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第406話 メイドロボは電気お嬢様の夢を見るか? その七

 隅田川と言問橋によって区切られた、緑豊かな美しい公園、隅田公園。川を行き交う水上バスの音も、橋を渡る車の音も、広場に集まる観客達の声援に押し戻されて届くことはなかった。


『さァ! 八又(はちまた)産業、ロボクロソフト協賛、「めいどろぼっち&おじょうさまっち大運動会」! 決勝が始まろうとしていまァす! 実況は私、音楽ロボのエルビス・プレス林太郎とォ!』

『解説を務めます、おっぱいロボのギガントメガ太郎です』


 隅田公園の広場には、巨大なすり鉢状のステージが設置されていた。一見すると競輪のレースが行われるバンクのようであるが、その底面にはぽっかりと大きな穴が空いていた。すり鉢の斜面がコースになっており、ここには大量のロボローションが流されていた。すり鉢のふちからロボローションが流しこまれ、コースを伝い、最終的には底面の穴から滝のように流れ落ちる仕組みだ。


『決勝の競技はァ! 「ローションボール」だァ!』

『ローションボールは、走りながら敵を撃つバトルロイヤルシューティングです。全員ローション銃と、ローションブースターを装備してのゲーム開始になります。ローションブースターはローションを噴出して高速移動ができる装置です。これにより、コースを滑走しながら戦います。コースはすり鉢状になっていますので、止まると底面から落下してリタイアになってしまうので、常に走り続けなければいけません。ローション銃で相手を弾き飛ばし、最後までコースに残ったものが優勝です』

『ちなみにィ! ロボローションは安心安全の「ベビーローション ソラリス」を使用していまァす!』



 出場プチ、総勢十六名がコースのふちに立った。


 ゲームスタジオ・クロノスサイド。

 プチ黒、プチメル子、プチ丸、プットン、ミケ、まる子、めいどろぼっち二体。

 ロボクロソフトサイド。

 プチマリ、プチアン子、プチラン、プチリン、フランソワ、おじょうさまっち三体。

 

 それぞれが背中にローションブースターを背負い、手にはローション銃を構えている。


「プチ黒ー! 頼んだぞー!」

「プチメル子! ご主人様をサポートしてください!」

「プチ丸! 無理をしナイで!」

「……プットン、やっちゃえ」


「婆さん、とうとううちのミケが、決勝まできてしまったぞい」

「あらまあ、帰ったらご馳走あげなきゃねえ」


「まる子、おい、まる子! まさかお前がここまでやるなんて。まる子ー!」


「オーホホホホ! 決勝もぶっちぎりで参りますわよー!」

「オーホホホホ! お茶の子シャイシャイですわー!」

「黒ノ木社長、お覚悟はよろしくて?」

「プチリンがー、みんなのハートをー、撃ち抜いちゃうゾ*」


「ぶひー! ぶひー! フランソワ、すごいぶひー! 最後まで頑張るぶひー!」


 試合開始のブザーが鳴った。十六プチが一斉に斜面に滑り降り、背中のブースターからローションを噴出してコースを反時計回りに滑り始めた。


『始まりましたァ! まずはゲームスタジオ・クロノスとロボクロソフト、二つの集団に分かれてのスタートでェす!』

『お互いコースの対角線上にいます。どちらが先に仕掛けるでしょうか?』


 最初に動いたのはロボクロソフト軍だ。ブースターの出力を上げ、加速を始めた。徐々にその差は縮まり、クロノス軍の背後につけた。


『背後から狙い撃つ作戦だァ!』

『さあ、どう対応するでしょうか?』


 プチマリが射撃の腕を活かしてローション銃をぶっ放した。それは見事プチ黒のケツに命中し、大きく弾き飛ばした。あわやステージのふちから飛び出すかと思われたが、プットンが運動性能を活かしてそれをブロック。


