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うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない  作者: ギガントメガ太郎


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第428話 新婚生活です! その一

 むかしむかし、百年ほど未来のむかし、浅草に少女達がおりました。

 浅草寺の雷門からほど近い路地に佇むボロアパートの小汚い一室。そこではうら若き乙女二人が、新しい暮らしを始めていたのでした。


 ピピピピ、ピピピピ。

 デバイスに仕掛けられたアラームが、起床の時間を知らせます。一人は床に敷かれた布団から、むくりと起き上がりました。赤みがかった桃色に見えるショートボブの髪は、寝ている間に各々が好きな方向を向いていたため、イガグリのように攻撃的な風貌になっていました。

 この可愛らしい少女は、桃ノ木朱華(もものきしゅか)、高校一年生、尼崎出身。真っ赤な厚い唇と丸みを帯びた輪郭のせいで、大人びて見えます。


 ピピピピ、ピピピピ。

 おやおや、アラームが鳴っているのにちっとも起きないこちらの少女は、黒ノ木鏡乃(くろのきみらの)、高校一年生、尼崎出身。背中まで垂れる漆黒の髪は、寝ている間に首に絡みつき、苦しそうにうなり声をあげるはめになっていました。アホですね。


「うーん、きーちゃん、助けて」


 鏡乃は夢の中で、黒ノ木家次女黄乃(きの)に助けを求めました。いつもは姉がなんでも助けてくれるのです。でも今日は助けてくれません。なぜなら鏡乃は、実家を出て上京してきたからなのです。


「うーん、しーちゃん、足を噛まないで」


 鏡乃は夢の中で、黒ノ木家サード紫乃(しの)に助けを求めました。紫乃は鏡乃と歳が近いので、一番遊んでくれるのです。夢の中でじゃれ合う二人、微笑ましいですね。


「はうッ! あうあー! ああ! ああ? あれ? ここどこ?」


 鏡乃は起き上がり、部屋の中をぐるりと見回しました。丸メガネをかけていないことに気がつき、慌てて枕元をまさぐり装着しました。


「あうあうあうあ! しーちゃん、どこ!?」


 鏡乃はいつもの自分の部屋ではないことに気がつき、一瞬パニックになりました。そうです、鏡乃は上京したのです。もう温かい家族の笑顔で、目を覚ますことはできないのです。


「ミラちゃん、おはよう」

「シューちゃん、おはよう」


 でも、心配はいりません。なぜなら、鏡乃には大事なパートナーがいるのですから。

 ようやく落ち着きを取り戻した鏡乃は、着替えを始めました。黒ノ木家の習慣である、白ティーパンツ一丁での就寝スタイルから、セーラー服姿へと変身をします。ようやく女子高生らしくなってきました。

 朱華は椅子に座る鏡乃の後ろに立つと、おさげを編み始めました。おさげは黒ノ木家の女子に伝わる伝統のヘアスタイルです。みごとなごんぶとおさげが練り上がりました。やはり、こうでないといけません。


 鏡乃は上機嫌で納豆をかき混ぜました。朱華はずしりとした鉄フライパンに、卵を二個落としました。朝食は二人で協力して作ります。今日のモーニングは、納豆目玉焼きご飯です。みじん切りにしたネギをたっぷりと乗せるのが流儀です。


