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うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない  作者: ギガントメガ太郎


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第394話 祝勝会です!

「「黒乃山(くろのやま)鏡乃山(みらのやま)、優勝おめでとうございます」」


 一行——メル子、黒メル子、マリー、アンテロッテ、フォトン、ルビー、小梅、桃ノ木、FORT蘭丸、紅子、黄乃、紫乃——は手を叩いて勝者を称えた。

 ここは浅草寺から数本外れた路地にある、ゲームスタジオ・クロノス事務所だ。


「ありがとうぽき、ありがとうにょろ。イデデデ」

「ぷぴゅー、嬉しいにょり! イダダダダ」


 本日行われた大相撲浅草場所の優勝者である黒乃山と鏡乃山は、ひきつった笑顔で皆に手を振った。

 作業部屋にはテーブルが設置され、料理がずらりと並べられている。その華やかさとはうらはらに、参加者達の幾人かは薄汚れていた。

 そう、横綱である藍王(らんおう)にぶちのめされたからだ。浅草場所優勝の特典である横綱との取組に、なぜか全員で挑むことになった。しかし総勢十六名で立ち向かったものの、一瞬で蹴散らされてしまった。


「ご主人様、大丈夫ですか?」


 メル子は台所から大皿を運んできた。その上には巨大なカニの足がトゲトゲしく並んでいた。アンテロッテが運んでいるのは、伊勢海老の塩焼きとお造りだ。

 どちらも大会優勝者に送られる豪華景品である。


「ぎょわわわわ! この豪華なお料理を見たら、痛みなんて吹き飛ぶにょき!」

「むきゅー! こんなすごい料理初めてもきゅ!」


 黒乃山と鏡乃山は大喜びで手を叩いた。だが、本日のメインはこれではない。作業部屋の掃き出し窓を開けて、巨大なボディのロボットが部屋に上がり込んできた。


「ちゃんこ鍋ができたッス!」


 大相撲ロボがテーブルの上に設置されたロボコンロに土鍋を置いた。湯気がもうもうと立ち昇り、火口のマグマかと言わんばかりに煮えたぎっていた。


「すごいにょろ! 本物のちゃんこ鍋ちょい!」鏡乃山は大興奮しているようだ。

「大相撲ロボ! 妙な創作ツミレは入れてないぽきな?」

「入れていないッス!」


 大相撲ロボは震え上がって怯えた。


「それでは皆さん、どうぞ召し上がれ!」メル子が元気よく祝勝会の開始を告げた。

「「いただきます!」」


 一行は思い思いに料理に手を伸ばした。


「うまい!」黒乃山はカニに齧り付いた。弾けるような食感のその身を噛み締めると、瑞々しい旨みが喉に流れ込んできた。

「うまかー!」鏡乃山が手に持っているのは伊勢海老の塩焼きだ。マヨネーズがあえてあるので、エビの甘みと酸味と塩味が最適である。


「先輩、優勝おめでとうございます。かっこよかったですよ、ハァハァ」桃ノ木はスプーンに山盛りのいくらを黒乃山の口元に差し出した。

「桃ノ木しゃん、ありがとう。まむまむ」黒乃はそれを一口で頬張った。


「ハムハム! ハムハム!」ものすごい勢いでちゃんこ鍋をがっついているのはFORT蘭丸である。

「シャチョー! オカワリいいデスか!?」

「お前も少しは勝者をねぎらわんかい」

「優勝オメデトウゴザイマス! ハムハム!」


「みーちゃん、よくやったね〜、えらいよ〜」鏡乃山の頭をしきりに撫でているのは、黒ノ木家次女黄乃(きの)だ。

「えへへ、えへへ、嬉しいのり」

「ぐふふ、サージャ様とノエ子を抱っこできるなんてズルいぞ」鏡乃山のほっぺをつついているのは黒ノ木家サード紫乃(しの)だ。

「うへへ、うへへ、気持ちよかったぽき」


 どうやら黄乃、紫乃、鏡乃は一緒に新幹線に乗って東京までやってきたようだった。


「でも……サージャちゃんにもノエ子にも勝ったのに、鏡乃のものにならなかったふぉい……」


 鏡乃はメイドロボに勝利することにより、メイドロボのマスターになれると思い込んでいたようだ。


 その時、掃き出し窓を開けて巫女装束を纏ったメイドロボが入り込んできた。


佇立(ちょりっす)佇立(ちょりーっす)武夷(ぶい)武夷(ぶい)。黒ピッピ、鏡ピッピ、おめでとちゃーん」

「サージャ様!?」


 突然の大物の登場に、祝賀会場に緊張が走った。唖然とする一行を横目に、黒乃山と鏡乃山の間にドカッと座り込んだ。


「やーやー、ゲロ大変な大会だったねー、マジウケるwww」サージャは一番大きなカニの足をつまみあげると、上を向いて口の中に流し入れた。

「むにゅむにゅ、うみゃい」

「ねえ、ねえ! サージャちゃんはご主人様いないの!?」


 鏡乃のあまりに無礼な態度に、一行は青ざめた。


「こら、鏡乃! なんちゅうことを聞くんじゃ!」黒乃は慌てて鏡乃の口を閉じた。サージャは素知らぬ顔でエビもつまんだ。


「前は、(あーし)にもご主人様がいたんだけどね〜」


 浅草神社の御神体ロボであるサージャ。かつてある人物との出会いをきっかけに、メイドロボにジョブチェンジした経歴を持つ。


「そうなんだ、でも今はご主人様いないんでしょ?」

「うーん? いないこともないけどね〜」


 新ロボット法により、すべてのロボットはマスターを持つことが義務付けられている。御神体ロボだけはその例外であり、具体的な人間としてのマスターは存在しない。神仏に仕えるロボットとして扱われるのだ。


「じゃあさ! 鏡乃がご主人様になってあげるよ! サージャちゃんも一人じゃ寂しいでしょ!?」


 突拍子もない申し出に呆れ返る一行。当のサージャは少し楽しそうだ。


「どうかな〜? まあ、鏡ピッピは少し『あの人』に似てるかもね〜? いや似てないかも。でも(あーし)はみんながいるから、寂しくはないかな。参拝にきてくれたら、もっと寂しくないかな」