「危ねぇ! ナイス、プットン!」


 ロボクロソフト軍が一斉射撃を開始した。小刻みに左右へ移動し、的を絞らせないように動いた。


「オーホホホホ! 一気にけりをつけますわよー!」

「お嬢様ー! なにかおかしいですわー!」


 急にロボクロソフト軍の動きが鈍り始めた。銃を撃つのをやめ、滑走に集中した。


『これはどうしたァ!?』

『銃を撃つのも、ブースターで進むのも、背中のタンクに蓄えられたローションが必要です。あまり攻めすぎると、タンクが空になってしまうので、使い所が肝心です』


 ローションの補充は、タンクから垂れたホースにより自動で行ってくれる。しかしそれには時間がかかる。


「今だ!」


 今度はクロノス軍のターンだ。左右に展開し、逆に後方へ回り込んだ。ロボクロソフト軍はローションの補充に手間取っていて、銃を撃つことができない。下手に撃つとブースターにローションが回らずに失速し、すり鉢の底から落下してしまうからだ。常に高速で移動しなくてはならない。


『プチメル子が撃ったァ!』

『おじょうさまっちに命中、コース外に吹っ飛ばされリタイアです』


 ベーゴマのようにリングアウトするその姿に、観客から歓声があがった。

 その時、プチリンがスピードを緩め、クロノス軍の目の前まで下がってきた。彼女目掛けて集中砲火させるが、プチリンの華麗な動きですべて避けられてしまった。


『プチリンのフィギュアスケートのような動きに翻弄されているゥ!』

『さすが、あいどるっちですね』


 いったん銃撃戦をやめ、ローションの補充タイムに入った。双方睨み合ったまま、コースを反時計回りに回った。逃げるロボクロソフト軍、追うクロノス軍。


『ここからどう動くかァ!?』

『数的優位に立ったクロノス軍は、このまま攻め切りたいところではあります』


 二体のろぼねこっち、プットンとミケが同時に動いた。その上には二体のめいどろぼっちが跨っている。


『なんだァ!? この作戦はァ!?』

『ブースターを使わなくても充分に速い、ろぼねこっちの機動力を活かした作戦ですね。下のろぼねこっちは射撃のローションを移動に回し、上のめいどろぼっちは移動のローションを射撃に回して攻めるようです』


 騎兵がおじょうさまっちに狙いを定め、同時に撃った。おじょうさまっちはあえなく、吹っ飛ばされてリタイアとなった。続けてフランソワに狙いを定める。


「ぶひー! フランソワ、逃げるぶひー!」


 しかし、その射線にプチランが躍り出た。銃撃を二発とも食らったが、びくともしない。銃を投げ捨て、プットンに体当たりをかました。バランスを崩して転倒したプットンとめいどろぼっちは、そのままローションに流され、底面から奈落へと落下していった。

 プチランの迫力に観客がどよめいた。


『プチラン、なんという強さだァ!』

『チートですね。銃を捨てて身軽にし、肉弾戦に専念するようです』


「……プットン、がんばった」

「仇は取ります!」


 プチメル子が先頭に立ち、ローション銃を撃った。相手も打ち返してくる。両陣営が入り乱れての接近戦となった。

 プチメル子の銃がおじょうさまっちを捉え、コース外へ弾き飛ばした。プチランが再びミケに体当たりを仕掛け、ミケとめいどろぼっちが落ちていった。


「それ! そこじゃ! ミケ! やるんじゃ!」

「爺さん、ミケはもう落ちましたよ」


 ゲームスタジオ・クロノスサイド、生き残り。

 プチ黒、プチメル子、プチ丸、まる子。

 ロボクロソフトサイド、生き残り。

 プチマリ、プチアン子、プチラン、プチリン、フランソワ。


「オーホホホホ! とどめですわー!」

「オーホホホホ! ご臨終してくだしゃりましぇー!」


 プチマリとプチアン子がまる子に向けて銃を乱射した。


「まる子、おい、まる子! 逃げろ、まる子!」


 まる子は逃げなかった。後ろを向き、銃撃をケツで受け止めたのだ。プリプリのケツが、ローションを受けるたびに大きく膨らんでいった。


『どうなっているんだァ!?』

『秘技「巨尻豪(ケツ)門」です』


 膨らんだケツから大量のローションが噴き出した。それはプチマリとプチアン子を巻き込み、ステージの外へと吹っ飛ばした。しかし、禁断の技を使ったまる子のケツも真っ二つに割れ、ステージの下へ滑り落ちていった。

