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第1話 触手令嬢、追放される

 

 わたくしは高貴なる触手貴族の令嬢、ルウラリア・ド・エスリョナーラ。

 ご覧の通り、桜貝のようにきらきら輝く立派な触手を持つ、由緒正しきエスリョナーラ家の一人娘。先祖代々受け継がれた、強靭さと柔らかさとしなやかさを併せ持つ自慢の触手ですの。

 普段は身体の左右に5本ずつ、合計10本ほどしかない触手ですが、本気を出せば10倍ほどに増やすことも出来ますわ。

 特に顔の左右から垂れた、麗しき金色の触手は誇りです。毎朝きちんと手入れを欠かさず、縦ロールに仕上げるのが令嬢の嗜みというもの。

 エスリョナーラ家の一人娘としてこの世に生を受け、15年。

 決して恥ずかしくない人生、いや触生を送ってきたつもりでございます。



 しかし今、わたくし、父上からとんでもない宣言をされておりますの。

 何故ならば――



「ルウラリア・ド・エスリョナーラ!

 これよりお前を、危険思想の罪で追放する!!」



 いつもと変わらぬ晴れた朝のことでした。

 豪華絢爛なるダンスホールへ呼び出されたかと思うと、壇上から突然、父上から宣言されたのです。



「お待ちください父上!

 何故、このわたくしが危険思想など……!?」



 何ということでしょう――こ、こここのわたくしが、御家追放?

 ――しかし実は、心当たりがないわけではないのです。



「黙れぃ!

 触手の身でありながら、捕縛した人間を裸体にするどころか、衣服を溶かしも脱がしもせず!

 衣服を着せたまま何もせず、ただただその手でいつまでも弄ぶばかりなど、我ら触手族の風上にも置けぬ行為!!」



 壇上で怒り狂う父上の触手は既に50本を超え、そばに控える執事やメイドたちに今にも襲いかかってしまいそうです。父上の豪腕が唸りだせば、彼らの触手なぞ紙の如く吹き飛ばされてしまうでしょう。

 それでも――それでも、わたくしは言わねばなりません。

 父上に如何に言われようとも、この矜持だけは、曲げることは出来ません!



「何をおっしゃいます父上!

 今どき、いきなりマッパにする触手なぞありえませんわ!

 それに、何もしていないわけではありません! 優美に整えられた清らかな衣装を少しずつ引きちぎりその内側に侵入し、ほんの少しだけ柔肌を晒した瞬間に赤らむ表情こそが至高の……あぁっ……!!」



 そう――

 我らが触手族は長きにわたり、父上のような即時全裸派が多数を占めておりました。

 しかし世は移り変わるもの。わたくしたちの代では、いきなり全裸にするよりも、清潔な衣服を少しずつ剥ぎ取り、その身体をゆっくり味わい尽くす。所謂、着衣凌辱派の若者が増えてきたのは事実。

 え、どっちもドレスブレイクには違いないだろうって? いえいえ、全く違います!

 きちんと整えられた清潔な衣服が、鍛え抜かれた鎧が、わたくしたちの触手に引きちぎられ、汚され、破壊され、傷ついていく。その裂け目からほんのり覗く柔肌。そして、勇敢で逞しかった若き戦士たちの表情が恐怖に歪み、恥辱にうち震える。

 わたくしたちに絞めあげられ、ちぎれゆく衣服、壊れる装甲。裂ける肌、迸る血しぶき、砕ける骨の音……

 何と言っても、そこまでボロボロにされながら、それでも抗おうとする姿の美しいことといったら――!

 あぁ、考えただけで身体が火照ってまいりました。

 この熱く強き想い、何故父上にはご理解いただけないのでしょうか。



「えぇい、やかましい! この場で発情するヤツがあるか!!

 お前が若者たちにあらぬ思想を吹聴しておるせいで、我が一族は最近、草食触手だのナチュラルボーンリョナラーだの、いらぬ恥をかかされまくっておる!」

「前者はともかく、後者は触手として最上級の誉め言葉ではございませんか!

 父上、どうかお考え直しを!

 即物的な凌辱行為に走るよりも、捕縛対象をゆっくりとなぶりながら、その美しき姿を少しずつ破壊していく、その快楽を知れば父上もきっと――!」



 それでも父上は、最早わたくしの言葉なぞ聞こえておらぬようで。

 一方的に言い放たれてしまいました。


「ともかく、お前は追放だ! 

 一瞬で一気に脱がし、一糸まとわぬ生肌に触手を這わせる。スピード感が大事だと、幼き頃より何度も言っているであろう。

 触手といえど、命は無限ではないのだ。限りある生の中でも迅速に動けば、より多くの捕縛対象を虜に出来る。それこそ触手族の至上の喜びというもの!!

 考えを改めるまで、我がエスリョナーラ家の敷居をまたぐこと、許さぬ!!」


 スピード感――

 わたくしの一番嫌いな言葉ですわ。

 それに、そこまで多くの捕縛対象はわたくし、要りません。

 この方と決めた運命の存在。たった一人でもそのような、赤い糸で結ばれた存在にめぐり逢い、その方をわたくしの愛の触手で心ゆくまで包み込めれば――!

 それを思うとさらに身体は火照り、触手は父上と同じ数まで増殖し。

 激しい憤怒さえ湧きあがってまいりました。



「望むところですわ!

 父上のその凝り固まったお考えが改まるまで、わたくし、二度とこの家に戻るつもりはございません!」



 わたくしの身体は最早桜色ではなく、紅葉の如く真っ赤になってしまいました。

 でも、構いません。これ以上父上とお話しても、無意味です。

 わたくしがその場でぷいと背を向けると、執事やメイドたちの悲鳴が響きわたります。


「る、ルウラリア様!

 旦那様も、どうかお考え直しを……このままでは、お家が!!」

「というか、ルウラリア様に出ていかれてしまったら、私たちの仕事が!!」

「お、お待ちください~! 旦那様、お嬢様ぁ~~!!」


 一斉に触手で取りすがってくる執事やメイドたちですが、わたくしに敵う者がいるはずもなく。

 わたくしが怒りのあまりひと薙ぎした途端、彼らはみんな吹っ飛んでしまいました。

 うっかり暴れるとこうなってしまうのはいつものことです。これでも一応力はセーブしているので、死傷者は出ていないはず。

 ダンスホールにも隕石が落ちたかのような大穴が空いてしまいましたが、そんな惨状には目もくれず、父上はその場を後にしていきます。

 父上がそのつもりなら、わたくしだってそのつもり。

 根本的な考え方の相違は、たとえ家族であってもどうしようもないものですね。


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