No.0004 夢見すぎとか言うなよ?
『……次のニュースです。先日、M市のリラクゼーションサロン店で発生した売上金窃盗事件の続報です。警察の発表によりますと、事件当日の深夜に勤務していた従業員の男性(28)が行方不明となっていますが、店舗内で争いがあった形跡がない事から、直接事件に関与しているものとして、現在も行方を追っています。また……』
「ミナーヴァ、もういい。消してくれ」
「あら、よろしいのですか? 続きがまだあるみたいですけど?」
「観続けたところで、俺の冤罪は晴れないだろ」
俺は地方局のニュースで、現在のお店の状況を確認した。
殺人事件じゃないから全国区で流れるほどの事件じゃないからな。
何? どうやって確認したのかって?
それはミナーヴァがまた胸の谷間から取り出したコミック本サイズの鏡だ。
どういう仕組みなのか意味わからん……
まぁとにかく、鏡の名前は『照遠鏡』というらしい。
本人曰く、所持者が願うと、見たいものが何でも見れる神具のひとつだとか。
但し1日に1回が限度で、見れるのは現在だけ。過去や未来は見れない。
リュックに詰め込まれたレジ金を見て絶望に打ちひしがれた俺の様子を見て、居た堪れなくなったミナーヴァが気を遣って出したらしいけど……もう今更手遅れだっての。そもそも、こうなった原因作ったのはミナーヴァだろうに。
「あら、私は良かれと思ってした事ですのに……」
「絶対嘘だ! わざと俺の退路を断っただろ!! それと心読むな!!」
ミナーヴァは絶対に神なんかじゃねぇ。ラノベでいう駄女神ってやつだ。
……あれ? どっちも神か。ってそんな事はどうでもいい。
「駄女神なんて失礼な……過ぎた事を悔やんでいても何も始まりませんわ」
もう、ホント勘弁してくれよ……って、ちょっと待て。
これは夢じゃないのか?
常識的に考えて、神だとか心を読むだとか胸の谷間からリュックや鏡出すとか、絶対にありえない。
そうだ、そうだよ! きっとまた寝れば、この夢から覚めるんだ!!
そうとわかれば早速寝よう!!
早くこんな悪夢からおさらばするのだ!!!
「という事でおやすみなさい駄女神様。俺は現実に帰りますね」
「もう……お好きになさい。目が覚めたらちゃんと現実を直視するのよ?」
さぁ、寝よ寝よ。
*****
「ん……ふあぁ……っ! ここは……俺の部屋か?」
悪夢から目を覚ました俺は、ゆっくりと瞼を開ける。
そこは真っ暗。きっと深夜なんだろう。
「ほれみろ、やっぱり夢だったんだ……ラノベの読み過ぎだな」
ミナーヴァはまさに理想の女性だった。肉体的な意味では。
しかし仕事中に拉致られて冤罪ふっかけられるとか訳わからん。
「よし、起きて顔洗お。もうあんな夢は懲り懲りだ」
そして身体を起こそうとした、その時。
どむんっ
「あぁん♪」
……………………ほぅ。
夢にもデジャヴってあるんだな。
よし、もう一度寝るとしよう。
「いい加減現実を直視しなさい神代蒼翔!」
暗闇だと思われた双丘が、俺の顔面を覆いつくした。
これはこれで気持ちいいんだけど…………
「ほふぇはふぉんふぁふぇんふぃふふぃとへふぁいほ!!」
俺は窒息死の覚悟で抵抗したが、結果的に虚しいだけで徒労に終わった。
「おはよう♪ 現実の世界へようこそ☆」
「ようこそ☆ じゃねぇよ……マジでこれ現実なのか」
「これが現実よ。寝る前にも言ったけど、ちゃんと直視しなさいね?」
ミナーヴァの双丘から逃れた俺の視界に映ったのは、寝る前と同じ真っ白な空間。……いや、ひとつだけ違う。ミナーヴァの髪色が変わってる。綺麗な黒髪だったのに、今は透き通るような白……いや銀白色だ。
「黒くしてたのは、貴方の住む世界に紛れ込む為の偽装よ。これが本当の髪色。綺麗でしょ?」
確かに綺麗だ。綺麗なんだが、口に出して言いたくない。
「若いのに意固地ね。でもそんな貴方も私は好きよ?」
「だから心を読むなっての。それに俺は好きじゃないし」
「それは残念ね、私の身体、好きなように揉めるのに……」
「魅力的なお誘いどうも。だが断る」
「あら、どうして? こんなにも恋焦がれてるのに」
ミナーヴァが俺の右手を取ると、それを胸の谷間に押し付けた。
右手首が双丘に挟まれた!! しかも気持ちいいよ畜生!!!
だが俺は冷静だ。ここに来たばかりの時の俺とは違う。
「今の俺に色仕掛けは効かないからな。そもそも心拍数が普通……って」
あれ? そういや神も人間と肉体構造は一緒なのかな?
