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3.領主一家の呪い:その3

「それで、セドリックさん。コタオの村で鹿狩りの案内をした猟師ってのは誰なんです?」


 サイはセドリックに詳細を聞き取る。


「たしか…フレドリクとか言う若者でしたか…」


「フレドリク…ヨハンさんの娘さんと付き合っているとか言った青年か…」


 サイは記憶をたどると、急いで立ち上がり領主の館を後にしようとする。


「なんか手がかりでも掴めたんか?」


「分からない。でも現地に行ってみるしかない」


「クリフォード様、何か分かったのですか?」


 領主の館から出ようとするサイに、奥方様が追いすがって尋ねてくる。


「分かりませんが、気になる事くらいは…今から行ってみるつもりです」


「どうか…どうか、よろしくお願いいたします」


「…間に合うかは分かりませんよ」


 だが、状況は一歩遅かったようだ。サイが館から出ると迫る夕闇の影から魔物が溢れだして領主の館にノロノロと歩み寄ってくる。


「ヒィッ!」


 奥方様が悲鳴をあげるが、こんなものは何の力も持たない只の影にすぎない。サイが歩みを進めると道を開ける。


「ちいっと、待ちや。依頼主を放っていこうちゅうんか?」


「まだ実害は無いよ。それよりも急いだ方が良いと思うがね」


「それにしたって、不気味なんは変わらんやろ。なんとかしいや」


 ニーナの自身も気味悪そうだ。


「仕方ねぇなぁ」


 サイは腰に下げた革袋に手を突っ込むと爪の先ほどの宝石を取り出す。


「光の精霊よ、いるかい?」


 目の前に小さく弱い光の塊が浮かび上がり、声を発する。


『なんだい?もう眠る時間だよ。サイ』


「この屋敷をしばらく魔物から護って欲しいんだが出来るかい?」


『分かったよ。報酬しだいだね』


「この魔石でどうだ?」


『ん、分かった2,3日は護ってあげるよ』


「頼んだ」


 サイはニーナを振り返る。


「精霊に守護を頼んだ、2,3日は大丈夫だ。俺は行くぞ」


「あんじょう頼んだで」


 今度こそ、サイはコタオの村へ馬を借りて走り出した。


・・・・・・・・・・


 夜通し走って着いた、コタオの村は何処か様子がおかしかった。あんなにイキイキと実っていた麦が妙に萎れているし、家畜も怯えている。村全体から活気が失われて、どんよりとした空気が満ち、空も暗雲に覆われている。


「もう、影響が出だしたか…」


 流石に異変に気付いたのか、村人がザワついて広場に集まっている。


「フレドリクさんはいますか!」


 集まっている村人に声をかけると、人垣をかき分けて見覚えのある青年が姿を現わす。


「フレドリクは俺だが…あんたは確かヨハンさんの所にいた…」


「サイです。貴方に聞きたい事があります、そうですね2ヶ月程前でしょうか御領主を狩りに案内しましたのは貴方ですね?」


「そうだが…」


「狩りに案内した森に俺を連れて行ってもらえますか?」


「それは構わないが、森の外までで良いか?なんだか今の森は気味が悪い」


 それはそうだろうな。サイは内心そう思ったがお首にも出さずに。


「それで構いません。お願いします」


「…ついて来てくれ」


 フレドリクの案内で森まで近づく。


「ここまでで良いか?」


「十分です」


 確かに森が昼間だというのに、どこか陰鬱な陰をはらんでいた。


 サイはそんな不気味な森に頓着せずに入って行く。


「こっちかな?」


 むしろ、不気味な陰に向かうように歩を進めると、やがて湖に突きあたる。


「ここで何があった…」


 湖には確かに暗い陰が落ちていた。


「おしゃべりな木の精霊よ。教えておくれ」


『何だい、若いの?』


 傍に木から緑色の小人が姿を現わす。


「少し前にこの湖で、何かがあったはずだが知って居るかい?」


『知っているとも、教えてやろう』


 緑の小人はサイの額に自分の額をくっつける。すると、サイに木の精霊が見た光景が伝わってくる。


ーーーーーーーーーー


 湖で水浴びをしていた娘を領主と思われる男が鹿狩りの銃で脅している。やがて男は娘に覆いかぶさり、乱暴を働く。


『助けて!お父さん!お母さん!』


『助けて!フレドリク!』


 娘が悲鳴を上げても男は構わず、むしろ愉悦を深くする。


 やがて男は立ち去り、娘は湖の深みに身を投げる


ーーーーーーーーーー


「惨い事を…」


『教えたぞ、報酬をおくれ』


「分かった。これで良いかい?」


 腰の革袋から小粒の魔石を取り出して、緑の小人に渡すと小人は溶けるように消えていく。


・・・・・・・・・・


「サイのヤツ上手くやっとるんやろか?」


 領都を覆う陰はますます濃くなり、昼間でもどこか薄暗い空気が漂う。


「フランツ!、ああフランツが…」


「あかん、持たんかったか…」


 領主の息子は全身に呪いが回り、息を引き取る。その悲嘆に奥方様は卒倒してしまう。


「奥方様!」


 使用人が駆け寄りすかさず支えると、休ませるためだろう。別の部屋に連れて行った。


 物陰から魔物が這い出し、領都はまるで人の住む世界から変貌してしまったようだ。


「オオォォォ」


 どこからともなく、魔物の咆哮も響く。


「サイ、依頼人の方が先に亡くなってまうで…」


・・・・・・・・・・


 サイはヨハンさんの家を訪ねていた。がっちりした作りに見えた家は今にも崩れてしまいそうな様相に変貌してしまっている。


「ヨハンさん、サイです。入れてもらっても良いですか?」


「いまは立て込んでるだ。後にしてくれ」


「エレーナさんの件…でもですか?」


「…」


 ドアが内側から開けられて、キィッと頼りない音を立てる。


「誰から聞いた?」


「誰からも、知っているのは俺だけです」


「助けられるか?」


「分かりません。見てみない事には…」


「…入ってくれ」


 サイはヨハンに案内されて家の中へ足を踏み入れる。家の中は歪み、一種異界の様相を呈していた。


「あんた…」


 ハンナが声をかけるがヨハンは奥の部屋へサイを導く。


「頼む…助けてやってくれ」


「どんな形になるかは分かりませんが…」


 サイは部屋の中へ入って行く。


・・・・・・・・・・


「奥方様!奥方様!」


 夜になり領主の館では、奥方様が急速に呪いに蝕まれ生気を失っていく。


 出かけにサイが張っていった結界で外からの魔物は防いでいたが、呪いは確実に奥方様を蝕んていた。


「奥方様…」


 使用人たちが右往左往するなか、呪い師が奥方様の死亡を確認する。


「あかんかったか…」


 ニーナは呟き、館の騒ぎを後にしてコタオの村へ向かった。

読んでいただきまして、ありがとうございました。

引き続き読んでいただければ幸いです。


今回の作品は次回作の序章になります。前作と作風を変えてみましたがいかがでしょうか?

現在、続きを書いております。早ければ10月中旬過ぎには投稿したいと考えです。

お待ちいただければさいわいです

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