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うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない  作者: ギガントメガ太郎


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第371話 お誕生日です! その三

 満員御礼の浅草演芸ホールは静まり返っていた。高座の上から響き渡る一歳児の泣き声。


「どうして! いつも! 被ってばかりいるのですか! おぎゃああああああ!!!」


 床に寝転がり駄々をこねるメイドロボを、黒乃と黒メル子とアンテロッテは呆然と立ち尽くして見つめた。

 黒乃は恐る恐る声をかけた。


「いやほら、メル子。お誕生日が被るのは仕方がないじゃない?」

「黒メル子はともかく、アン子さんは後から被せてきましたよね!?」

「わたくしの方が先に製造されたのですから、被せてきたのはメル子さんの方ですわよ」


 その言葉にメル子は硬直し、プルプルと震えた。


「もしかして二歳児なのですか!?」メル子は鬼の形相で問いかけた。

「そうですわよ」にべもなくアンテロッテは答えた。

「でも、私の方がお姉さんですよね!?」

「わたくしの方が先に生まれたのですから、わたくしの方がお姉さんですわよ」

「製造年月日の話ではなく、立ち位置の話ですよ!」

「言っている意味がわかりませんの」


 慌てて黒乃が割って入った。「まあまあまあ、どっちがお姉さんでもいいじゃないのよ」

「よくありません! ハァハァ」


 黒乃は床に寝転がるメル子の手を掴んで引っ張り起こした。肩で息をするメイドロボの背中を撫でていると、ようやく落ち着いてきた。


「どうしてそんなにお姉さんにこだわるのよ?」

「私はメイドロボですから! だからお姉さんなのですよ! ハァハァ」


 黒乃は首を捻った。「うーん? メル子はメイドロボとして、みんなの面倒を見ているから。だからメル子はみんなのお姉さんなんだって思っているのかな?」

「はい……」


 黒乃はメル子を抱きしめた。頭を撫でていると機嫌が治ってきたようだ。


「ほらでもさ、お姉さんだったらちゃんとみんなのお誕生日を祝ってあげないとさ。黒メル子とアン子のお誕生日も一緒に祝ってくれるかい?」

「はい……」


 客席からちらほらと拍手の音が聞こえてきた。それに呼応するかのようにメル子はアンテロッテの前に立った。


「アン子さん、ごめんなさい。今日はてっきり、自分だけが主役かと思い込んでいました。アン子さんだってお誕生日ですものね。皆さんに祝ってもらいたいですよね」

「メル子さん……いいんですのよ。私も大人げなかったですわ」


 メル子とアンテロッテは見つめ合った。拍手の間隔が短くなり、強さが増してきた。


「よかった、仲直りだね。ほら、仲直りのハグをして! さあ!」


 黒乃に促され、メル子とアンテロッテは両腕を広げて歩み寄った。黒乃はその瞬間を待っていた。「今だ!」


 黒乃は二人の間に頭を差し込んだ。メル子の(アイ)カップとアンテロッテのHカップが、黒乃の顔面を左右から圧迫した。


「うおおおおお! IH、IH、IH! IとHの間にはなにがある!? そう、『無』、無とはブラックホール! 光さえも吸い込む無限の重力! 今、我は無限を得たり!」


『うおおおおお!』

『IH! IH! IH!』


「メル子と黒メル子とアン子のお誕生日パーティー、開幕じゃーい!」


『うおおおおお!』

『IH! IH! IH!』


 浅草演芸ホールのボルテージは最高潮に達した。




「ではではではね、マリーさん」

「なんですの、黒乃さん」


 舞台上にはマイクを持った黒乃とマリーが立っていた。舞台端には座布団が三枚敷かれ、その上にメル子、黒メル子、アンテロッテが並んで座った。

 スタッフ達が忙しく動き回り、重箱を運んでいる。その中には豪華な料理が詰め込まれていた。客席にも重箱が運ばれ、皆その出来栄えに瞳を輝かせた。メル子達の前にも何重にも積まれた重箱が置かれた。