「モグモグ、おいしいね」

「うん、うまかー」


 ダンボール箱が積まれた部屋の中で、二人は食事を楽しみました。


 朝食を済ませたら、すぐに登校です。小汚い部屋を出ると、金色に輝く二人組がいました。


「あ、マリ助とアンキモだ! おはよう!」

「オーホホホホ! 鏡乃さん、朱華さん、ボンジュールですわー!」

「オーホホホホ! 気持ちのよい朝でごじゃりましゅわえー!」

「「オーホホホホ!」」

「朝から高笑いだ! すごい!」

「すごかー」


 金髪縦ロールのお嬢様のマリーと、金髪縦ロールのメイドロボのアンテロッテです。マリーは中学三年生なので、制服を着て登校します。


「わあ! マリ助の制服かわいい!」

「鏡乃さんのセーラー服も、すてきでございますわよ」


 鏡乃はマリーを褒め称えます。おや? それを見た朱華は、頬を膨らませているようです。嫉妬でしょうか? かわいいですね。

 鏡乃は周囲を見渡しました。


「ねえ、クロちゃんとメル子は?」

「黒乃様達は、もうとっくに仲見世通りに復興にいきましたわえー!」

「なーんだ」


 アンテロッテに見送られ、鏡乃と朱華とマリーは通学路を歩きました。


「ねえねえ、マリ助はなんの部活に入っているの?」

「わたくし、お嬢様部ですのよ」

「なにそれ、すごい!」

「一流のお嬢様だけが入ることができる部活でしてよ」

「すごかー、何人いるん?」


 朱華は興味津々で聞きました。


「わたくし一人だけでしてよ」

「すごかー」


 一般の中学校にお嬢様がポンポンいるはずもなく、部員はマリーだけなのでした。


「鏡乃さん達は、どの部活に入りますの?」

「鏡乃はねー、もう決めてる! 相撲部に入る!」

「さすが鏡乃山(みらのやま)ですのね」


 鏡乃は昨年浅草寺で行われた浅草場所で、みごと優勝をしているのです。姉である黒乃山と決勝で戦い、そして同時優勝を果たしたことは、鏡乃山の自慢なのです(393話参照)。


「えへへ」

「朱華さんは、どの部活に入りますの?」

「ウチは茶道部にしようと思うんよ」

「すてきですわー!」


 鏡乃達の高校『浅草市立ロボヶ丘高校』は、部活動に力を入れているようです。部活での活躍に期待したいですね。



 二人は隅田川の水上バス乗り場へとやってきました。ここから船に乗り、隅田川を遡ればすぐに到着します。二十二世紀では、通学費は全額免除となっているので、乗り放題なのです。羨ましいですね。


「ミラちゃん、風がきもちよかー」

「うう……酔った」




 夕方、鏡乃と朱華はボロアパートに戻ってきました。新しい学校、新しいクラスメイト、新しい先生。新しい環境は強いストレスを与えます。

 もともと社交的ではない鏡乃は、クタクタになっていました。


「ふぅふぅ、疲れたよ」

「ミラちゃん、大丈夫?」


 ボロアパートの前で二人を出迎えたのは、赤い和風メイド服が鮮やかな金髪巨乳メイドロボでした。その姿を一目見たとたん、鏡乃のざらついた心は、春風に吹かれたように爽やかになったのでした。


「鏡乃ちゃん、朱華ちゃん、おかえりなさいませ」

「メル子〜!」


 鏡乃はメル子に走りより、力一杯抱きしめました。当然お乳を揉んだので、手のひらをつねられてしまいました。


「お二人とも、学校はいかがでしたか?」

「なんか、ドキドキした!」

「ばり楽しかってん」

「うふふ、それはよかったです。今日は入学祝いのパーティーをしますので、お部屋にきてくださいね」


 鏡乃と朱華は、顔を見合わせて喜びました。



 夜、ささやかなパーティーが始まりました。ボロアパートの小汚い部屋に、鏡乃、朱華、黒乃、メル子、マリー、アンテロッテ、紅子が集まりました。これだけ集まるととても窮屈です。


「すごい! パーティーだ、すごい!」

「すごかー」


 部屋の中はおいしそうな匂いが充満しています。紅子は床に置かれたプチ小汚い部屋を覗き込んでいます。その中ではプチ黒、プチメル子、プッチャが同じくパーティーの準備を始めていました。

 鏡乃は紅子を膝の上に乗せて、二人でその様子を観察しました。


「かわい〜」

「すごい!」


 鏡乃と紅子はとても仲良しです。なぜなら無人島でいっしょにサバイバルをしたからです(340話参照)。


「ねえ、クロちゃん!」

「なんだい、鏡乃」

「鏡乃もめいどろぼっちほしい!」


 その言葉を聞き、黒乃の顔は真っ青になりました。


「鏡乃ちゃん! ご主人様にめいどろぼっちの話は禁止です!」

「なんで?」


 慌ててフォローに入るメル子でしたが、黒乃はトラウマをえぐられ、床に突っ伏してしまいました。


「ねえ〜、クロちゃん」


 鏡乃は姉の巨ケツを揺さぶりました。


「めいどろぼっちちょうだいよ〜」

「もうない。販売中止になった」

「ほんとは倉庫にあるんでしょ〜? ちょうだいよ〜」

「ない」

「じゃあ、プチメル子をもらうもん!」


 鏡乃はプチ小汚い部屋に手を差し入れ、プチメル子のメイド服の帯をつまみました。プチメル子はパタパタと動いてそこから逃れようとします。寝ていたプッチャが飛び上がり、鏡乃の手を爪で引っ掻きました。


