第367話 回転寿司です!
メ「ご主人様! 私、回転寿司は初めてです!」
黒「ふふふ、今日はご主人様が学生時代にバイトをしていた、スシローボをご馳走してあげるからね。存分に楽しんでよ」
メ「はい!」
黒「じゃあ、テーブル席についてと……。メル子、お茶淹れてくれる?」
メ「お任せください、この粉末ですね。お湯はどこにあるのでしょう?」
黒「そこの蛇口を捻るとお湯がでるよ」
メ「これですね、ハイテクです。どうぞ!」
黒「ありがとう」
メ「このレーンにお寿司が流れてくるのですよね? 楽しみです! どんなお寿司がくるのでしょうか? まぐろですかね? ハマチですかね? 軍艦もいいですよね。炙りとかもあるのでしょうか? 楽しみだな。まだかな。フンフフーン。そろそろきますかね、ご主人様。ご主人様……まったくお寿司が流れてきません! どうなっていますか! いつまで待ってもなにもきません! 店長! 店長でてきてください!」
黒「こらこら、落ち着きなさい」
メ「ハァハァ、お寿司が回ってこなかったら、回転でもお寿司でもなんでもないではないですか! 無です! 無がそこにあるだけです!」
黒「メル子、昨今の回転寿司は回っていないことも多いんだよ」
メ「そうなのですか!?」
黒「ほら、感染症の問題とか、寿司テロとか、フードロスの問題が色々あってさ。店によっては寿司を回さないのさ」
メ「ハァハァ、なるほど。ではどうやってお寿司を食べればよいのでしょうか?」
黒「このタッチパネルで注文するんだよ」
メ「これは合理的ですね」
黒「さてさて、じゃあラーメンからいこうか」
メ「お寿司屋でラーメン!?」
黒「実は、回転寿司にはなぜかラーメンがあることが多いのだ。あれ? あそこにルビーとFORT蘭丸がいるな」
メ「お二人で外食とは珍しいですね」
——ルビー&FORT蘭丸。
ル「だーりん、コーン巻きをうぉんとぅ」
蘭「ルビー! お魚は食べないんデスか!?」
ル「わたーしはお魚にがてね〜」
蘭「ジャア、ナンデお寿司屋にきたんデスか!? ボクはうどんにしマス!」
ル「わぁ〜お、ポテトに〜、ハンバーグ握りに〜、チキンもあるね〜」
蘭「アメリカンなモノばっかり頼まナイで!」
ル「わぁ〜お、もううどんがあら〜いぶ。ズルズル」
蘭「イヤァー! ボクのうどん!」
——黒乃&メル子。
黒「なにやってんだ、あいつら? ズルズル」
メ「ご主人様、意外とラーメン美味しいですね。ズルズル」
黒「お、いわしがきたよ」
メ「これすごいですね〜。席ごとに専用のレーンがあって、自動で届けてくれるのですね」
黒「ハイテクだね〜。お、えんがわもきた」
メ「渋いラインナップで攻めますね」
黒「光り物と白身から入るのがご主人様流だよ」
メ「私のエビとイカも届きました! あれ? あちらのテーブルにいるのは、お嬢様たちでは……」
——マリー&アンテロッテ。
マ「おサーモンを食べたいですの」
ア「おサーモン、オニオンおサーモン、焼とろおサーモン、おろし焼とろおサーモン、おサーモンちーず、炙りおサーモンバジルチーズを注文しましたの」
マ「おサーモン尽くしですの」
ア「生おサーモン、おサーモンアボカド、いくらおサーモン包みも追加で注文しましたの」
マ「お寿司といえばおサーモンですの」
——黒乃&メル子。
黒「サーモンばっかり食ってらぁ……」
メ「もっと伝統的なネタも食べてほしいですね」
黒「おフランスでも寿司は食べられるのかなあ。このイカ、歯応えがあるな」
メ「こちらのタコは柔らかくて旨みがあります。おや? あちらのカウンターで一人でいるのは?」
——フォトン。
フ「……うふふ、回転寿司は店員さんと話さなくていいから一人でもこれる。まずは茶碗蒸しで心を落ち着ける」
フ「……ふぅ、温まる。次はあさりの赤だしをすすりながら、かぼちゃの天ぷらをさくり」
フ「……締めはカッパ巻きとおいなりさん。えへへ、満足」
——黒乃&メル子。
黒「うわー、しっぶいな〜」
メ「定年を迎えたサラリーマンが、唯一の楽しみとして、週一回の回転寿司を楽しんでいるかのようです」
黒「次は創作系をいってみようかな。お、アボカドロールがあるじゃないか」
メ「私はオムライすしにチャレンジしてみます!」
黒「あ、誰か入ってきた。うわ!」
——ゴリラロボ。
ゴ「ウホ」
黒「ふんふん、なになに? 今日こそロボッくらポン!で缶バッジを当てる? ジャイアントモンゲッタが当たれば、全種類コンプリート?」
メ「相当通いこんでますね」
ゴ「ウホ」
黒「ふんふん、なになに? ウニが好きだから、ウニを百皿食べる? 十皿ごとに抽選が行われて、当たったら缶バッジがもらえる?」
メ「誰に説明をしていますか。あとウニばかり食べるのはお店に迷惑なので、やめてください」
黒「ゴリラも寿司を食う時代か〜。お? また二人入ってきたぞ」
——マヒナ&ノエノエ。
マ「ノエノエ。この怪天寿司というのはどういうシステムなんだ?」
ノ「マヒナ様。なにかをすることで寿司が回るそうです」
マ「ちょっと意味がわからないな」
ノ「マヒナ様、わかりました。このタッチパネルで注文をするようです」
