第379話 ロボチューブ生配信です! その十五
「はい、始まりました。『ご主人様チャンネル』の放送が始まりました。どうも、助手のメル蔵です」
画面に頭から紙袋を被った白いメイド服のメイドロボが現れた。
『きたー!』
『久しぶりじゃんwww』
『メル蔵ー!』
「あ、チッロルチョコチョコさん、それはいつ買ったものですか? あ、飛んで平八郎さん、今日もよろしくお願いします。あ、ロボスターズ優勝さん、おめでとうございます」
メル蔵はカメラを持って歩き出した。
『ここどこwww』
『あれ? 黒男は?』
『外じゃん』
「あ、はい。今日はですね、取材をしにいこうと思います。皆さん、お相撲はお好きでしょうか? 今からですね、お相撲部屋に取材にいきますよ。楽しみにしていてください」
メル蔵がカメラを向けた先には、古風な作りの家屋があった。正面にはデカデカと『浅草部屋』の看板が掲げられている。
『浅草部屋www』
『どうして相撲部屋にw』
『ごっちゃんですwww』
「あ、はい、今日はですね、アポはとっていません。ノーアポでいきたいと思います。アポー」
メル蔵は門をくぐり抜けて部屋の内部に侵入した。奥からは力士達がぶつかり合う音と、威勢のいい掛け声が聞こえてきた。
稽古部屋で待ち構えていたのは、二メートルを超える巨漢の力士だった。
「メル蔵さん、まっていたッス」
「大相撲ロボ! 今日はよろしくお願いします!」
『でた、大相撲ロボw』
『でけぇw』
『ノーアポとはwww』
「大相撲ロボ! 今日は取材をさせてくれるということですが、なにか特別なイベントがあるのですか!?」
「あるッス。来月行われる『浅草場所』に向けて、女性力士達が集まって稽古をしているッス」
浅草場所。
毎年冬に開催される浅草の一大行事。浅草寺の境内で行われる大会だ。大相撲の力士が参加するトーナメントがメインだが、一般の参加枠もある。
黒乃達は昨年の大会に出場し、優勝ノエノエ、準優勝黒乃山という結果に終わった(第90話参照)。当然、今年も参加する気満々で稽古を積んでいるのだった。
「あ、いますいます。女性力士達が土俵でぶつかり合っています。すごい迫力です」
土俵に入っているのは、褐色肌の筋肉質の女性力士だった。それに向かって、金髪縦ロールのメイドロボ力士が挑みかかっている。
『うひょー!』
『美女力士のぶつかり合いwww』
『ごっちゃんですw』
「それではここで、力士達にインタビューをしてみましょう」
メル蔵は土俵の外に吹っ飛ばされた金髪縦ロールのメイドロボに走りより、マイクを向けた。
「アンキモさん! インタビューをよろしいでしょうか?」
「ごっちゃんですの。なんでも聞いてほしいですの」
「浅草場所へ向けての意気込みをお願いします!」
「去年の大会ではノエ乃進さんに負けてしまったので、今年は絶対にリベンジを果たしますの!」
「がんばってください!」
『アンキモ! アンキモ! アンキモ!』
『アンキモのマワシ姿ええわ〜』
『ノエ乃進って誰だよwww』
『¥3000。アンキモ最高!』
「あ、花札大統領さん、ロボチャットありがとうございます。では次に、マヒ南左衛門さんにお話を聞いてみたいと思います。マヒ南左衛門さん、よろしくお願いします」
「やあ、メル蔵。よろしく」
マヒ南左衛門はスポブラをめくりあげて、額に浮き出た汗を拭った。褐色肌のFカップが溢れそうになった。
『うひょー! エロいw』
『BANされるぞwww』
『やべえwww』
「マヒ南左衛門さんは今年初出場ということですが、今回出場しようと思い立った理由をお聞かせください」
「うむ。正直に言うと、前回はでるまでもないと思っていたんだよ。だけど思った以上の熱戦が多くてね。血がたぎってきたというわけさ。今回はさらに有力な力士がでるみたいだしね」
