表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない  作者: ギガントメガ太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

339/510

第339話 修行です! その五

 浅草寺から数本外れた路地に佇む、小さくおしゃれな紅茶店『みどるずぶら』。その店の前をクラシックなヴィクトリア朝のメイド服を纏ったメイドロボが、箒を持って掃除をしていた。

 朝の静かな空気を震わす地面を掃く音。その心地よいリズムは、隣の古民家から響く怒声によってかき消された。


「FORT蘭丸ぅぅぅぅ!!」

「ハイィ!?」


 白ティー丸メガネ、黒髪おさげののっぽな女性は目を血走らせて叫んだ。


「タイトバースへはアクセスできたのぉぉぉ!?」

「今、チャレンジ中デス!」


 見た目メカメカしいロボットのFORT蘭丸は頭の発光素子を激しく明滅させながらキーボードを叩いていた。その横で真っ赤な唇が色っぽい桃ノ木桃智が目を瞬かせた。


「FORT蘭丸君、あんまりビカビカさせると眩しいわよ」

「ゴメンナサイ!」


 そう言いつつも彼の手元のキーボードは、タッチする度にキーが派手に明滅するゲーミング仕様なのであった。


「この企画はお前がキモだからな。頼んだぞ!」

「オ任せくだサイ!」


 現在FORT蘭丸はタイトバースへとアクセスする方法を模索中なのだ。

 タイトバースとはタイトクエストの世界のことであり、そのタイトクエストは台東区に存在する大手ゲームパブリッシャー『ロボクロソフト』によってリリースされたゲームだ。

 そしてその世界は、ロボット達の電子頭脳をリンクさせて構築したグリッドコンピューティングシステム上に存在する超AI『神ピッピ』によって生み出された世界なのだ。

 つまり、タイトバースはロボット達の頭の中にある世界だ。


 タイトバースへアクセスするにはイマーシブ(没入型)マシンを使用するのが正式な方法だ。イマーシブマシンは人ひとりが入れる巨大な装置だ。当然高価だし、お手軽には程遠い。しかし黒乃の企画では、もっと簡単な方法でアクセスできなくてはならない。

 そしてそれはできるはずなのだ。なぜならロボットはイマーシブマシン無しでもタイトバースにアクセスできるからだ。異世界は彼らの頭の中にある。それ故、多くのロボットがタイトバースに取り込まれてしまった。それがタイトクエスト事件だ。


「ルビーのコードを探レバ、きっとアクセスできるはずデス!」


 FORT蘭丸のマスターであるルビー・アーラン・ハスケルはアメリカ出身のプログラマで、超AI神ピッピのチーフプログラマである。

 そしてゲームとしてのタイトクエストは、ルビーが書いたソースコードを流用して作られていたのだ。それは本来あり得ないことで、事態が発覚すれば大問題を引き起こしかねない。ロボクロソフトにとっては、喉元に突き刺さったバラの棘だ。


「くくく、だからこそそれを逆利用してやるのさ」黒乃は低い声で笑った。

「イヤァー!」


 ロボクロソフトがルビーの書いた神ピッピのコードを流用してタイトクエストを作ったのならば、FORT蘭丸がそのコードを使えば同じことができるはずなのである。現在彼が探っているのはまさにその方法だ。