マ「なんだと。店員が注文を取りにこないとは、サボっているのか? 社会不適合ロボか?」
ノ「いえ、効率化のためのようです」
マ「そういうことか。命拾いしたな!」
ノ「では、適当に注文しましょう。まぐろ十個、ウニ十個、いくら十個。このくらいでよろしいでしょうか?」
マ「よくわからないが、いいんじゃあないか。あと味噌スープも頼む」
ノ「マヒナ様、もう届きました」
マ「早いな。なんだこのミニサイズの食べ物は? 小さすぎる」
ノ「これが寿司というものです」
マ「面倒くさい。ライスを全部かき集めて丼に入れよう。その上に具を乗せればいいじゃあないか」
ノ「マヒナ様、さすがです。味噌汁のお椀を丼代わりにしましょう。上から醤油とわさびもかけましょう」
——黒乃&メル子。
黒「はわわ、はわわ。なにやってるのあの二人」
メ「自前で海鮮丼を作っています。モラル的にどうなのでしょうか……」
黒「だいたいなんでマヒナは寿司を知らないんだよ」
メ「お月様にもお寿司はありますよね。ご主人様、中とろがきました」
黒「ひょー! やっぱまぐろはお寿司の華だね!」
メ「昔はあまり食べられていなかったなんて、信じられませんね。あ、また誰かきましたよ」
——マッチョマスター&マッチョメイド。
マ「われ 回転寿司 はじめて」
メ「おで けんきゅうのために よくくる」
マ「なんの けんきゅう?」
メ「デザートの けんきゅう 回転寿司 デザート たくさんある」
マ「マッチョメイド けんきゅうねっしん」
メ「おでの 和菓子屋に いかす」
——黒乃&メル子。
黒「デザートか〜」
メ「確かに、やたらデザートのメニューが豊富ですね。パフェにケーキにアイスに和菓子系もあります」
黒「その辺が子供にも人気な理由なんだろうね」
メ「子供といえば、かなりいますね。半分は子連れの家族です」
黒「一家できても安いからねえ。ん? この声は? おわっ!? 黒メル子がいるじゃん!?」
メ「え!? 紅子ちゃんと……小学校のお友達もいますよ!」
——黒メル子&紅子&持子&睦子。
黒「さあ、皆さん。たくさん食べてくださいね」
紅「たべる〜」
持「おすし!」
睦「わぁ、おすし。うまそ」
黒「皆さんの好きなお寿司はなんですか?」
紅「ほたて〜」
持「あなご!」
睦「わぁ、サバ。うける」
黒「意外と渋いチョイスですね。私は海苔巻きが好きです。黒いですから」
——黒乃&メル子。
メ「黒メル子が子供達の面倒をみています……」
黒「まあ、普段は紅子と一緒に、ボロアパートの地下で暮らしているからねえ。それにしても子供が多いな。子供にとっては一種のテーマパークなんだろうねえ」
メ「確かに、回転寿司ってなにかワクワクするものがあります。なぜでしょうか?」
黒「うーん、やっぱり注文かな〜」
メ「注文ですか?」
黒「飲食店って、最初に一回注文するじゃない?」
メ「もちろんそうですね」
黒「メニューと睨めっこしてさ。そんでこれだ!ってものを頼むんだよ。そんでいよいよその商品が手元に到着する。飲食店では、その瞬間がある種の『ピーク』なんだよね」
メ「はぁ」
黒「回転寿司ってのはそのピークが何回もやってくるんだよ。一皿ごとに注文するからさ」
メ「なるほど」
黒「次はどうしよう? あれはどうだ?っていう選択肢を一回の食事で五回、十回、下手すれば二十回も味わえる。そこに楽しさがあるんだろうね」
メ「子供に人気なわけですね。あ、ご主人様。締めのシャーベットがきましたよ!」
黒「あー、さっぱりするー!」
メ「ご主人様! あれだけ食べて、お会計なんと二千五百円です!」
黒「やっすいな〜」
メ「なんでも値上げ値上げのご時世で、本当にありがたい存在ですね」
黒「そうだね。寿司は元々、江戸時代の屋台から始まったっていうしね。庶民がちょっとつまんでから仕事にいくって感じだったんだろうね。それが二十世紀には高級嗜好によって練りに練られ、そしてまた回転寿司として庶民のところに戻ってきた。これを大事にしていきたいよね」
メ「はい!」
蘭丸「シャチョー!? イヤァー! ナンデシャチョーがイルの!?」
黒乃「お、FORT蘭丸達もおかえりかい」
ルビ「わーお、シャチョサン、へろ〜」
マリ「どうしてお庶民の方がお寿司屋にいらっしゃるのかしらー!?」
アン「ここは上野ですわよー!?」
黒乃「庶民でも上野の回転寿司くらいくるじゃろ」
フォ「……クロ社長、一緒に帰ろ」
ゴリ「ウホ」
メル「ほら、ゴリラロボも帰りますよ」
マヒ「黒乃山、寿司って美味いんだな」
ノエ「日本の伝統、しかと味わいました」
黒乃「むふふ、それはよかった」
マス「われ まんぞくした」
マチ「おで かえったら さっそく和菓子つくる」
黒メ「ご主人様! 今度は回らないお寿司にいきましょう!」
メル「そんなお金はありません!」
紅子「黒乃〜、浅草かえろ〜」
持子「紅子ちゃん! はしろう!」
睦子「わぁ、とおいよ。つかれる」
黒乃「そうだね。じゃあみんなで浅草に帰ろう!」
寿司で満たされた胃袋と、仲間達で満たされた心。それらが回って回って、明日へのエネルギーになるのだ。




