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第7話 触手令嬢、混浴する

 

「なるほど~

 ヒロ様のおじい様、つまりこのお屋敷の旦那様は、昔から魔物好きで。

 だからお屋敷の風情も魔界に寄せられ、使用人たちも殆どが皆魔物と。

 最高ですわねぇ~!」


 ソフィに案内され、わたくしとヒロ様は早速お風呂に入ることにいたしました。

 え、別々にじゃないのかって? そこは勿論、運命の二人ですもの。一緒に入るのは当たり前というものでしょう?

 磨き抜かれた御影石をふんだんに使い、黒く輝く壁と床。きちんと手入れが行き届いております。

 広々とした浴槽の片隅には魔竜をかたどった石像が。大きく開いたその口腔から、暖かなお湯が溢れております。

 湖で冷えきってしまった身体を温めるには最適ですね。


「このお風呂は人間用というお話ですが、魔物用も見てみたいですわね」

「……そっちには血の池と溶岩風呂があるぜ」

「なんと!

 是非ヒロ様と一緒に入ってみたいですねぇ」

「いや、俺はさすがに無理だって……

 っていうか」


 ヒロ様はじっとわたくしを見上げながら、何故か不満げに呟きました。



「……何で俺、服 の ま ま 風呂入んなきゃなんないワケ?

 しかも何でお前、一緒なの? 

 てか何で、俺を抱いたまま風呂に浸かってんの??」



 ヒロ様の仰る通り、わたくしは全ての触手をいっぱいに浴槽に広げ、全身でお湯に浸かっております。

 そのさまはまるで、床と壁一面に這わせた触手そのものが浴槽と化したかのよう。

 わたくしの作り上げたそんな浴槽の中心にいらっしゃるのは、勿論ヒロ様です。

 わたくしの胸に両手両足を拘束され抱きしめられる格好で、触手にその身を洗われるがまま。なんという僥倖。


「うふふ。

 これぞエスリョナーラ家名物、触手風呂ですわ~

 どうですかヒロ様、お湯加減のほうは?」

「うん……まぁ、悪くはないけど

 ……けどな。

 何で!

 普通に! 一人で!! 裸で!!!

 風呂入っちゃ駄目なんだよ?!」


 ちょっと火照った頬が、ぷんと膨れております。

 その可愛らしいお顔を触手で撫でるたび、初々しい肌の感触が先端からわたくしの全身を駆け巡り……あぁ、たまらない。


「それは勿論、お洋服がまだ汚れていますでしょう?

 泥だらけの衣服は、お洗濯が大変ですからね。だからこうして、わたくしが直接洗わせていただくのですよ~♪ 身体と一緒にお洋服も洗えて、一石二鳥でしょう?

 ヒロ様のお洋服、わたくしが汚してしまったようなものですからね。うふふ~」

「その割に妙に嬉しそうなの何なんだよ」

「こうして愛しの君の身体に堂々と触れて、嬉しくない触手なんていません!」


 清浄なお湯の中に拡がり、ふわふわ揺れるスカーフ。肩のあたりではぴったり肌に張りついている白い水兵服が、水面下で裾はひらひらして、時折おヘソが見えるのも……あぁ、興奮でのぼせあがってしまいそうです。

