第425話 ロボチューブ生配信です! その十八
ブルーシートの上に寝そべりケツをかく、グラサンをかけた女性が画面に映された。
『始まった!』
『どこここwww』
『ケツwww』
「ご主人様、どうぞ。お紅茶です」
「あんがと」
画面に紙袋を被った巨乳メイドロボが現れた。
『メル蔵ー!』
『でっかw』
『お花見してんのwww』
「あ、しらゆきひめひめさん、今日はね、隅田公園でですね、のんびりとお花見をしようと思いますよ。あ、飛んで平八郎さん、いつもありがとうございます。あ、戦国ブルーシートさん、時代考証はできていますか? あ、どうも『ご主人様チャンネル』の黒男です」
黒男は寝そべったまま紅茶のカップを傾け、器用に口に含んだ。落ちてきた桜の花びらが赤い水面に浮いた。
「あらやだ、みやび〜」
「さしずめ、チェリーティーといったところでしょうか」
「あはは」
「うふふ」
『イチャつくなwww』
『はよ始めろw』
『こいつら、あんなことがあったあとに、よく寛げるなwww』
「あ、えへへ。みなさん、お元気していますか? えへへ、あ、我々はですね、あの、業務停止命令をですね、くらってしまいまして、あ、暇をしています」
『復興を手伝えよw』
『今回は世界を救ったの? それとも世界を破壊しようとしたの?』
『毎回やべーことしてんな、こいつらwww』
「あ、今回はですね、ボクちゃん達は悪くありません。あの、利用されただけですから、あ、悪いやつはどっかに逃げました」
「ご主人様、おにぎりもどうぞ」
「あんがと。モグモグ、うまい。あ、そうそう、今日はね、ゲストをたくさん呼んでいますからね。あの、あ、でてきて!」
画面に金髪縦ロール、シャルルペロードレスの、グラサンをかけた少女が現れた。
「オーホホホホ! 近所に住んでるマリ助ですわー!」
画面に金髪縦ロール、シャルルペローメイド服の、頭から紙袋を被ったメイドロボが現れた。
「オーホホホホ! お嬢様の助手のアンキモですわー!」
『きたー!』
『マリ助、かわえー』
『アンキモ! アンキモ! アンキモ!』
「やあやあ、いらっしゃいいらっしゃい。ゆっくりしていってよ」
「お邪魔しますの」
「ジャンボン・ブールを作ってまいりましたの。お召し上がれですの」
ジャンボン・ブールとはフランスのサンドイッチで、バターを塗ったパンにハムを挟んだものだ。
「おお! こりゃうまそうだ。モグモグ、うまい」
一行はしばらく無言で料理を堪能した。
『お花見っぽくなってきたw』
『なんかしゃべれwww』
『平和w』
「で、どうだった、マリ助。今回の件は」
「わたくし、言いたいことがございますの」
「なにを?」
「今回、出番が少なすぎましたの」
「お嬢様の言うとおりですの」
「ええ? そうだった?」
「『メイドロボは電気お嬢様の夢を見るか?』というタイトルなのだから、てっきりわたくしが主役の話かと思っていましたの」
「お嬢様の言うとおりですの」
「でも、マリ助は電気お嬢様じゃないでしょ」
「マリ助ちゃん! マリ助ちゃんは『ロボなる宇宙』編で勇者として活躍したのですから、いいではないですか」
「にしても、出番が少ないですの。ナンチャラとかいう作者に、五時間説教したいですの」
「お嬢様の言うとおりですの」
『作者説教www』
『ご褒美ww』
『おっぱいロボw』
「だいたい、なんでマリ助達はなんの処分もないのよ」
「なんの話ですの?」
「いや、だって。マリ助達はロボクロソフト側について、おじょうさまっちを発案したんでしょ。そんでうちとロボクロソフトは、業務停止命令を受けたんだよ」
「それがなんですの」
「マリ助だってロボクロソフトの一員として、処分を受けなさいよ」
「お嬢様は中学生ですので、お咎めなしですの」
「アンキモの言うとおりですの」
「そういう時だけ子供ぶるのは、ずるいじゃないのよ」
『食い下がるな、この貧乳www』
『子供相手にマジギレかよww』
『大平原のくせにww』
「なんかみんな、マリ助には甘いんだよなあ。ボクちゃんにも優しくしてよ!」
「ご主人様! 落ち着いてください!」
「おとなげないですの」
「おとなしくしやがれですの」
「ハァハァ、なんにせよ。今はですね、あの、あ、業務停止中ですのでね、あの、お金がありません。みなさん、ロボチャットで養ってください。今からスーパーロボチャットタイムに入ります。あ、どうぞ!」
『……』
『……』
『……』
「あれ? ロボチャットこないな? いつもならけっこうくるんだけどな? あれ? みんな?」
『……』
『……』
『……』
「まあ、いいや。次のゲストも呼んでいますから。あ、今日はお花見ですからね。みんなで楽しんでいきますよ。はい! どうぞ!」
画面に、紙袋を被った見た目メカメカしいロボットと、紙袋を被った青いロングヘアの子供型ロボットと、グラサンをかけた色っぽい女性が現れた。
「ミナサン、コンニチハ! シャチョーの部下のFORT蘭丸子デス!」
「……クロ社長の部下のフォト三郎です。フォト三郎ちゃんって呼んで」