「いよいよ始まりました。合同お誕生日パーティー!」

「めでたいですの」

「今ね、ちょうどお料理が皆さんに届きましたから」

「こちらのお料理は、マッチョメイドとノエ子さんが作ってくださいましたの。美味しそうですわー!」


 高座袖のFORT蘭丸の頭が発光し、準備完了の合図が送られた。


「あ、全員に重箱が行き渡ったようですよ」

「それでは、皆様。お誕生日特別重箱、どうぞお召し上がれですのー!」

「せーの、いたーだきーます!」


『いたーだきーます!』

『いたーだきーます!』


 客達は一斉に箸を持ち、料理を頬張り始めた。


『うまい!』

『おーいしー!』


「さあ、メル子達も食べてよ!」

「いただきます!」

「いただきます!」

「いただきますわえー!」


 客の重箱は二段になっており、上の段にはマッチョメイドの懐石料理が、下の段にはノエノエのハワイ料理が詰め込まれていた。

 メル子達の重箱は特別で、なんと三段重ねだ。


「美味しいです!」メル子はうなぎの蒲焼に舌鼓を打った。

「さすがマッチョメイド! 細工が美しいです!」黒メル子は秋茄子の挟み揚げに目を奪われた。

「これはカルア・ピッグですのねー!」アンテロッテはハワイの伝統料理を口いっぱいに頬張った。


 しばらくの間、浅草演芸ホールに重箱を箸でつつく音が鳴り続けた。滅多に食べられない料理を夢中になって口に運んだ。


「いやー、皆さん必死に食べてますねー」

「メイドロボが作ったお料理は絶品ですから当然ですわー」


 黒乃とマリーは満足げに会場を見渡した。本日の主役達は真剣な目で料理を堪能している。


「料理を食べながらね、ゆったりまったりトークをしていきたいと思いますよ」

「食べながら聞いてほしいですの」

「お誕生日パーティー、人によって色々思い出があるかと思います。どうですか、マリーさん? 思い出とかありますか?」

「もちろんですのよ。マリー家では毎年盛大なパーティーが行われますのよ。お屋敷の周りには一目実体化を見ようと群衆が詰めかけてきますのよ」

「ちょっと、なにを言っているのかわかりませんね。メル子と黒メル子にとっては初めてのお誕生日パーティーとなりますが、どうでしょうか?」


 メル子と黒メル子は同時に箸を置いた。


「もう朝からワクワクが……」「パーティーに人がきてくれるか、不安で……」


 二人は目を見合わせた。


「皆さんのプレゼントが楽しみで……」「どこが会場かもわから……」


 再び、二人は目を見合わせた。


「今、私が喋っているところでしょう!」

「私の方が先に喋り始めましたよ」

「あ、じゃあアン子はどうかな?」

「浅草の人達がたくさん集まってくれて嬉しいですわー!」

「ふふふ、よかったねぇ。ではここでサプライズがあります」


 その言葉を聞いた途端、メル子と黒メル子は喧嘩をやめて瞳を輝かせた。


「サプライズですか!?」「どんなサプライズですか!?」

「うふふ、三人のお重は三段重ね。一番下には特別な料理が入っているんだよ。さあ開けてごらん」


 言われた通りに三人は重箱を開けた。アンテロッテはその中の料理を見て箸を震わせた。


「これは、お嬢様が初めてわたくしに作ってくださったお料理ですわー!」


 それはテリーヌだった。トマトとホタテとチーズを器に詰めて焼き上げる。当時、ほとんど料理をしたことがないマリーが、懸命に作った逸品であった。


「ううう、思い出しますわー! おフランスのお屋敷で、お嬢様が石窯を使って焼いてくれたのですわー! 去年のわたくしのお誕生日のことですわー!」


 アンテロッテはポロポロと涙を流しながらテリーヌを頬張った。去年よりも随分と洗練された味だ。マリーの成長がうかがえる。


「ん? これはなんです? おにぎりですか?」


 黒メル子の重箱に入っていたのは、不恰好なおにぎりであった。三角形に整えようと奮闘した形跡は見られたものの、見事に失敗しており、具のおかかがはみ出してしまっている。それどころか一部齧られた跡まである。

 黒メル子は口元を押さえて泣き出した。


「これは……紅子ちゃんのおにぎりです……」

「あたり〜」


 突然黒メル子の目の前に少女が出現した。少女はお重のおにぎりを掴むと、黒メル子の前に差し出した。


「黒メル子ママ〜、おたんじょうび、おめでとう〜」


 黒メル子は紅子の手からおにぎりを直接頬張った。塩気が強く感じたのは気のせいだろうか。おかかが多すぎて、一口でおにぎりは崩れてしまった。紅子は慌てて自分で作ったおにぎりを口に入れた。


「ううう、美味しいです……紅子ちゃんのおにぎり、美味しいです」

「紅子は黒メル子といる時間が長いからねえ。いつもは黒メル子が面倒を見ているんだよね」


 黒乃は改めてメル子を見た。黒乃が頷くと、メル子も頷いた。メル子はお重を開けた。


「これは……」


 ほかほかと湯気が漂ってきた。それと共にスパイシーな香りがホールに広がった。それはカレーのような、カタ焼きそばのような、不思議な料理だった。


「これは……私が初めてご主人様に作って差し上げたお料理です……」


 そう、これは『カタ焼きカレーそば』だ(第5話参照)。メル子が初めて黒乃の小汚い部屋にきた日に作った料理だ。ろくな食材がなく、レトルトカレーとカップ麺を組み合わせて作った思い出の料理。黒乃はそれを完璧に再現してみせたのだ。


「ご主人様……覚えていてくれたのですね」

「当たり前だよ。メル子との思い出を忘れるわけないでしょ」


 黒乃はゆっくりとメル子の前に進むと、ドスンと巨尻を床に落とした。箸を持ち、もうもうと湯気を立てる麺をすくった。


「さあ、ご主人様が食べさせてあげるからね」

「はい……」


 メル子は泣いていた。一年前のあの日、黒乃に初めて出会ったあの日。遥か遠い昔のように感じた。たった一年、だがあまりに多くの出来事があった。ありすぎた。

 しかし、どの思い出よりも強烈に電子頭脳に記録されているのは、やはりあの日の思い出だ。

 あの日、メル子は本当の意味で生まれたのだ。この美しくも残酷な世界へと。


「ううう……ご主人様」

「さあ、お食べ」

「はい!」


 メル子は口を大きく開けた。その口に向けて、黒乃は笑顔で箸を滑らせた。


「ぎゃあ! あっちぃ!」


 メル子は後ろにひっくり返って悶絶した。


「さあさあ、もっとお食べよ」


 黒乃は問答無用で、煮えたぎるカレー餡をメル子の口へ押し込んでいく。メル子は手足をバタつかせて床を転げ回った。


「あっちゅいです! ご主人様! あちゅいです!」

「さあさあさあ」

 

 感動のお誕生日パーティー。次はいよいよプレゼントのコーナーへと進む。


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