「イマーシブマシン無しで気軽にタイトバースへアクセスする。それがこの企画には絶対必要なのだよ。くくくく」


 悪役のように笑う黒乃の肩がつつかれた。


「ん? フォト子ちゃん、どしたの?」


 隣の席に座る青いロングヘアの子供型ロボットは、体を左右に揺すって楽しそうにしていた。


「……えへへ、プチのデザインできた」

「おう! どれどれ?」


 黒乃はフォトンに椅子を寄せて、モニタを覗き込んだ。画面には三頭身の見るも無惨なメイドロボが映っていた。頭からはキノコが生え、背中からは蜘蛛の足が伸びている。


「ぎゃぽぽぽぽぽぽ! キモい!」

「……あ、こっちじゃなかった」


 フォトンは画面を切り替えた。すると先ほどまでとは打って変わり、いかにも可愛らしい三頭身のメイドロボが現れた。


「おお! 可愛い!」


 画面には金髪の和風メイドロボが表示されていた。


「これメル子がモデルでしょ!」

「……うふふ、当たり」


 桃ノ木とFORT蘭丸もフォトンの席に押し寄せてきた。


「いいわね」

「カワイイデス!」

「……えへへ、アン子ちゃんモデルと、ルーちゃんモデルもある」


 アンテロッテをモデルにしたプチと、ルベールをモデルにしたプチだ。

 黒乃は立ち上がった。


「だいぶまとまってきたな。よし! 桃ノ木さん! 浅草工場にぶっこみ(セールス)にいこうか!」

「はい!」



 ——八又(はちまた)産業浅草工場。


 赤い壁の巨大な建造物の中に黒乃と桃ノ木はいた。エントランスで二人を出迎えたのは職人ロボのアイザック・アシモ風太郎だ。


「オ二人トモ、オ待チシテ、オリマシタ」

「先生! お願いします!」


 SFチックな白い通路を進み、会議室に通された。清潔な室内はやはり白く、独特な緊張感が漂っている。


「ドウゾ黒乃サン、オ水デス」

「あ、いただきます」

「ドウゾ桃ノ木サン、マンゴーラッシーデス」

「いただきます」


 アイザック・アシモ風太郎は椅子に座ると企画書をめくった。既にデータは事務所を出る前に送信済みである。


「以前ヨリ、大分ヨクナリマシタ」

「本当ですか!?」


 かねてより問題になっていたのはAI製造のコストである。プチロボットを万単位で製造しなくてはならない。ボディは工場で大量生産が可能だ。しかしAIはそうはいかない。黒乃が要求するAIは、玩具に搭載されるような消費されるレベルのAIではない。より高度なAIが必要なのだ。

 そのレベルのAIは新ロボット法により保護されている。コピーして同時に稼働させることはできない。一つ一つ育成しなくてはならない。


「マサカ、AIヲ、タイトバースカラ、持ッテクルトハ、思イマセンデシタ」


 先日黒乃達はタイトバースに赴いた。そこで妖精女王ティターニアと契約を結び、グレムリン達をプチロボットのボディにインストールさせる許可を得たのだ。


「えへえへ、苦労しました」

「確カニ、コレデアレバ、採算ガトレル、計算ニナリマス」

「おお!」

「先輩、やりましたね!」


 アイザック・アシモ風太郎は企画書をめくった。


「シカシ、ナゼAIガ、グレムリンナノデショウカ。イタズラ好キデ、扱イヅライト、思イマスガ」


 黒乃はニヤリと笑った。


「あくまでゲームですから。扱いづらくていいんです。最初からデキたAIじゃ面白くないでしょう」

「ソウイウ、モノデスカ」


 さらに企画書をめくった。


「それがプチ達のデザインです」

「ナルホド、メイドロボガ、メインナンデスネ」

「もちろんですよ!」


 フォトンがデザインしたものだ。職人ロボは興味深そうに企画書をめくっていった。


「デハ、サッソク、プチロボットノ、試作ニ、取リ掛カリタイト、思イマス」

「先生! お願いします!」

「お願いします!」


 黒乃と桃ノ木は揃って頭を下げた。

 アイザック・アシモ風太郎は企画書を閉じた。その表紙にはこう書かれていた。


 『めいどろぼっち』





 ——タイトバース西方の国家ウエノピア獣国。


 その首都オンシーパークにゲームスタジオ・クロノス一行はいた。

 オンシーパークはジャングルに囲まれた街だ。巨大な木が立ち並び、その上に街があるのだ。木と木の間は吊り橋で結ばれ、地面に降りなくても生活が可能だ。


「ニャー」

「ぐわわ!」


 大きなグレーの塊は黒乃の頭を踏み台にして前方に飛び出した。軽い足取りで吊り橋を駆けていく。


「チャーリーのやつ、久しぶりにここに帰ってこれて浮かれてんのか」


 ロボット猫のチャーリーはかつてこの地でチャ王として君臨していたのだった。


「チャ王ー!」

「ここニャー!」


 吊り橋の向こうで出迎えたのは白猫の獣人モカとムギ。チャ王が去った今、ウエノピアを取り仕切っているのは彼女達だ。

 チャーリーは二人の胸に勢いよく飛び込んだ。


「ニャー」

「ふんふん、なになに? もうずっとここにいる? 現実には二度と帰らない? 白猫ちゃん達と幸せに暮らすんだ? ばかこくでねー、今日はビジネスで来たんだからな」


 一行はオンシーパークの中心部にあるシャンシャン大聖堂へとたどり着いた。他の二倍はあろうかという巨木の中に大聖堂があるのだ。ここがこの国の中枢だ。

 一行は大聖堂の中に入った。


「おお! すごい人だ!」

「シャチョー! 見てくだサイ! 全員獣人デスよ!」


 大聖堂の中は獣人で溢れていた。熊の獣人、虎の獣人、鳥の獣人。誰彼構わず押し寄せている。


「……どこにいるんだろ」

「フォト子ちゃん、はぐれないように手を繋ぎましょう」


 クロノス一行とチャ王一行は獣人達の間をかき分けるようにして進んだ。今日はなにかのお祭りなのだろうか?


「ご主人様! ここです! ここですよ!」

「黒乃のアネキー! 待ってましたブー!」


 大聖堂の中には一つの屋台が設置されていた。皆、その屋台目当てにやってきていたのだ。近づくにつれて、えも言われぬ香りが黒乃達を包み込んだ。


「おお、おお!」


 黒乃は屋台の上に掲げられた看板を見上げた。


 『肉の聖地ブータン』


 ブータンの店が爆誕していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