「先輩の部下の桃太郎です」
『FORT蘭丸子ちゃんきたーwww』
『フォト三郎ちゃん、かわえー』
『桃太郎、色っぽいw』
「やーやー、みんな、忙しい中、きてくれてありがとう」
「シャチョー! 会社がお休みだカラ、忙しくナイデス!」
「……暇してる」
「先輩、手ごねハンバーグを作ってきました」
「ああ、ありがと。モグモグ、うまい」
『ハンバーーーーグ!』
『だから、復興を手伝えってww』
『なんか入ってそうw』
「いやー、今回は残念だったね。あんなにがんばって、みんなでめいどろぼっちを作ったのにさ」
「ボクのプチ丸も、ソラリスの海にいっちゃいまシタ! シクシク!」
「……プットンもいなくなった」
「プチ桃は元気かしら」
『ワイのめいどろぼっちもいなくなった;;』
『うちも;;』
『返金してくれ;;』
「あ、和牛は生にかぎるさん、返金対応はですね、あ、八又産業に連絡してくださいね。あ、でも、返金してしまうとですね、あの、将来もし、めいどろぼっちが復活した時にですね、あ、手元に戻ってこなくなるのでね、あ、ご注意ください」
『ひでぇwww』
『人質www』
『鬼かw』
「シャチョー!」
「どした、FORT蘭丸子ちゃん」
「会社が一ヶ月お休みだカラ、ミンナで温泉にいきまショウよ!」
「ばかこくな」
「……クロ社長」
「どしたの、フォト三郎ちゃん」
「……パリのルーブル美術館いきたい」
「絵の具に襲われるから、やめとき」
「先輩」
「桃太郎さん、桃太郎さん、どしたの」
「年度末の決算についてですが……」
「今はやめて?」
その時、巨大な体格のロボットが巨大な鍋を担いでやってきた。
「黒乃山、お待たせッス!」
「おお! 大相撲ロボ! 待ってたよ」
大相撲ロボは、ブルーシートの上にテーブルとコンロと鍋を設置した。
「特製お花見ちゃんこ鍋ッス!」
「うひょー! 今日のメインきたー!」
『やべぇ!』
『ガチうまそう!』
『ピンクのツミレが綺麗!』
「大相撲ロボ! このツミレはなんだい!?」
「桜漬け大根を練り込んだツミレッス!」
「いいね! ほかに余計なもん入れてないだろうな!? モグモグ……」
「一個だけ、ハバネロのツミレを入れたッス!」
「ブー! ゲホッ! ゴホッ! 喉がー!」
「ご主人様ー!」
『即大当たりwww』
『ざまぁww』
『知ってたwww』
「ニャー」
「お、チャーリー。お前もちゃんこ鍋食いたいのか?」
「一番いいツミレをよこせニャ」
「全部よこせニャ」
グレーのモコモコことチャーリーと、白猫ロボのモカとムギがちゃんこ鍋に群がった。
『チャ王w』
『クソかわいい白猫きたー』
『猫が鍋食うなw』
「ニャー」
「ふんふん、なになに? ダンチェッカーのお土産と、ハント博士のお供え物をよこせ? まったく、しょうがないな」
「お疲れ様でちゅ! お疲れ様でちゅ!」
「お、きたきた」
ブルーシートに、白い鎧を着たちびっ子騎士軍団が上がり込んできた。
「みなさん、見てください。浅草を破壊した権化がきてくれましたよ」
「ご主人様! 言いすぎですよ!」
「我らヘイデン騎士団は、サージャ様の命で戦っていただけでちゅ!」
『ひどすwww』
『ちびっ子にも容赦がないwww』
『下衆ww』
ちびっ子騎士達は、いっせいにちゃんこ鍋をがっついた。
その後も次々と来客が押し寄せ、ブルーシートの上は満員になった。皆、黙々と料理に手を伸ばし、桜の美しさを堪能した。
『なにこの配信www』
『食ってるだけw』
『なんか言えww』
「あ、ストリートピアノで練習さん、今日はね、企画とかなんもありません。あの、暇なのでロボチャットをね、あ、もらうための配信ですので。ではそろそろ、二回目のスーパーロボチャットタイムにまいりたいと思います! みなさん、奮ってご参加ください! スタート!」
『……』
『……』
『……』
「あれ? スタート! 視聴者のみなさん? もう始まっていますよ? スタート!」
『……』
『……』
『……』
「おかしいな。コメント欄が更新されなくなった。ロボチューブのサーバが不調なのかな?」
「黒男 おでのつくった デザート たべる おでは 弟子たちと ガレキのてっきょ いく」
「おう! マッチョメイド! いただくよ! がんばってね!」
「黒乃山! 復興に関して相談がある」
「黒乃山、ソラリスの海の調査についてですが」
「マヒ南座右衛門もノエ乃進も、今日はお仕事の話はやめてよ〜」
「ウホ」
「どうした、ゴリラロボ。ふんふん、なになに? 浅草動物園の動物ロボが逃げたまま帰ってこないから、いっしょに探せ? なんでやねん!」
『どこが暇なんだよwww』
『やること、山ほどあるだろw』
『働けやw』
カメラの前に、頭から紙袋を被ったメル蔵が現れた。
「はい、みなさん、今日の配信はこの辺で終わりたいと思います。あ、三月に真夏日さん、復興のお手伝いはこれからやっていきます。ご心配なく。あ、がんばれ毒リンゴさん、お楽しみいただけたでしょうか? それではみなさん、ごきげんよう」
(麗かなBGM)