「有力? どなたでしょうか?」
「まあ、黒乃山とも戦ってみたいけど、今回はアイツと手合わせ願いたいね」
「アイツ!? アイツとは誰ですか!?」
「ふふふ。さあ、稽古再開だ!」
マヒ南左衛門は腰のマワシを叩きながら土俵に戻っていった。
「やる気満々のようです。では次の力士に……あ、いました! ノエ乃進さんです!」
「こんにちは、メル蔵」
ナース服ベースのメイド服の上からマワシを巻いた褐色メイドロボは、落ち着いた様子で壁際でストレッチをしていた。
『セクシーwww』
『この相撲部屋、美女多すぎだろw』
『入門したいww』
「前大会優勝者のノエ乃進さんです! 今大会の意気込みをお聞かせください!」
「私は前大会優勝したとは思っていませんよ。決勝で黒乃山の反則負けという形になりましたから。実力では負けていました。だから挑戦者の気持ちでぶつかっていこうと思います」
『かっけぇwww』
『いや、実力でも勝ってただろwww』
『ハッキングは実力じゃないだろwww』
その時、土俵から悲鳴が聞こえた。
「おや? なにかあったみたいです。いってみましょう」
『なに今のかわいい声w』
『どした?』
『事件かwww』
メル蔵が走りよると、土俵で倒れていたのは金髪縦ロールの美少女であった。
「アンキモさん! 大丈夫ですか!?」
「足首をグネりましたのー!」
「アニーお嬢様ー!」
「あ、アニーさんとマリエットちゃんでしたか」
アンキモとそっくりだが、実はマリ助の姉のアニーなのであった。そしてマリ助と思われた少女はアニーのメイドロボのマリエットだ。アンキモはアニーにそっくりで、マリエットはマリ助にそっくりなのだ。説明されてもわかりにくいと思うが、そうなのだ。
『ガチわかりずらいw』
『見た目じゃまったくわからんw』
『被せすぎの弊害w』
『足首よわッww』
「アニーさん、足首は大丈夫でしょうか?」
「無理みたいですわー! 大会は欠場しますのー!」
「お嬢様ー!」
「えー、お大事にしてください。では、次にいきましょう。あ、あの方に聞いてみましょうか」
メル蔵は土俵の横に吊り下げられたサンドバッグに蹴りを入れている少女に迫った。
「小梅太夫さん、お疲れ様です!」
「メル蔵さん、お疲れ様です!」
小梅太夫はサンドバッグに手を添えて揺れを抑えた。黒髪のポニーテールが代わりに大きく揺れた。
「小梅太夫さんは今回初参加ですね」
「はい。去年、マリ助ちゃんの戦いを見まして、感動しました。ぜひ自分もと思い、出場を決めました」
「小梅太夫さんは空手家なのですよね」
「そうです! マッチョマスターの空手道場に通っています!」
「でも浅草場所は相撲大会ですから、相撲の稽古をした方がいいと思いますよ」
「なるほど! 参考にします!」
『アホwww』
『かわいいw』
『脳筋www』
「では、次は……」
メル蔵は土俵から一段高くなっている座敷に目を向けた。そこには坐禅をして、目を閉じている二人の力士がいた。
「いました。本日のメイン、黒乃山とマリ助ちゃんです。お話を聞いてみましょう。お二人、お二人、よろしいですか」
『なんで偉そうに座敷に座ってるのwww』
『そこ、親方が座るところだろw』
『稽古しろwww』
「お二人とも! 豊富をお聞かせください!」
メル蔵はマリ助にマイクを向けた。
「時はきた。それだけですの」
「はい? ええ、では黒乃山に聞いてみましょう」
メル蔵は黒乃山にマイクを向けた。
「時はきた。それだけにょり」
「ぷっ」
『うぜぇw』
『なんだこいつらww』
『メル蔵、笑うなwww』
その時、稽古部屋にざわめきが起きた。稽古の手を止めた力士達の視線が、一点に集中しているようだ。
「なんでしょう? 誰かがきたようです。いってみましょう!」
