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それは、また太陽が昇るかぎり  作者: みーなつむたり
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4、無理して頑張っていた息子

 

 中学2年生の秋。

 夏休みが終わって少しして、息子はお腹が痛いと学校を休んだ。


 母は「今日だけだからね」と釘を刺して仕事に出掛けた。


 仕事から帰ってきても、母は息子を気にすることなく夕飯の支度をして、夕飯ができると息子に声をかけた。

 すると息子はおずおずと部屋から出てきた。

 

 ぼそぼそご飯を食べる息子を、視界の片隅にも入れず、母は洗濯物を取り込んで、それをたたみ、風呂を洗って湯を溜める。


 その頃にはご飯を食べ終わった息子が食べた食器をシンクに重ねて置いていた。

 母はそれを洗っているうちに、息子は部屋に戻ってしまった。


 次の日の朝。

 息子を起こすと、またお腹が痛いと言う。


「はあ?昨日夕飯食べたじゃない。お腹痛いならご飯食べられないでしょ!」


 怒った口調の母に、


「でもマジで腹が痛い」


 と主張を変えない息子。


 母は時計を見やり、このままでは仕事に間に合わないと悟ると、


「今日だけだからね!」


 と昨日より強めに念を押した。



 ーー愚かな母だと、今でも思う。

 母は、仕事の支度をしながら、当時を思い出して深い溜め息を吐いた。ーー



 息子はイジメにあっていた。


 それを母が知ったのは、息子がお腹が痛いと初めて休んだ日から、一週間後のことだった。


 どんくさく、勉強も苦手な息子を、生徒の一人は面白がって小突き、別の一人は強めに叩き、また別の一人は蹴りつけて、ウザイと罵った。

 女の子達は廊下で息子とすれ違ってはキモイと笑った。


 狭い檻のような建物の中で、地獄のような毎日を、息子はずっと歯を食い縛ってたった一人、耐えていた。

 

 しかし、耐えきれなくなって、学校へ行かれなくなった。


 ベッドの上で布団にくるまり、籠る声で泣きながら、息子は死にたいと言った。


 立ち尽くし、母は言葉を失った。

 次の瞬間には、沸騰するほどの怒りに襲われた。


 母は怒りをぶつけるように学校に電話をした。

 文句の限りを言ってやるつもりで、しかし、何一つ上手く伝えることができなかった。


 母はただ震える声で、


「今、死んでない息子を誉めてやってくれませんか」

 

 とだけ告げて電話を置いた。


 気づいてやれなかったのは、母も同じ。


 学校の中のことは、母にはわからないが、それは言い訳であることも、母は知っていた。


 母は声を殺して泣いた。



 その翌日、息子は制服を着て玄関に立っていた。


 母は慌ててその背を追いかけ、


「おはよう!いってらっしゃい!」


 といつもより大きな声で言った。

 

「おはよう。行ってきます。」


 息子はぶっきらぼうに答えると、玄関の扉を開けた。

 

 

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