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うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない  作者: ギガントメガ太郎


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第374話 ゲーム大会議です! その一

 浅草寺から数本外れた物静かな路地。そこに佇む古民家。今日も元気な声がその古民家から溢れ出てきた。


「貴様らーッ!」

「シャチョー! イキナリどうしまシタ!?」


 突然の大声にFORT蘭丸は頭の発光素子を明滅させて怯えた。


「そろそろ毎年恒例の『ロボデック』が始まる! 準備はできているんだろうな!?」

「……ロボデックってなんだっけ」


 ペンキまみれのダボダボのニッカポッカをはいた子供型ロボットが尋ねた。


「フォト子ちゃん、ロボデックというのは毎年横浜で行われているゲーム業界の大会議のことよ」


 ピチリとしたセクシーなスーツを着た桃ノ木桃智がフォトンの疑問に答えた。 

 

 ROBODEC(ロボデック)とはゲーム業界が主催する、ゲーム開発者同士の技術交流を目的とした大会議のことである。毎年パシフィコ横浜で開催され、一万人近いゲーム業界人が集まる国内最大規模のカンファレンスだ。

 プログラム、グラフィック、サウンド、ゲームデザインなどのゲーム開発にまつわるものや、ビジネス、基盤技術、アカデミックに至るまで、様々な分野のセッションが行われる。


「シャチョー! じゃあミンナで横浜に会議を見にいくんデスね! 楽しみデス!」

「……会議って退屈そう。寝ててもいいの?」


 黒乃はニヤリと笑った。丸メガネが光を放った。


「誰がロボデックに見物にいくといった!? 我々は会議をする側じゃい!」

「イヤァー!? どういうコト!?」

「先輩、じゃあ審査に通ったんですか?」

「その通りじゃい!」


 ロボデックは三日間開催され、その間二百ものセッションが行われる。各メーカーがこぞってセッションの開催を申し込むのだが、ロボデック運営委員会によってその内容が審査され、可否の判定が行われる。

 ゲームスタジオ・クロノスのセッションは、見事その審査を通過したのだ。


「くくく、まあ審査の結果は火を見るよりも明らかだったけどね。東京ロボゲームショウであれだけ話題になったし、技術的にも前代未聞だし、業界人も無視はできない存在になりつつある。これを機に『めいどろぼっち』をより多くの人に知ってもらい、アピールの場とするのだ!」


 ゲームスタジオ・クロノスが開発しているメイド育成ゲーム『めいどろぼっち』。知名度は徐々に高まりつつあるが、数千円で購入できる通常のゲームに比べて、コストが圧倒的に高い。コストを抑えるためには大量生産が必要だ。大量生産をするためには宣伝が必要不可欠だ。


「先輩、素敵です!」


 桃ノ木は立ち上がって拍手をした。それにつられるように、FORT蘭丸とフォトンも拍手をした。


 その拍手を遮るように壁掛け時計から正午の時報が発せられた。その音を聞いた瞬間、FORT蘭丸とフォトンは座席から飛び上がり、玄関へ殺到した。


「シャチョー! 早く女将サンのお店にいきまショウ!」

「……クロ社長、早く」


 フォトンはノロノロと玄関で靴をはく黒乃の腕を引っ張った。本日メル子は仲見世通りの出店で営業中である。昼食はみんなで店に出向くのが習いだ。



 昼食後、事務所に戻ってきた一行は、二階の部屋で仮眠をして午後からの業務に備える。日々の業務をこなしつつ、ロボデックの準備もしなくてはならない。眠い目をこすりながらフォトンはデスクに着いた。


「フォト子ちゃん、受注してた背景画はどうなった?」

「……」

「フォト子ちゃん、起きて。ほら」


 黒乃は隣の席で眠そうに体を左右に揺らすフォトンの青いロングヘアを撫でた。


「……なに」

「なにじゃなくて、背景画はできたの?」

「……できてる」


 フォトンはモニタに画像を映した。そこには地獄のように荒廃した新宿駅の様子が並んでいた。


「いいね、いいね。キモいね」

「……うふふ、発注通り。昨日がんばって仕上げた」

「じゃあ次は、ロボデックのセッション資料に添付するイラストをお願いね」

「……!?」


 フォトンはデスクの上に突っ伏した。


「FORT蘭丸ぅ!!」

「ハイィ!?」

「お前は技術的な部分の資料をまとめろ!」

「ハイィ!」

「特に、タイトバースへのアクセス方法なんかは、誰もが知りたい情報なはずだ。コア部分はしっかりと隠蔽しつつ、見せても差し支えない部分だけを、さも重要であるかのように錯覚させるような資料を作成しろ」

「ヒイィ!?」


 横でプルプルと震えるFORT蘭丸を尻目に、桃ノ木は一つのデータを黒乃の画面に送った。


「先輩、少し気になるニュースがありました」

「ん? なんだろ。ああ、ロボクロソフトのニュースね。なになに?