 ケタケタと笑うサージャに毒気を抜かれた鏡乃は、ちゃんこ鍋をがっつき始めた。


「……クロ社長」

「ん? フォト子ちゃん、どしたん?」


 フォトンは腕に紅子を抱えていた。


「……紅子ちゃん、寝ちゃった」


 フォトンの胸で寝息を立てている紅子は、幸せそうな寝顔を見せていた。


「寒い中、必死に応援していましたからね。疲れてしまったのでしょう」黒メル子は紅子を抱き上げた。

「二階の寝室に寝かせてきますね」黒メル子は普段からボロアパートの地下で紅子と暮らしているため、扱いは慣れたものだ。

「……ボクも眠い」


 三人は階段を登っていった。


 それと入れ替わるようにして掃き出し窓から侵入してきたのは、褐色肌の美女マヒナと、褐色肌のメイドロボノエノエだ。


「黒乃山、鏡乃山、優勝おめでとう!」

「お二人ともご無事でなによりです」

「おお、きてくれたんだ。てか、なんでみんな窓から入ってくるの?」

「そんなに無事じゃないよ! 体中痛いもん!」


 ノエノエはブーを垂れる鏡乃の頭を撫でた。それで機嫌を直した鏡乃は、あることを思い出した。


「そうだ! ノエ子に勝ったんだから! ノエ子は鏡乃のものだよね! そういう約束でしょ!」


 熱弁する鏡乃をメル子が嗜めた。


「鏡乃ちゃん、ロボットのマスターはそう簡単に変えられるものではありませんよ」

「でも、約束したもん! ねえ、マヒナ! ノエ子をちょうだい!」


 マヒナはため息をついて答えた。「ノエノエはやれないが、MHN29の誰かをあげよう。フムフムヌクヌクアプアアなんてどうだ?」


 フムフムヌクヌクアプアアは、マヒナに仕えるメイドロボ部隊MHN29の一人で、軍人タイプのメイドロボだ(187話参照)。


「フムフムプクプクノポキキ!? なにそれ!? かわいい! ほしい!」

「では、月にきなさい。きたらあげよう」

「いく! 月にいく!」


 黒乃はちゃんこ鍋を啜りながらふとデスクに目を移した。そこには机に突っ伏してピクリともしない、銀髪ムチムチのアメリカ人がいた。


「FORT蘭丸ゥ!」

「ハイィ!?」

「ルビーがまったく動かないけど、どうしちゃったのよ」

「ルビーは、疲れて寝てイルだけデス! コトリンとお相撲をトレルなんて、ズルいデス!」


 ルビーは一回戦でコトリンとおしくらまんじゅうのようななにかを繰り広げ、すべての体力を使い果たしてしまったのだ。


「ま、ほっとき」

「ハイ!」


 続いて現れたのはルベールとマッチョメイドだ。掃き出し窓を開けて重箱を運び入れた。


「おでたち おかし つくってきた」

「皆さん、お疲れでしょうから、甘いものを用意しましたよ」


 重箱に詰まっていたのはマッチョメイドの手作り和菓子と、ルベール特製チョコレートパイだ。お腹がふくれ、甘いものがほしくなっていた一同は、我先にと重箱に飛び付いた。


「このおパイ、トロリとしたおチョコが甘々ですわー!」

「こちらのお羊羹はキウイが入っていて、甘さと酸っぱさが絶妙ですわー!」


 お嬢様たちは両手にお菓子を持って齧り付いた。戦いで疲れた体に糖分が染み渡っていった。


「小梅も たくさん たべる」

「押忍、師範! 美味しいです!」


 マッチョメイドと熱戦を繰り広げた小梅もお菓子を頬張った。


「小梅さんの戦い、かっこよかったですわよ」

「本当ですか、マリーちゃん!」

「ぷぷぷ、それに比べて、マリーとアン子は愉快な負け方だったけどね」


 黒乃はみたらし団子を齧りながら、二人を茶化した。


「なんですのー!」

「マリアンマンとアンアンマンは最強ですわー!」