「貴方が思った通り、肉体構造は同じよ。神も人もね」
「へぇ、同じ……か」
ちょっとピンとくるものがあった。
だが今の状況で考え事は駄目だ。また思考が読まれるからな。
だから、ここはひとつ……
「なぁ、ミナーヴァ。少しひとりにしてくれないか?」
「どうして? 私がここにいたら駄目なの?」
「駄目に決まってるだろ! お前がいると考え事もできないっての!」
「わかったわよ。今の状況をちゃんと理解して貰う為にも時間は必要でしょうし。あ、でも神域から逃げようなんて思わないでね。一介の人間が出られるような場所じゃないわよ?」
「逃亡なんて考えてねぇよ。とにかく、さっさと出てけ。シッシッ」
「本当に扱い酷いわね……戻ったら覚えてらっしゃい」
こうしてミナーヴァは渋々といった様子で、部屋から出て行った。
もしかして少し読まれたかな?
「さてと……どうしたもんかな」
まずは状況確認だ。
俺は今、内装が全て白色というミナーヴァの自宅にいる。
そしてこの場所は神域という神の住む世界で、地球ではない。
だがあくまでミナーヴァ情報だ。自分の目で確認するまで鵜呑みにはしない。
まぁ四●元ポケットのような胸の谷間、さらに映像が映し出された照遠鏡。
あんだけ常識の範疇を超えた物が存在するのだから、嘘ではない気はするが。
問題は、どうして俺にそこまで固執するのか。
技術面・知識・経験、どれをとっても俺なんてまだ駆け出しもいいところだ。
なら他に理由が? いや、これは当人から聞かないとわかるわけもない。
じゃあそれをどう聞き出すか……そこで俺が彼女から聞いた言葉だ。
『肉体構造は同じよ。神も人もね』
実際、ミナーヴァに俺の技術が通用してたみたいだから嘘じゃないだろう。
だから、これしかないと思ったわけだ。
今の俺に出来る事……唯一の武器といえば、知識を詰め込んだ『頭』、多くの人の不調を改善してきた『経験』、そしてそれを可能にしてきたこの『手』だ。
これしかないんだから、最大限に有効活用しない手はない。
あとは……施術しながらいろいろと情報を聞き出すのが手っ取り早い。
せめて彼女が常識の通じる神様だったら良かったのにな。
見た目はモノ好みなんだけど……どうも猫被ってるような気がするんだよ。
だから専属セラピストはお断りの方向で。
まぁ、この先の自分の可能性を広げる為に、いっちょやってみようじゃねぇか!
*****
コンコン。カチャ。
「蒼翔、そろそろ大丈夫かしら?」
暫く……時間にして30分くらいだろうか、ミナーヴァが戻ってきた。
「いきなり呼び捨てかよ! ったく……まぁ気持ちは整理できたと思う」
「理解の早い子は私は好きよ♪」
「呼び捨てはスルーかよ……まぁいいや。ところでミナーヴァ」
「なんですか? もしかして専属セラピストの件……?」
「当たらずとも遠からず、だな。って心を読まないんだな」
時間が経過してミナーヴァも落ち着いたのかな?
てっきり読んでくると思って、あまり思考を巡らさなかったんだけど。
「読心術は私の固有技能だけど、使い続けると身体に負担が掛かるの。だから必要以上に使わない事にしてるのよ。それに、蒼翔の心証にもよろしくないでしょうし」
「心証ならとっくに底辺まで落ちてるわ!」
「そう……でしたら、それを挽回する機会をいただけるかしら?」
よしきた。ミナーヴァとの舌戦で初めて優位に立てたな。
っていうか、心証悪くしてる自覚無かったのかこの駄女神は……
「そうだな。今、読心術を使い続けると、身体に負担が掛かるっていったよな」
「えぇ。倦怠感というか、気持ちが沈むというか、とにかく怠くて辛いわね」
「だったらその倦怠感、俺が取り除いてやるよ」
「本当!? 凄く嬉しいわ!!」
胸元で両手を祈るように合わせながら、もの凄く目を輝かせて喜んでるよ。
これだけ見る分には、心臓が一瞬跳ねるくらい綺麗なんだけどなぁ……
だが本性は絶対に違う。猫被りの駄女神なんて願い下げだ。
だから、ここからが勝負だ。
「喜んでるところで悪いけど、タダで施術するつもりはない。ミナーヴァが俺の心証を挽回する為に、これから提示する条件を呑んでもらう」
「条件? 私が出来る範囲内であれば、それくらいお安い御用よ」
よし!! うまくいった!!
難しい駆け引きよか、やっぱシンプルに攻めるが一番だ。
「じゃあ、まずひとつ。この神域の情報を教えて欲しい、それともうひとつ」
「あら、条件はふたつなの? なかなか強かなのね」
「こっちは無理矢理拉致られてんだ。それくらい許容範囲だろ」
「それを言われると……わかりましたわ。それで、もうひとつとは?」
ファンタジー系のラノベや漫画の読み過ぎとか言うなよ?
こちとら真剣に考えた結果だ。
ミナーヴァが大丈夫だと言えば、この先はきっとうまくいくはず。
「俺に固有技能を与えて欲しい」
さぁどう出る?
時間かかりましたが、4話目の投稿になります。
ここから、題材らしい内容へと進んでいくと思います。
また個人的な暴走で脱線しなければ、ですけど。
更新ペースは週に2~3話ずつ頑張って投稿したいと思います。
続きが気になる方は、是非ブクマしていただけると嬉しいですm(__)m
以上、ムチウチ中の沖田久遠でした_(:3」∠)_