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第2話 データベースに登録します!

 黒ノ木黒乃(くろのきくろの)により完璧にカスタマイズされたメイドロボが、今目の前にいる。金髪のショート。毛先に僅かにウェーブがかかっている。目はやや大きめだがキリリとしていて意思が強そうだ。光の反射によってうっすらと青みを帯びているのが確認できる。全体的に顔は丸く愛嬌がある。かつて展覧会で見た大人のメイドの妹バージョンといったところだろうか。

 背は標準的な女性よりも僅かに小柄ではあるが、特定の部分だけ明らかに小柄ではない盛り上がりを見せている。黒乃がそこに必要以上のモノを求めるには理由がある。それは高校生の頃……。


()()()、お客様」

「ああ、はい!」


 つい思い出に浸りそうになったところをメイドロボが呼び戻してくれた。現実に戻ると、目の前には非現実的なメイドロボがいる。自分とは似ても似つかない憧れの存在。

 黒乃の身長は周囲と比べ、ゆうに十センチは高い。体は細身で肉付きはまったく。まるまるメガネの黒髪おさげのお姉さんだ。

 だからメイドロボを見るときは上から見下ろすことになる。メイドロボは当然キラキラとした瞳で黒乃を見上げてくる。黒乃は自分の見た目を今まで気にしたことなどなかった。だが今気恥ずかしさを覚えている。自分と釣り合わないのではと感じている。しかしよく見るとメイドロボもジャージ姿なわけなので、意外とそうでもないのかもしれない。黒乃の白ティージーンズと大差ないではないか。

 だが今メイドロボの白い肌には汗が浮かんでいた。走ってきたのだから当然だ。それが妙に艶めかしく感じる。それにほのかないい香りもする。香料の類ではなさそうだ。ロボットが汗をかくとはどういうことであろうか。人間を模してそのような機能をつけているのか。それとも工学的な理由があるのか。


「到着早々で申し訳ないのですが」

「ああ、うんうん。ごめんね。なんだろ?」

「本日よりお客様の正式なメイドとなりますので、まずはその登録をお願いしたいと思います」


 二人は部屋の床に座った。この部屋には机という気の利いた発明が一つあるが、カップ麺の空容器やレトルトパウチが積み重なっていて、とてもではないがこれらを挟んで会話する気にはならない。床に直接クッションを置いて、その上に向かい合わせに座った。


「新ロボット法第四章第XXX条に従いまして、いくつかの情報を国家のデータベースに登録いたします」

「ああ、はいはい新ロボット法ね。学校で習ったよ。ほとんど覚えてないけど……」

「まずはご本人の認証から参ります。お名前と生年月日をお願いします」

「ああ、んと……黒ノ木黒乃。2100年の……」

「ありがとうございます。次は指紋認証です」


 メイドロボは右手の親指をぐっと天に突き立てて、指の腹をこちらに差し出してきた。この指で認証を行うということなのか。

 黒乃は自分の親指をメイドロボの親指に重ね合わせた。


「ピッ」

「え? 今、口でピッって言わなかった?」

「言いましたが。お気に召さないのであれば、効果音の変更は可能です」


 音の種類の問題ではなく、なぜ口で言わないといけないのかを聞いてみた。決してメイドロボの鉄板ジョークなどではなく、廉価版メイドロボのモデルにはスピーカーが口にしかついていないから、との回答だった。高級モデルには複数のスピーカーが体の各所に付いているということなのか……わからない。


「指紋認証完了しました。次は虹彩認証を行います」


 そう言うとメイドロボは前のめりになり黒乃の顔の目の前まで迫ってきた。ドキリと鼓動が高鳴り、顔が一瞬で赤くなる。


「目を開いたまま少しお待ちくださいね」


 メイドロボの目はカメラになっており、それにより黒乃の目の虹彩をスキャンしたのだ。

 距離が近づくことで、先程も感じた不思議ないい香りが再び漂ってきた。やはりなんの香りかわからない。とても落ち着く香りだ。


「ピッ」再び口からビープ音が聞こえた。

「ありがとうございます。これで認証は完了です。あら? どうかなされましたか?」


 不思議な香りに思いを馳せていたため、ついうっとりしてしまったようだ。黒乃は思い切ってなんの香りなのか聞いてみた。


「これは私の体の汗の匂いではないでしょうか?」


 家庭用メイドロボは家庭に住み込みで働くので、工場でメンテナンスを受ける機会が他のロボット達と比べて少ない。そのため日常的な摩耗などに対する補修は、メイドロボの皮膚であるナノスキンが自動で行うようになっている。補修を行った際に出るナノマシンの死骸が、水分といくつかの無害な物質に分解されて皮膚から排出される。その水分が気化する際にそれぞれの物質が飛び散り、鼻腔を刺激するのではとの説明だった。天然由来のナノテクで人体にも環境にも優しいとのことだが。

 結局説明を聞いても、なぜそれがいい香りとして感じられるのかはわからなかった。赤子が母の香りに安らぎを感じるのだって理由はわからないからそれでいいじゃないかと黒乃は結論を出した。


「ええ、じゃあ包丁で指切ったり転んで擦りむいたりしても自動で傷が治るんだ。ナノスキンていいねそれ」

「それは治りません。あくまで人間でいう新陳代謝に対応するものと思ってください」

「ええ……そうなんだ」


 では怪我をしたらどうするのかを聞いてみた。その場合は補修用ナノペーストを塗布するらしい。そのナノペーストとやらはどこにあるのだろう?


「私は持ってきていませんよ? お客様がオプションページでナノペーストの個数をゼロに設定していましたので」


 黒乃は叫んだ。


「オプション!!」


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