No.0009 やっと見せ場がやってきた
かくして、俺はこの神域に居る事情をアテナに説明したのだが……
「あっははははははははははは!!!」
深紅の長髪を上下に揺らし、腹を抱えて大笑いされてしまった。
ってか、どこに大爆笑する要素があったんだろ?
「ははは、いやぁすまない。ミナらしいと思ってつい、な……ふふっ」
「らしいって、こっちはいい迷惑なんだけど」
「ミナは不器用な性格でな、思い込んだら視野が狭くなるタイプなんだよ。理由は皆無だが、君の言うミナの行動は腑に落ちるものがあったな」
なるほど、というか普通に納得してしまった。
どれだけ考えても、腑に落ちない部分は多いけどな。
それよりも……
「それじゃ、俺の事は信用して貰えたと思っても?」
俺はアテナに頼る必要がある。
ミナーヴァ以外の知り合いなんていない。この人しか頼るアテがないんだ。
「そうだな、君の言葉に虚偽は感じられなかった。信用はしてやる」
「そ、それじゃあ!」
「だが、ミナから話を聞くまでは態度保留だ。すまんな」
「……そう、ですか」
一方の話を聞いて納得はしても、もう一方の話を聞くまでは中立を保つ。
アテナの言う事は正論だ。むしろ初見の俺の言葉を信じて、友達であろうミナーヴァに対しても中立を貫くというのは凄いとさえ思う。だからこそ反論などしようがない。
でも、ミナーヴァからの逃亡劇はこれで終わりだな。
次は警戒されるから逃げられない気がする……あ~ぁ。
「そんな泣きそうな顔するな蒼翔君。こうなった以上、私がミナとの間をしっかり取り持ってやる。少なくとも悪いようにはしないから安心するがいい」
「ありがとう、ございます……」
最初は残念な神かと思ったけど、これこそ神だよ。
ミナーヴァとはえらい違いだ。この神だったらもしかすれば俺の頼みを……
「礼を言われるような事ではないさ。ミナには事情を説明させる必要があるし、君も理不尽に攫われた事に対して、それを問い正す権利がある。場合によっては神として然るべき措置をせねばいけないからな」
「そこまで考えて……本当にありがとう。このお礼は必ず……」
残念な神様なんて思ってごめんなさい!!
ドアを無回転で蹴り飛ばした事を差し引いても、これこそが真の神だ!!
「ところで……だ。話を聞く限り、ミナはまだ戻ってきそうもない」
「え? あ……はぃ、多分まだ探し回ってるんじゃないかと」
……ん?
急に話を変えてきた。
なんだろ、アテナの様子も少し変な気がする。
「私としてもだな、こうして拘束したままの君を見てるのは面白くはない。君も縛られたまま、いつ戻るかわからないミナを待つのは辛いだろう?」
「ま、まぁ……身動きできないのはさすがにちょっと」
「そこでだ。先程話していた『揉みほぐし』とやらを見せてはくれまいか?」
「揉みほぐしを? その、俺としては全然いいですけど……その理由は?」
なんだこれ。
まさかここでこういう流れになるとは思わなかったんだが?
「いやな、ミナが専属にしたがる程の技術が少し気になってだな……その、こういう事を言うのは恥ずかしいのだが……あ、足が辛くてな」
突然顔を赤く染めながら、足の不調を訴えてきたんだけど。
……なんか可愛いな。
アテナが履いてるのは、膝下まである深紅色のロングブーツだ。
まだ新品なのか、普段からの手入れが行き渡ってるのか、艶光を放っている。
まぁ時間はまだありそうだし、まずは話を聞くか。
「そのブーツは新品ですか?」
「あぁ、まだ作りたてでな。足に馴染んでないのかもしれん」
「足を酷使する事は?」
「酷使というか、動き回る事が多いな」
「足以外に何処か不調を感じる事は?」
「ない」
……明らかに疲れじゃん。
身体を揉むというよりは、足裏から脹脛辺りを攻めてみるか。
「だったら、足裏から脹脛にかけてマッサージしてみましょうか」
「『まっさーじ』? それは『揉みほぐし』と同じなのか?」
「まぁ、そんなとこ。実際にはやってみないとわからないけど……」
「わかった。じゃあ頼む」
ほぇ!? そんなあっさりでいいのか!?