 台東区に存在する大手ゲームパブリッシャーであるロボクロソフトに、コード盗用疑惑が浮上。現在開発中のゲーム『おじょうさまっち』に流用されたか? ロボクロソフトはこの疑惑を否定。

 だってさ。これひょっとしてルビーのコードの話なんじゃないの? どうなんだい、FORT蘭丸よ」


 見た目メカメカしいロボットは、頭の発光素子を目いっぱい光らせた。


「ありえマス! ロボクロソフトが開発したタイトクエストは、ルビーが書いた『神ピッピ』のコードを不正に流用していマス(332話、339話参照)! おじょうさまっちもタイトバースにアクセスするのに、当然そのコードが必要デス!」


 日本中を震撼させたタイトクエスト事件。多くのロボットがタイトバースの世界に引き摺り込まれてしまったこの事件は、政府が主導する超AI作成プロジェクト『神ピッピ』に起因するものだ。

 神ピッピはロボット達の電子頭脳がリンクして生み出された超AIであり、タイトバースそのものでもある。この仕組みを設計したのが、理論物理学ロボットであるアルベルト・アインシュ太郎博士であり、そのコードを書いたのがFORT蘭丸のマスター、ルビー・アーラン・ハスケルだ。

 めいどろぼっちもおじょうさまっちも、その中身はタイトバースで生まれたAIだ。どちらもタイトバースにアクセスするための機能が必要だ。


「まぶしっ! 頭を光らせるなぁ!」

「ゴメンナサイ!」


 黒乃は机に両肘をついて思案した。社員達の視線が黒乃に集中する。


「おじょうさまっちがどうやってタイトバースにアクセスしていたのか不思議だったけど、ルビーのコードをパクっていたなら納得だな。FORT蘭丸よ、お前はパクっていないよな?」

「ボクはルビーから直接コードをもらって、ソレを参考に一からコードを書いていマス! ご安心くだサイ!」


 ゲームソフトは何万、何十万行という膨大なプログラムコードから成り立っている。すべてを一から書くのではなく、既存のものから流用することが多々ある。しかし、それらの流用されたコードは、すべて権利関係がクリアされたものなのだろうか?

 会社が所持しているコード、個人が書いたコード、ネットワーク上に転がっているコード。それらが混じり合って一つのプログラムを形成している。実のところグレーなのである。かなりグレーだ。そして確かめようもないのだ。

 つまり現実として、なにか問題があったとしても、黙認されている傾向がある。


「先輩、この疑惑の出所が気になりますね」

「うむ……」


 重い沈黙が事務所にベールのように垂れ下がった。


「……」

「……」

「……」

「イヤァー! ボクじゃないデス!」

「誰もそんなこと言ってないだろが」


 他社のことをいつまでも気にかけてもいられない。黒乃達にはやることが山積みなのだから。


「桃ノ木さん、私がセッションの概略を書くから、それをプレゼン用にフォーマットを整えてくれるかい」

「お任せください」


 この日のゲームスタジオ・クロノスは、夜遅くまで明かりが灯っていた。





 ——ロボデック当日の横浜。

 真っ赤なボディに花柄のラッピングが施されたド派手なキッチンカー『チャーリー号』は横浜の港を走っていた。


「先輩、見てください。あれが赤レンガ倉庫ですね」


 助手席の桃ノ木は子供のように窓の外を指差した。


「おしゃれだねえ」

「あれは日本丸ですね、観覧車もあります」

「お、あの四つに切ったゆで卵みたいなのがパシフィコ横浜ね」

「ハァハァ、先輩と横浜の港をドライブ……素敵です」


 桃ノ木はハンドルを握る黒乃の腕にそっと自分の手を乗せた。


「こらこら、運転中に触ったら危ないでしょ」

「ハァハァ、ごめんなさい」


 黒乃はパシフィコの駐車場にキッチンカーを滑らせた。ロボデックに参加するための車が多数止まっており、大勢が荷物を運び込んでいた。黒乃達はキッチンカーの背面ドアを開けると、巨大な荷物を三つ引っ張り出した。


「うごごごご、重い〜!」

「先輩、がんばってください!」


 黒乃と桃ノ木は汗だくになりながら荷物を地面に並べた。それは三体のロボットだった。


「おほん、おほん。じゃあ、ちょっと歌うから」

「お願いします」


 黒乃は駐車場で『Get Wild』を熱唱し始めた。突然のライブの開催に駐車場の人々が集まってきた。黒乃は汗だくになりながら歌った。八又(はちまた)産業のアイザック・アシモ風太郎に騙されているとも知らずに歌い切った(32話参照)。

 観客達から大きな拍手が送られた。度重なる『Get Wild』の熱唱により、黒乃の歌唱スキルは無駄に高まっており、ムカつくほどうまくなっていたのだ。


「先輩、かっこいいです!」

「ハァハァ、今だ」


 黒乃は床に寝転がるロボット達の耳に指を差し込んだ。キュイーンという起動音と共にそのボディが動き始めた。


「あれ? ここはどこです?」

「イヤァー!? ナニココ!?」

「……なんでこんなところにいるの?」


 メル子、FORT蘭丸、フォトンは呆然と周囲を見渡した。


「やあみんな、おはよう」

「ご主人様! なぜシャットダウンをしたのですか!?」


 メル子はようやく状況を理解し、黒乃に踊りかかると白ティーを掴んで引っ張った。


「あ、こら、引っ張らないで。だって、キッチンカーは二人乗りだから。みんなを乗せるには三人をシャットダウンして、貨物として扱わないといけないから……」


 FORT蘭丸とフォトンがすかさず黒乃の両足にしがみついた。その勢いで地面に転がったところを、メル子が可愛いおケツを顔面に乗せてきた。


「イダダダダ! 痛い! 柔らかい! でも重い!」

「ロボットを! 貨物として! 運ぶのをやめてくださいと! 言っているでしょう!」


 小さなボディの可愛らしいお尻といえど、やはりロボットだ。それなりに体重はあるのだ!


「イダダダダ! 柔らかい! いい匂い! イダダダダ! 丸メガネが割れる!」


 こうして波乱のロボデックが始まった。


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