11.家族の肖像画:その3
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「ええい、父上の裁可が必要だとばかり!なぜだ!今まで私の差配でこの家を動かしていたではないか!それを突然に!!」
レオーネが激昂して書類を辺りに放り投げている。
「レオーネ様、落ち着かれなさい」
「…失礼した、クリフォード殿。お見苦しい所をお見せした」
「構いません。どうされたのですか?」
「今まで、当家に仕える官吏や使用人は私が取り仕切っていたのに、最近になって急に父上の裁可が必要と言い出してな。父上は伏せっているし兄上は家の事には興味が無い。私がこの伯爵家を取り仕切っていたというのに!」
苛立ってそう言うレオーネの周囲に黒い影がいる事が、サイには見えていた。サイはそっとその影を掌に包んで懐にしまう。
「そう言えば、兄上にあったようだが」
「はい。お会いしました」
「兄上は何か言っていたか?」
「ジョスエ様は伯爵家を継ぐことに、あまり興味はないようですね。レオーネ様が継げば安泰だとおっしゃっていました」
「そうだろう。兄上は絵を描くことだけが楽しみの道楽者だ」
「……」
「私はまた父上に裁可を仰ぎにいかねばならないが、クリフォード殿はどうする?」
「私は少々やらねばならない事がありますので…」
「そうか…では行ってくる」
「行ってらっしゃいませ…」
レオーネを見送ると、サイは自分の部屋に飛び込み懐から黒い影を掴みだす。
【ナニスルンダ!レオーネヲマモラナキャ!】
(何をしているのか分っているのか堕精霊)
【レオーネヲマモラナキャ!レオーネガカワイソウ】
(不思議な子供か…レオーネ様は無意識か子供の頃から精霊に好かれていたのだろうな…)
【マモラナキャ!マモラナキャ!】
(だが、精霊としての意識も怪しくなっている。なにが有った…)
【レオーネトハナレタクナイ!】
(賭けてみるしか無いか…闇の聖霊よいるかい?)
『呼んだか?サイ』
(この堕精霊の意識を取り戻すことはできるか?)
『ここまで崩壊していると難しいな、取り戻せても短い時間だろう』
(その後、この堕精霊はどうなる?)
『意識を無くして、ただの力に戻ってしまうだろう。だが、その方が堕精霊にとっても幸せかもしれん』
(幸せ…か)
『精霊も望んで堕ちたのでは無いだろうよ。いっそ原初の力に取り込まれていつか生まれ変わった方が幸せさ。自分ならそう思うね』
(分かった、やってくれ)
『承知した…』
【レオーネヲ…】
『…レオーネを』
(意識を取り戻したかい?)
『僕は、いったい…』
(君はレオーネに憑いていた精霊だね)
『そうだよ、子供のころからレオーネを守ってきた』
(でも君は堕ちてしまった。覚えているかい)
『そうだ…レオーネが嫉妬を……』
サイの目の前で堕精霊が弾けて光の粒になって淡雪のように消え去る。その瞬間、堕精霊が見てきたものがサイの頭の中に流れ込んでくる。
(レオーネの過去にそんな事が…)
『限界だったようだなサイ』
(ああ、レオーネの昏い感情に引きずられたんだろうな)
『そろそろ報酬を良いか?』
(そうだったな。ありがとう)
サイは腰の革袋から小さな魔石を精霊に渡す。
『用事があったらまた呼べよ』
闇の精霊も姿を消してしまった。
「どうにも厄介ごとに首を突っ込んだようだな」
サイは深いため息をついた。
・・・・・・・・・・
「なあ、ニーナ。レオーネの事を考えれば、秘密にしておいた方が良いんだろうか?」
レオーネの奥様に、新商品を売り込みにコルツァーノ伯爵家に来ていたニーナにサイは相談を持ちかける。
「……」
「俺としては、周囲の人間の思考を誘導していたなんて、レオーネ本人にだけ教えた方が良い気がするんだが、それでレオーネが考え方を改めてくれれば良いんじゃないかとな…」
サイは伯爵家の家族の事、跡継ぎの事で揉め事に成っていることを相談していた。
「あんた、何様のつもりやねん」
「何って…」
「あんたがアレコレ考えるより、そんなもんは家族みんなでバーンてぶちまけてしもうた方が後腐れが無いんよ」
「そんなもんか?」
「あんな、サイ。どんなに悪い事をしても、最後まで見放さんと叱ってくれるんは家族だけや。悩んどる家族がおったら、頼って欲しいもんや。頼ってもらえんで延々目の前で悩まれんのがどんなにツラいか、あんたには分らんか?」
「……」
「みんなに話してやりい、案外すんなり分かり合えるかもしれんで」
「ありがとう、ニーナ」
「アドバイス料はツケとくさかい。はよ返すんやで」
「そこはサービスしとけよ…」
「アホいいな。ちゃんと取り立てるからな、忘れんとき」
そう言って、ニーナは返ってしまった。
「さて、俺は俺に出来ることをしますかね…」
そうして、サイは使用人にコルツァーノ家みんなを集めてもらうように頼んだ。
・・・・・・・・・・
「クリフォード殿、皆を集めて何を話そうというのかね」
年老いたとはいえ、御当主のアルフレードが威厳のある声でサイを促す。
「私がこの伯爵家で起きている事…いえ起きて来たことで分かった事を皆さんにも聞いてもらいたいと思って、お集まりいただきました」
「そうか、伺おう」
「レオーネ様。貴方は子供の頃から精霊に好かれる体質でした。貴方に憑いていた精霊はレオーネ様を護り、周囲の人間に貴方が受け入れられるよう僅かながらに力を使っていました」
「では周囲の大人が何くれとレオーネの世話を焼いていたのは…」
「精霊の影響です。精霊自身が教えてくれました」
「…では、周囲の人間が認めてくれていたのは、俺自身の力では無かったのか…」
レオーネはショックを受けたように項垂れる。
「いいえ、確かに精霊が好意を抱くように誘導はしていましたが、ここ数年伯爵家を切り盛りしていたのは確かにレオーネ様です。それは皆が認めている所です」
「だが、最近になって官吏も父上に裁可を求めるようになって、俺の事を信用していないのだと…」
「それについては、お詫びしなければなりません。この家に漂う不審な様子に私が精霊の力を制限したからです」
「ッ!なぜそんなことを!」
レオーネが詰め寄る。
「それは、精霊が堕ちてしまって本来の姿を無くしてしまっていたからです」
「堕ちる?」
「そうです。精霊はレオーネ様を気遣うあまり、貴方の昏い感情にも影響されてしまった」
「昏い感情…」
「レオーネ様、貴方は兄上、ジョスエ様に嫉妬なさっていた。そうではありませんか?」
「そ、それは…」
「競争心はやがて嫉妬に、そして憎しみにすり替わっていった…」
「や…止めてくれ…」
「御兄弟の子供の頃をようすを伺いました。仲の良い兄弟だったと」
「そうだね。レオーネ」
「兄さん…」
「それが御当主が後継者について口にされるようになってから変わっていったと」
「そうなのか…レオーネ…」
「父上…」
「もう一度、ご家族で良く話し合われた方が良いと、私は思います」
アルフレードもジョスエもレオーネも、それぞれの様子を窺って話そうとしない。
「きっと皆さんが納得できる結論を導き出される事を願います」
サイはそう言って、その場を後にした。
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