曲がりなりにも俺ぁ不審者のはずなんだけど……チョロすぎないか?
「そんな簡単に信用しちゃっていいの? これでも不審者だと思うけど」
「大丈夫だ。これでも私は武力特化した神だからな。何とでもなる」
「あぁ~~~~……納得しました」
そうだよな。
ドア一蹴りで吹き飛ばす程の脚力の持ち主だ。
武力特化って事は、脱げば全身筋肉隆々に違いない、うん。マジ怖い。
そんな神に逆らおうなんて考えもしないっつーの。
自殺行為なんてもんじゃない。自殺そのものだわ。
「それじゃ拘束を解く。変な事考えるなよ?」
そういうと、俺の傍に近寄ってきた。
両脚、そして両手を縛っていたロープを軽々と指で千切った。
……ん? 千切った!!? 軽々と!!!?
「……それ見ただけでも抵抗する気なんて起きないわ……」
「さてと、それじゃその『まっさーじ』には何が必要だ?」
「施術台は……ベッドでいいか。枕もあるし、あとはタオルが数枚。お湯はお風呂があるから大丈夫そうかな。あとはオイルとかクリームなんかあると有難いけど……」
「それなら多分大丈夫だろう。ミナは美容には拘りを持っていたようだからな」
アテナが浴槽とシャワーのある所へと移動すると、そこに置かれていた小さな小瓶から大きな容器までポイポイと放り投げてきた。
「ちょ、危ない! 危ないからちょっと待って!?」
俺は次々と飛んでくる小物を落とさないように必死で受け取る。
全部で10個くらい飛んできたんだけど!?
むしろ全部落とさずに受け止めた俺もちょっと凄くね?
っていうかアテナって色々と扱いが雑な気がするんだけど!?
「君、なかなか悪くない反応速度だ。鍛えればモノになりそうだな」
「嫌な予感しかしないので、遠慮しておきます……」
絶対に弟子入りなんてしねぇよ。間違いなく死ぬっての。
ってかさ、10個の瓶やら容器やら、どれも何も表記してないんだけど。
仕方ないから、蓋を開けてひとつひとつ確かめてみる。
…………全然わっかんねぇ。
仕方ないから、白いクリームっっぽい物と、白いオイルっぽい物を選び出した。
まさかとは思っていたが、部屋同様に液体まで全部白いとはな。
まぁ種類や色はいいや。どのみち最後には洗い流すから大丈夫だろう。
…………多分。
「さて……それではお客様、そちらのベッドにお座りください」
俺はアテナに対してサロン同様の接客でベッドへと誘った。
この方が気持ちも仕事モードに切り替えられるし。
「ん!? あ、う、うむ。それではよろしく頼む」
何かちょっと照れた様子で、いそいそとベッドへと腰掛けるアテナ。
俺の様子が急変した事で動揺でもしたのだろうか?
まぁいっか。
俺もまさかこんな流れでマッサージする事になるとは思わなかったしな。
とはいえ、手を抜いてするつもりはない。
むしろ仲裁してくれる彼女の為に、感謝をもって施術するとしよう。
「それでは、これより始めさせていただきます」
久々の施術だ、腕がなるぜ!!!
ようやくタイトルらしいところまで漕ぎつけました(-_-;)
ここまでダラダラと申し訳ありません、ホントに。
次回は蒼翔の腕の見せ所です。
花粉症発症で箱ティッシュ不足に悩む沖田久遠でした_(:3」∠)_