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第27話 触手令嬢、脱兎のごとく

「君は、何も悪くない」


 会長に力強くそう言われ。

 ヒロ様の大きな若草色の瞳が、またしても潤みます。

 溢れ出るものを慌ててごしごしと腕で拭きながら、いやいやをするように頭を振るヒロ様。

 そんな彼を諭すような会長の言葉は、わたくしの胸にも静かに響きわたりました。



「この状況で、正面から彼らと戦えというのは酷かも知れない。

 何より君の中に、悪いのは自分だという気持ちが残ってしまっている。

 だけど、そこだけは考え直してほしいんだ。

 理由はどうあれ、最初に手を挙げたのは彼らだよ」

「で、でも……レズンは……

 レズンはいつも、俺の為にって言ってくれた。

 弱い俺の為に……やってるんだって……」



 ヒロ様の声が震えています。

 あぁ。これは完全に、狭い世界の中で長期にわたり暴虐に晒されてきた人間の心理……

 何が正しくて何が悪いのか、ヒロ様自身、分からなくなってしまっていますね。

 身も心も傷つけられて悲鳴をあげているのに、自分が悪いという執拗な強迫観念に囚われてしまっている。



「違うよ、ヒロ君」

 そこで立ち上がったのは、サクヤさんでした。

「仮に、本当にレズン君が、ヒロ君の為にやっていることだとしても。

 ヒロ君にやったことは、絶対に許せることじゃない。

 貴方がされたことは全部、大人なら裁判を受けてもおかしくないことばかりだよ!?

 あの脅しだって……!」

「さ、サクヤ……

 お前、あのこと……!?」


 信じられないような目つきで、ヒロ様はサクヤさんを見つめます。


「ヒロ君、ごめんなさい。

 私、これ以上は耐えられなかった。

 だから会長にもルウさんにも、全部話したの。

 大丈夫。絶対口外しないって、会長は約束してくれたから」


 それに続くように、会長も力強く頷きました。


「今、君にはルウラリアさんも、サクヤさんも、僕もいる。

 君さえその気になれば、きっと、もっと力になってくれる存在は増えるはずだ。

 だから――前を向いて、進もう」



 あ。ヒロ様の目が一心に会長とサクヤさんを見つめています。

 いけません。ここはわたくしの存在も存分にアピールせねば。

 ついでに新しい制服の匂いも、存分に嗅いでおきましょう!


「ヒロ様、ヒロ様ぁ~!

 わたくしもちゃーんと、何があろうと永遠に貴方の味方ですよ!」

「わ、わ、わぁ!? る、ルウ!?」


 一瞬でしゅるしゅると、ヒロ様の手足を絡めとるわたくしの触手。

 あぁ、この新しい布地の感触。首筋からほのかに香る石鹸の香り。はためく袖の下からちらりと覗く脇――

 ひゃ、ひゃあぁあぁあ、もう、もう、たまりませんっ!!

 興奮のあまりそのまま、ヒロ様を触手で空中で抱きあげてしまいました。


「お、おいやめろって!

 俺が間違って電気ショックやっちまったらどーすんだよ!?」

「大丈夫です!

 その程度の術、耐えられないわたくしではありませんわ!!

 なんならどの程度の威力か、この身体で試してみてもいいのですよ? 

 ほらほら~、こんな風にされたら我慢できますか~?」

「あ、ちょ、ルウ、背中に入ってくるのやめろ、脇に触るなって、わ、そこもやめっ……

 わ、わーっ!!?」


 真っ赤になってジタバタ暴れるヒロ様。服が変わってもこのキュートさは変わりませんね。

 サクヤさんは勿論、さすがの会長もこんなわたくしたちを、ぽかんと見つめるばかり。

 ……って、そういえば。


「あの、ヒロ様。

 脱がれた水兵服はどうしました?」

「あ、あぁ……

 さすがにあれだけボロボロにされたらソフィが直すのも無理だろうし、捨てたけど?」

「き、きゃああぁああぁあぁああ~!!? な、なな、何ということを!!?」

「え、おい、ルウ!?

 落ちる、落ちるって!!」


 わたくしがそのままヒロ様を担ぎながら、光の速さで脱衣所に駆け込んだのは言うまでもありません。


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