 湯気の中に、ヒロ様の髪の良い香りをほのかに感じます。

 ズボンの泥を取る為、太ももに触手を這わせちょっと強めに先端で吸い付くと、見る間に汚れがわたくしの中に吸い込まれていきます。


「……ん……っ」


 ちょっと痛かったのか、ヒロ様の喉からわずかに呻きが漏れました。


「あら、ごめんなさい。

 でもこうすれば、しつこい汚れも一瞬ですわ~

 これならソフィの負担もだいぶ減るはずです」

「ていうか、凄いな。

 ルウは、泥啜っても平気なのか?」

「勿論です。

 ヒロ様の身体についた泥ならば、わたくしにとっては最大の栄養です」

「いや、でもさ」


 泥をどんどん取り込んでいくわたくしを、ヒロ様はちょっと心配そうに見上げます。

 やはりヒロ様は優しい。こうしてわたくしの身を心配して下さる。

 でも――今言ったことは事実なのです。


「あら、ヒロ様はご存じないですか? 触手族の栄養摂取の方法。

 触手族は自分の気に入ったものにたっぷりと触れ、その気を取り込むことで養分とするのです。

 だから、例え宝石のような無機物でも、自分のお気に入りでさえあれば全く問題なく栄養を摂取できるのですよ。

 もっとも、無機物だけを愛でる触手は大変な変人、ならぬ変触と呼ばれておりますが」

「へ、へぇ~……」

「そもそも魔物たるもの、人間界の大概の毒物は摂取可能ですからね。

 さすがに爆発物や、魔物用の毒となると話は別ですが」


 わたくしは触手の先端に、浄化の術をこめた水をたっぷり含んで膨らませました。

 その先端をヒロ様の頭に近づけ、泥で汚れたところに吹きかけます。


「わ、わっ!?」

「ちょっと我慢してくださいね~

 この浄化の水で、お洋服もヒロ様の身体もキレイにしてさしあげますので!」


 少しだけ粘り気を含んだ水がかかり、ヒロ様が思わず顔を背けましたが。

 それでも浄化の水は大量に頭から顔、上半身を、汚れと共に流れ落ちていきます。

 素早く別の触手でその汚れを吸い取るわたくし。ヒロ様の要素となるもの、少しでも逃してはなりません。

 あぁ、しっとり濡れた薄い布地の上から感じる体温に柔肌の心地よさといったら――


「あ、え、ちょ……ルウ?」


 この快感も知らず、無謀にもさっさと脱がせろだの引きちぎれだのスピードが勝負だのと、父上はわけの分からないことばかり。

 全く、無理解にもほどがあります。


「ルウ! や、やめろって……そこは」


 見えないからこそ、隠されているからこそ、美しく感じるものもあるというのに。

 こうしてちょっと乱れた襟から覗く鎖骨や、ボロボロになった背中の破れ目、ほのかに透けて見える胸元など最高の高――


「おい! ルウ!!」

「はっ!?」


 ヒロ様の声に、思わず我に返りました。

 太ももから首筋から二の腕から、靴下を脱いだばかりの裸足から、ヒロ様の身体の至るところに這いまわっているわたくしの触手。

 でも――

 お湯の中だというのに、どういうわけかヒロ様の身体が震えています。

 上気していたはずの頬が、見る間に青ざめていました。


「ど、どうしましたヒロ様?

 もうのぼせてしまったのですか? それとも、吸いつきが痛かったので?」

「い、いや、その……

 ごめん、何でもない」


 唇を震わせながら、俯いてしまうヒロ様。

 顎や前髪から、やや粘ついた浄化の水が垂れ下がっています。


「その、浄化ってやつ……やめてくんないかな」

「?

 これをしないと、汚れも落ちませんしお怪我も完治しませんよ?

 それに何と言っても、吸いつきも良くないですしね♪」


 最後のは一番大切な要素です。少なくともわたくしにとっては。

 しかしヒロ様はお湯の中でわたくしの触手を振りほどこうと、力なくもがきます。


「色々、嫌なこと思い出しちまうんだ。

 だから、頼むから――!」

「駄目ですよ。

 ちゃんと身体を治さないと、学校にも行けませんからね。

 ヒロ様はまだ、きちんと勉学に励まねばならないお年なのでしょう?」

「!」


 どうしたのでしょう。わたくしの言葉で、ヒロ様の横顔が明確に凍りつきました。

 人間界で言うところの、学校。幼き頃、父上やお師匠様がたから厳しい鍛錬を受ける日々だったわたくしにとっては、憧れの場所でもあったのですが。

 ヒロ様が湖に一人でいたことと、関係があるのでしょうか。


「い、いいんだって! やめろ!!」


 ヒロ様は無我夢中で暴れ出し、湯舟から出ようとします。

 その途端、浴槽の底のわたくしの触手に足を滑らせ、彼は頭からざんぶと突っ込んでしまいました。


「もう、ヒロ様。わたくしの触手から無理矢理逃れようったって、そう簡単には――

 あら?」


 ヒロ様が湯舟に落ちた拍子に、水兵服の裾に引っかかっていたわたくしの触手のせいで、服が胸まで大きくめくれあがってしまいました。

 いや、これは何という眼福――の、はずでしたが。


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