出てきそうなドレスをベースにしたメイド服。胸元が大きく開いており、ほどよい大きさの胸が見えている。全体的にメル子よりもお姉さんな印象を与え、色気が垣間見えた。


「いやー、しかし美人だな。マリーのお姉さんとそっくりなんだっけ?」

「そうでございますわ。並ぶと区別がつきませんのよ」

「それ困るでしょ。被せすぎなんだよなあ。てか、メイドロボと容姿が同じ人間てなんだよ。そんな整った人間なんて存在するか!? 漫画のキャラじゃないんだからさ。でもマリーも漫画みたいに可愛いからあり得るのか? わからん」


 その時、黒乃のお腹が鳴った。夕飯がまだなのを忘れていた。ここは仕方あるまい。気持ちを切り替えて、無事アンテロッテと一夜を明かすことを優先すべきだ。


「じゃあアン子、ご飯作ってよ」

「アン子にお任せですわー!」


 アンテロッテは立ち上がると、キッチンの寸胴を開けた。


「鶏ですわね。これで鶏のフリカッセを作りますわー!」

「おお、下で作ってたやつね」

「ライスが余っていますので、ライスプディングをデザートにしやしゃんせ」

「また謎のお嬢様言葉! ライスプディングってなに!?」

 

 アンテロッテはテキパキと作業をしていく。


「フンフフーン。今日のご飯はフリカッセ〜。フリフリフリフリ、フリカッセ〜。可愛いメイドさんのフリカッセ〜。バターにワインにブイヨンですわー。フンフフーン」

「歌も被ってんだよなあ……」


 鶏のフリカッセがテーブルに並んだ。煮込まれた鶏と、クリームのなめらかなスープが心を落ち着かせる一品だ。


「どうぞ、召し上がれ!」

「うーむ、うまい! ホロホロに煮込まれた鶏と、たくさんの具材の出汁が上品にまとまっていて、正装で食べたくなる味だよ。こりゃアテネのアリストパネスも納得だわ」


 食後のデザートはライスプディングである。米を牛乳で煮込んで甘い味付けにしたもので、焼いたリンゴを乗せるのがアンテロッテのオリジナルである。


「甘くてトロトロでうまー。朝起きた直後にも、スルスル入っていきそうな優しさだよ」

「お気に召されまして?」

「もちろん! あー、食った食った」


 黒乃は背もたれに体を預け、お腹をポンポン叩いた。そういえば、メル子達はちゃんと夕飯を食べただろうか? 心配になった。


「ところで、マリーってなんでこんなボロアパートに住んでるの? お嬢様なんだから、学校の寮とかに住めばいいのに」

「青山にあるお嬢様学校に入ることも考えたのですが、どうしても姉のアニー様の住んでいる町の近くがいいと言ってききませんでしたので、浅草の普通の中学校に入ったのですわ」

「姉なのにアニーなのね。ややこしい! でもお嬢様にボロアパート暮らしはきついでしょ。大丈夫なの?」

「お嬢様はアンテロッテが一緒だから、毎日楽しいと言ってくださっておりますわー! オーホホホホ!」


 アンテロッテは高笑いをしたものの、急にうつむき動きを止めてしまった。


「やべ、ご主人様が急に別人になったから、話が合わなくなってAIが混乱してるのかも。アン子、落ち着いて」

「なんだかわかりませんが、大丈夫ですわー」


 黒乃は話題を変えようとした。


「あー、そうだ。お風呂入ろうかな。ゴキブリ騒ぎで汗かいたし」

「わかりましたですわ。準備いたしますので、しばしお待ちくださいですわ」


 そう言うと、アンテロッテはエプロンを脱いで椅子にかけた。次にフレンチメイドストッキングを下ろしていく。真っ白な脚が眩しく光った。


「んん? アン子、なにしてるの? お風呂に入るのは私だけど?」

「ご主人様と一緒にお風呂に入るのがメイドの務めですわ」

「うおおおおお!!」


 黒乃は思い出した。マリーは毎日、アンテロッテと一緒に風呂に入っているのだった。


「とうとうメイドロボとお風呂に入れる時がきたか!」


 しかし、黒乃はすぐさまメル子のことを思い出した。


「いや、あかんあかん。私にはメル子がいるんだから。他のメイドロボとエロいことしたらあかんでしょ」


 アンテロッテはドレスの紐をほどき、メイド服をするりと脱ぐと、ブラに押さえつけられて窮屈そうな胸がまろび出た。


「うおおおおお! あかーん! いや、こんなチャンスは二度と……あかーん! いや、向こうは入る気まんまんなんだし……あかーん! いや、メイドロボに恥をかかせるわけには……あかーん!」


 黒乃はアンテロッテの肩に両手を置いた。


「アン子、今日は先に一人でお風呂入って」

「そうですの……わかりましたわ」


 言われるまま、アンテロッテは風呂場に向かった。それを見届けると、黒乃はアンテロッテのストッキングを顔に巻いて遊んだ。



 夜も更けてきた。

 黒乃とアンテロッテは布団を並べて敷いた。黒乃はいつも、白ティーにパンツいっちょというはしたない格好で寝ているが、アンテロッテはそうもいかない。メル子の赤ジャージを着てもらうことにした。サイズが合わないため、手足がツンツルテンになっているがしょうがない。


「本当に一人で寝られますの?」

「私は一人で大丈夫だから。マリーじゃないから」

「そうですの……」


 アンテロッテは寂しそうだ。やはりご主人様が入れ替わっている状況は異常事態だ。早くなんとかしなくてはならない。しかし黒乃にはどうすることもできないのがもどかしい。

 きっとメル子も同じ状況になっているだろう。そう思うと胸が苦しくなる。明日なんとかしよう。


 アンテロッテは布団に入った。それを見て黒乃は「おやすみ」と声をかけて電気を消した。

 しばらくするとアンテロッテがすすり泣く声が聞こえた。黒乃は起き上がり声をかけた。


「アン子、大丈夫?」

「なんでもありませんわ」

「そうか」


 黒乃は布団から出てアンテロッテの側までいくと、その金髪を優しく撫でた。しばらくそうしていると、じきに寝息をたてはじめた。


「マリーが寂しいから一緒に寝てるんじゃなくて、アン子も一人は寂しいんだな」


 黒乃は布団に入り眠りについた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