メル蔵は稽古部屋の入り口に走りよった。そしてそこで待ち構えていた人物に驚愕した。
「ええ!? 皆さん! ご覧ください! とんでもない人物が現れました!」
そこにいたのは横綱であった。脂肪が少なめの筋肉質の体。堂々たる髷。柔和な顔の奥底に秘められた猛禽類のような鋭い眼光。第九十四代横綱藍王関その人であった。
『藍王じゃん!』
『やべぇ! 本物だ!』
『かっけぇ!』
『なにしにきたんw』
「わはたれかのこころばめるや、みえむにきたり。浅草場所をたのしき終へめ」
「なにか言っていますが、まったくわかりません」
『ガチでわかんねえw』
『この人の優勝インタビュー、いつもこんなんw』
『いつの時代の人なのw』
その横綱の背後から、一人の女性が現れた。細い角メガネに、頭の上の大きなお団子。タイトな藍色のスーツに細長いハイヒール。藍王の妹の藍ノ木藍藍である。
「お兄ちゃん! またスカイツリー部屋を抜け出して! スカイ親方も怒ってたよ!」
さらにその背後からは、ほっそりとした少女型ロボットが現れた。
「みんなー! 稽古、がんばってるー!?」
緑色のストレートロングヘア。頭には大きなリボン。眼球に刻まれた*。フリフリのブラウスとミニスカートが可愛らしいこのロボットは、プログラミングアイドルロボのコトリンである。そして藍ノ木はコトリンのマスターである。
『コトリンちゃんだ!』
『やべぇ! 本物だ!』
『激カワw』
『極上デス!』
「なんですか!? 次々になにをしに現れますか? でもせっかくですから、横綱にインタビューをしてみましょう! 横綱! 今日はどのようなご用件で!?」
「浅草場所に、かちて興あらんためなら、わと戦はばやとおもへり」
「なんと言いましたか!?」
藍ノ木が進み出てメル蔵のマイクを奪って言った。
「オホン。横綱は、浅草場所で優勝した者と勝負をする、と言っています」
その言葉に驚き、稽古部屋はざわめきで揺れた。一般人が最強の横綱と戦える機会など普通はあり得ない。
「その言葉、間違いないぽきね!」
「横綱たるもの、一度吐いた言葉は飲み込めませんわよー!」
黒乃山とマリ助が座敷から下りて、横綱に迫った。二人は今この場で飛びかからん勢いの表情を見せている。
『黒乃山はわかるけど、なんでマリ助まで横綱と戦いたがってんだよw』
『状況がめちゃくちゃだよw』
『コトリンチャン!』
横綱と黒乃山達の間に藍ノ木が割って入った。不敵な笑みを黒乃山に向けた。
「黒乃山社長。残念ですが、あなたが横綱と戦うことはありませんわよ」
「ぷふー!? どういうことぴぽ!?」
「浅草場所には私とコトリンも出場するからですわ!」
「むきょ!?」
『なにこの状況www』
『今、なんの時間なのwww』
『情報量が多いww』
「オホホ、では黒乃山社長。本番まで、精々稽古に励んでくださいな」
「みんなー! じゃあねー!」
こうして藍王、藍ノ木、コトリンは浅草部屋から去っていった。
「えー、皆さん。話をまとめます。浅草場所に藍ノ木さんとコトリンも出場するようです。そして優勝者には、横綱と戦う権利が与えられるようです」
『まとめありがとうwww』
『今の出来事なんだったのwww』
『コットリーン!』
「では最後に黒乃山とマリ助ちゃんに話を聞いてみましょう。どうですか、お二人!」
「時はきた。それだけぽき」
「時はきた。それだけですわ」
『ぷっ』
『ぷっ』
『¥3400。ぷっ』
「では本日の配信を終わりたいと思います。あ、ニコラ・テス乱太郎さん、ロボチャットありがとうございます。あ、ドラフト漏れさん、次回もまた見てくださいね。あ、スイートワナビーインクさん、ほどほどにお願いします。それでは皆さん、さようなら」
(軽快なBGM)




