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第15話 メンテナンスは大変です!

 ある日の晩。


「ご主人様がお仕事をしている間に、そこの浅草工場にいってまいりまして」

「え? なにしにいったの?」

「メンテナンスキットを取ってきたのです」

「メンテナンスキットってなんか聞いたことあるな」

「ご主人様がこの前注文したものですよ」


 黒乃はすっかり忘れていた。メル子になにかあった時のために補修や整備、検査を行うためのキットを注文していたのだった。

 新ロボット法により、ロボットは月一度の工場での定期メンテナンスが義務付けられているが、メンテナンスキットで検査を行い、そのデータを送信すればいくらかは免除される。

 本来はメイドロボを購入する時にセットで注文しておくものなのだが、黒乃は予算の都合で省いていたのだ。


「くそう、購入する時にセットで申し込んでおけば割引だったのに〜。十万円も取られた」

「見通しが甘いですね、ご主人様」

「てかなんでメル子がわざわざ工場まで取りにいったの? 送ってくれないの?」

「だってご主人様が注文する時に送料ゼロを指定したからですよ」


 またやってしまった。送料ゼロの誘惑になかなか勝てない。


 メル子の足元には結構ゴツいクーラーボックスのような箱が置かれている。これがメンテナンスキットか。


「本来はロボット本人が自分でメンテナンスキット使って整備できるのですけど、私になにかあった時のために、今回はご主人様にやってもらうのがよいかと思います」

「おお、おお。そうだね。やるやる」



 まず黒乃はメンテナンスキットからコードを伸ばしコンセントに差し込んだ。バッテリー内蔵なので充電が必要だ。

 蓋に二箇所掛かっているロックを外してオープンボタンを押す。するとプシューと音がして蓋がゆっくりと持ち上がった。


「おお! SFっぽい!」


 内部にはシリンダーが数本固定されているのと、プラグのようなものがたくさん生えていた。蓋の裏側は全面モニタになっている。


「まず計測から始めましょう。ボディに異常がないかをチェックするのです」

「おお、おお。どうするの」

「そのA1のプラグを私に刺してください」

「え!? どこに?」

「首の後ろのIDが表示されているところの下です」


 黒乃がプラグを摘んで引き上げると、コードがシュルシュルと伸びてきた。そのまま床に座っているメル子の背後に回り、首の後ろを探る。


「あれ? プラグ刺す穴なんてないけど」

「見えないだけです。押すとわかりますので」


 黒乃はプラグを押し当ててみた。そのまま刺さりそうな感じがする。


「ここだな。それ!」

「痛たたたたたたた!」

「え!?」


 黒乃はびっくりしてプラグを引っ込めた。


「ご主人様、それA1のプラグですよね!?」

「あ、ごめん。B1って書いてあったわ」

「違う棒を違う穴に入れるって、それ大事件ですからね! 気をつけてください!」

「いやホントごめんて」


 改めてA1のプラグを差し込む。


「あふん」

「どした!?」

「いえ、なんでもないです。人に差し込まれると変な具合ですね」

「びっくりさせないで」


 次はB1のプラグをおへそに刺すらしい。


「今度は間違わないでくださいよ、ご主人様。ご主人様?」

「ええ、ああ。うん」


 メル子の背後のこの位置だと胸の谷間が丸見えだったので、黒乃はしばらくそれを眺めてからB1のプラグを引っ張った。


「これはおへそだな。どれどれ?」

「なにか、目がいやらしいのですよね」

「そんなことあるかい」


 メル子は赤い袴を少し下ろし、着物とエプロンを軽く捲り上げると真っ白いお腹が露わになった。真ん中に慎ましいおへそが見える。


「いやー、可愛いおへそだなあ。ゴマはないかな?」

「いいから早くしてください!」


 へそにプラグを差し込み、両手両足にもそれぞれ取り付けた。これで接続は完了だ。


「ではモニタの検査Aのタブを選択して、開始ボタンをタッチしてください」

「ほいほい、ピッピと」


 黒乃が言われた通りに操作すると、画面にプログレスバーが表示された。後は待てばいいらしい。


「あれメル子、顔が真っ赤だけど大丈夫? 風邪かな?」


 黒乃が心配してメル子のおでこに手を当てた。その途端黒乃は飛び上がって、後ろにひっくり返った。


「あっちい! そしてなんかビリっときた!」

「あ、耐熱検査や耐電検査もありますので、検査中は触らない方がいいですよ」

「それ先に言って!」

「ご主人様が警告メッセージを読まずにすっ飛ばしたのですよ」

「ああ……確かに、利用規約とか読まずに飛ばすタイプだわ」


 まもなくポーンと音が鳴り、検査が終了したというメッセージが画面に表示された。それをタッチすると検査結果一覧が表示された。


「ふんふん、判定Aが九個、判定Cが一個。え? なんか悪いところあるの!?」

「ああ、これは体内のナノマシンが少なくなっているということですね。補給すれば大丈夫です」

「どどど、どうやって補給するの?」


 ナノマシンはメンテナンスキットのシリンダーの中に入っているらしい。『補修用ナノマシン』と書かれたシリンダーの手前のスイッチを押すと、プシューという派手な音と共にシリンダーが飛び出てきた。


「これを注入すればいいのか」

「それは高価なナノマシンですので、こぼさないように気をつけてください」

「よしよし、任せとけ。どこから注入する?」

「耳ですかね」

「耳!?」


 メル子が言うには、穴ならどこでもいいようだ。


「耳はなんか抵抗あるな。普通に口からじゃダメなの?」

「ナノマシンを口からですか? 冗談を言わないでください。口は食べ物を入れる場所ですよ」

「イマイチ感覚がわからん。お尻の穴はどうなの?」


 やれやれといった具合に呆れられてしまった。


「お尻は出す穴でしょう。そこから入れてどうするのですか」

「まあ、ごもっともだけど」


 少し腹が立ったので、黒乃は復讐に出ることにした。


「よし! 鼻から入れよう!」

「え?」


 メル子の首に腕を回し、動かないように固定する。そのままナノマシンが入ったシリンダーの先を鼻の穴に突っ込んだ。


「ちょ、ご主人様! やめてください!」

「動くなメル子〜。今注入するから〜」

 

 黒乃がシリンダーのスイッチを押すと、デロデロとナノマシンが押し出されていく。


「それ! 鼻からナノマシン! 鼻からナノマシン!」

「フゴフゴフゴ」


 反対の鼻の穴から銀色のナノマシンが吹き出した。


「ご主人様! 多いです! 少しでいいのです!」

「まだまだ〜」


 その晩メル子は口を聞いてくれなかった。


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