「てか、あんなん相撲の戦いにありなの?」

「ルールには、パワードスーツがダメとは書いてありませんの」

「お嬢様の言うとおりですの」

「マリアンマンとアンアンマン、かっこよかった!」


 鏡乃には大好評だったようだ。


黒郎(くろろう)、お前も少しは本物というものがわかるようになったようだな」

「美食ロボ!? お前、久しぶりだな!」



 ——夜も更けてきた。

 月は天頂にまで登り、浅草の町を深く照らした。空には微かに月にかかる雲以外はなにもなく、十二月の寒さをより際立たせた。


 子供達は二階の寝室に引っ込んだ。今日は泊まっていくようだ。大人達はぽつりぽつりと帰っていった。作業部屋に残されたのは黒乃と、机に突っ伏して眠るルビーだけ。メル子とアンテロッテは台所で片付けをしていた。


 ふと庭を見ると、月明かりに照らされた人影が二つ見えた。


「藍ノ木さんじゃん。コトリンも」


 庭に佇んでいたのはロボクロソフトの若手プロデューサーにして横綱の妹、藍ノ木藍藍(あいのきあいらん)だ。その隣にいるのはプログラミングアイドルロボのコトリンだ。藍ノ木は決まりが悪そうに立ち、コトリンは眠い目を擦ってマスターにしがみついている。


「そこじゃ寒いでしょ。入りなよ」


 二人は作業部屋に上がり込んだ。その途端、藍ノ木の角メガネが真っ白に曇った。


「オホンオホン」

「なになに、どうしたのさ。まさか、お祝いにきてくれたの?」

「オホホン、まあ、そういうことですわね」


 頭の大きなお団子がせわしなく揺れている。コトリンはルビーの隣の席に座って眠り始めた。


「優勝おめでとうございます、黒ノ木さん」

「ああ、ありがとう、藍ノ木さん」


 気まずい空気が流れた。この二人は高校時代の同級生。三年間同じクラス。仲がよかったわけではない。黒乃は誰とも仲よくなろうとはしなかったし、藍ノ木は勝手に黒乃をライバル視していた。


「生徒会選挙のこと、覚えていますかしら?」

「ああ、クラスメイトが勝手に推薦したやつね」

「投票の結果、あなたが勝ちましたわね」

「うん、でも結局、藍ノ木さんが生徒会長になったじゃん」

「それは黒ノ木さんが辞退したからですわ。なぜですの?」

「いや〜、バイトで忙しかったから……」


 高校時代、黒乃の頭の中はメイドロボのことしかなかった。バイトに明け暮れる日々。生徒会の活動など興味もなかった。


「私は……本気でしたのよ。本気であなたと戦って負けたのです」

「ええ? ああ、うん」

「だから、浅草場所で今度こそ決着をつけたかった。本気の黒ノ木さんと」


 藍ノ木は当然、黒乃と決勝で戦うつもりでいた。しかしまさかの伏兵、鏡乃山によってそれは阻止された。


「私はどうしても、あなたと決着をつけたい。黒ノ木社長」


 藍ノ木の角メガネが鈍く光った。その表情は窺い知れない。


「おじょうさまっちと、めいどろぼっち。どちらが売れるか、勝負です」


 それだけ言い残すと、藍ノ木はコトリンを背負って帰っていった。黒乃は路地に出て、その二人の背中を見送った。

 いくばくか高校時代に思いを馳せ、あまり楽しい記憶がないことに気がつき、すぐに現実に帰ってきた。


「言われなくても、負けないよ」


 年明けにはいよいよ発売となるめいどろぼっちとおじょうさまっち。否が応でも戦わなくてはならない。黒乃は月を見上げ誓った。

 その様子をメイドロボは古民家の中からこっそりと見ていた。


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