 観客から悲鳴があがった。


『過去最悪の技が炸裂だァ!』

『放送ではモザイクがかかりますので、ご了承ください』


「まる子、お前……ケツは最初から割れてるだろ」


 生き残っているのは、プチ黒、プチメル子、プチ丸と、プチラン、プチリン、フランソワだ。


「FORT蘭丸、貴様ァー! プチ丸も戦わせんかい!」

「イヤァー! ボクのおじょうさまっちは、平和主義者なんデス!」


 プチランがプチ黒に迫ってきた。プチメル子が銃撃するも、簡単に手で防がれてしまった。


「なんですかこれは!? 強すぎますよ!」

「おほほ、プチランは特別製です」


『最強のプチ、プチランをどう迎え撃つゥ!?』

『ここが勝負どころです』


 プチ黒が進み出た。どうやら一人でプチランと戦うようだ。


「プチメル子! プチご主人様がタイマンできるように、他の二人を押さえ込むのです!」


 プチランが強烈な張り手を繰り出してきた。プチ黒はそれをかろうじてケツで防いだ。返す刀で銃撃を加える。的確にプチランの顔面を捉えたが、体勢をわずかに崩しただけであった。


「おほほ、やりますね。ですが、ここまでです」


 プチランはローションで汚れた角メガネを丁寧に拭き取ると、腰を落として構えた。そして丸メガネ目掛けてプチかましを仕掛けた。最強の横綱の妹によく似たプチのプチかましは、丸メガネの主をステージの外まで吹っ飛ばした。攻撃を食らって顔から外れた丸メガネが、無惨にも宙を舞った。


「勝負ありましたね」

「ふふふ、それはどうかな?」


 何者かが飛んだ。宙を舞う丸メガネを空中でキャッチすると、それを装着した。


「これはプチ黒!? では今吹っ飛んだのは!?」

「イヤァー! ボクのプチ丸!」


 そう、プチかましを食らったのはプチ黒ではなく、丸メガネを無理矢理装着させられた、プチ丸であった。角メガネを拭いている隙にすり替わったのだ。


『囮作戦だァ!』

『秘技「変わりメガネの術」です』


 プチ黒は空に向けて銃を放った。その反作用により、巨ケツが急降下を始めた。その先にいるのはもちろんプチランだ。プチランの張り手とケツが交錯する。押す巨ケツ、耐えるプチラン。


『すごい(ケツ)圧だァ!』

『奥義「尻星群(ドラゴンデンブ)」です』

 

 ケツに押し潰されたプチランは、プチ黒もろとも奈落へ滑り落ちていった。


「プチご主人様ー!」


『相打ちとなりましたァ!』

『さあ残るは、プチメル子と、プチリン、フランソワだけになりました』


「プチご主人様の犠牲……無駄にはしません。皆さんの仇、プチメル子が討ちます! 絶対に……勝ちます!」


 プチメル子は目に闘志をみなぎらせ、二人に挑みかかった。


 しかし、二対一では勝てるはずもなく、普通にプチメル子は負けた。


「うわああああ! ごめんなさい!」





 こうして『めいどろぼっち&おじょうさまっち大運動会』は盛況のうちに幕を閉じた。

 優勝はプチリン、準優勝フランソワという結果になった。





「ぶひー! ぶひー! よくやったぶひー! フランソワ、帰ったらケーキでお祝いだぶひー! あれ? フランソワはどこにいったぶひ?」


 この大会が後の世に言う『浅草プチ事変』の始まりなのであった。


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