「いたい!」

 

 思わず指を離してしまい、プチメル子は落下をしました。しかし、下にいたプチ黒の小さい巨ケツがクッションになったので、無事着地できたのです。


「さあ、お料理の準備ができましたよ!」

「お召し上がれでごりゃんす!」


 テーブルの上に、メル子とアンテロッテの料理が並びました。ワイルドな南米料理、華やかなおフランス料理、どちらもとてもおいしそうですね。


「わあ、すごい!」

「すごかー」

「では、皆の衆、いただきます!」

「「いただきます!」」


 黒乃の号令でパーティーが始まりました。皆、いっせいに料理に手を伸ばしました。唐辛子が効いた麺料理、優しい味わいの魚料理、どれも絶品です。


「おいしい!」

「うまかー」


 二人は夢中になって料理を食べています。とても夢中になっています。なぜでしょうか? それは勝手に出てくる料理のありがたみを堪能しているからです。

 もう待っていれば、自動的に料理が出てくる生活は終わったのです。これからは自分で食べるご飯は、自分で作らないといけないのです。


「あの、メル子さん」朱華は言いました。

「はい、なんでしょう」

「ウチ、お料理を覚えたいから、教えてくれへんやろか」


 それを聞いたメル子の顔は輝きました。「よろこんで!」

「朱華様、わたくしもおフランス料理をお教えしますわよー!」


 負けじとアンテロッテも申し出ます。


「ありがとう!」


 その時、朱華は鏡乃の頬に米粒がついているのに気がつきました。


「ミラちゃん、おべんとさんついとるで」


 朱華はそれを指で取ると、自分の口に運びました。


「あんがと」

「お嬢様、おコンフィがついていますの」


 それを見たアンテロッテは、マリーのほっぺについた鴨肉のコンフィを自分の口に運びました。


「メルシーですの」


 それを見たメル子は、紅子のほっぺについたコシーニャ(ブラジルのコロッケ)を自分の口に運びました。


「ありがと〜」


 それを見た黒乃は、ほっぺにたくあんをつけたまま呆然としました。


「なんで私のは誰もとってくれないの」


 おいしい料理をすべて平らげ、一行は床に寝転びました。メル子とアンテロッテが食器を洗う音が眠気を誘います。


「んあ〜、食べた食べた。そういえば鏡乃、部活はなににしたの?」


 黒乃がケツをかきながら聞きました。


「ん〜、ちゃんこ部」

「ちゃんこ部?」

「あら? 相撲部に入ると、今朝言っていませんでしたこと?」

「うん、そのつもりだった」

「じゃあ、なんでちゃんこ部に入ったのよ」

「相撲部なかったから」

「ええ? あるでしょ。なんか、ロボヶ丘高校の相撲部と戦った記憶があるもん(386話参照)」

「変な力士にそそのかされて、茶道部と戦ったら負けて、稽古場が茶道部にとられたんだって」

「ウチ、茶道部に入部したら、土俵でお茶を点ててたんよ」


 その話を聞いた黒乃とメル子の顔が、みるみると青ざめていきました。そう、その力士とは黒乃山のことであり、黒乃山の助言のせいで、相撲部はちゃんこ部になってしまったのです。


「ふ、ふーん、そうなんだ」

「おもしろいこともあるものですね!」


 しかし、鏡乃はまったく気がついていないようです。


「でも、ちゃんこ部の人達にすごく歓迎された! 救世主がきたって! だから鏡乃、ちゃんこ部でがんばる!」

「ミラちゃん、かっこよか!」


 朱華は拍手をしました。それにつられて、皆拍手をしました。

 なにはともあれ、始まった高校生活。皆さんも手を叩いて祝ってあげてください。


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