No.0001 黒髪美女と甘い香り
俺の名は神代蒼翔。身長175cm、体重65kgの28歳独身。
外見は黒髪のショートレイヤー、顔は……中の上? 悪くはないと思うが、所詮は自己評価だからあまり参考にしない方がいいだろう。
家族構成は、俺と8歳年下の妹の2人だけ。両親は3年ほど前に不慮の事故に遭い他界。妹は遠く離れた大学に通う為に、地元を離れ単身アパート暮らしをしているらしい。
昔は甘えん坊だった妹だが、両親を失ってからは自立心が強くなったのか、一緒にいる事がほぼ無くなった。お互い不干渉になり、気がつけば大学に受かり、家から居なくなっていた。唯一、時折更新されるSNSの情報によって近況を知る事ができた。だかららしいという言い回しになる。
ちなみに俺は家族が過ごしたアパートでそのまま一人暮らしだ。
仕事は、整体医院とリラクゼーションサロンの掛け持ちだ。
別に貧乏じゃない。両親が残したお金だってある。単純に、両親を失ったという現実から逃れたい一心で、空いた時間にリラクゼーション業を始めたんだ。
っと、つまらん話は気分が悪くなるから止めておこう。
まぁ結果的に知識と経験を多く積む機会を得た事によって、自信を持って整体もリラクゼーションもこなせるようになった。寧ろ直接喜んで貰える事に幸せを感じている。
身体の不調を診る。そして原因を見極めて、治療もしくは改善する。
医院の患者もサロンのお客も喜んでくれるし、常連がつけば稼ぎにも繋がる。
まさに良い事尽くし。だから俺にとってこれこそが天職だと断言できる。
マジでスバラシイ。
これで彼女でも出来ればいいんだけどな。如何せん仕事の合間といえば、ネットに転がっている小説や仕事に役立つ情報探しばかりで、出会いに関しては全く縁がない。
ネットが普及したこの時代じゃ図書館にも行かないから、本棚の高い所から本を取り出そうとしている女性を見かねて後ろから優しく手を差し伸べる……なんてイベントも発生しない。
……何? 接客業だから出会いはあるだろうって?
それとこれとは話は別だ。うっかり勘違いしてセクハラとか言われたらどうすんだよ? それこそ俺は社会的に抹殺されるわ! 決してヘタレではない!
……ごほん。
まぁ人生の伴侶なんて、いずれどうにかなるさ。多分。
さて、俺の自己紹介はここまでにしておこうや。
細かい事はいずれ話す機会があった時に話してやろう。
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さてさて。
実は今、リラクゼーションサロンで女性客を施術してる最中だ。
時間は深夜2時。他のスタッフはすでに帰宅してしまっている。
だから今この空間にいるのは、俺と女性客のふたりきりだ。
しかもこのお客さん、艶やかな黒色のストレートヘアーで、すげぇ凛々しい顔立ちでさ、めっちゃスレンダーの美人なんだよ! プラーベートではこんなに綺麗な女性と接点を持つ機会などないだけに、これ以上の役得感はないと断言できる!!
……おっとイカン、ついテンションが跳ねあがってしまった。
だがそれも仕方ない事だと思うんだ。だってよぅ……
「あぁん……そこぉ、凄く気持ちいぃ、ん、あぁ……もっとお願い……」
ものっすごく艶かしくてエロいんだよ!?
据え膳食わぬは男の恥、か…………って食ったら犯罪だしっかりしろ俺!!
でもさぁ超絶いい香りがしてんだよ!
ラベンダーの香りと、鼻腔をくすぐる女性特有の甘い香りが、絶妙なバランスで脳髄を奏でる調和……あぁもう全っ然意味わかんねぇよ!
もうこの際、社会的に抹殺されてもいいかも……っていやいや気張れ俺!!
俺は公私混同などしない!
心頭滅却! 色即是空!! 空即是色!!!
でもさ……この施術をキッカケに彼女から指名を貰えるようにして、時間を掛けて少しずつ攻略していくのも悪くないよなぁ。むふふ。
……何? それが公私混同してるだと!? そ、そんなバカなっ!?
「あの……お兄さん? 手が止まってるけれど……大丈夫かしら?」
「あ、申し訳ありません、失礼いたしましたっ!」
しまったあぁぁぁやっちまったあああぁぁぁ!!
香りに気を取られて手が止まっちまった。
俺とした事がなんてイージー、ミス……を?
ん……何だ?
平衡感覚がおかしい。貧血か?
……いや何か違う。
あれ……視界がぼんやりと……嘘、だろ? 興奮しながら睡魔……?
「ねぇお兄さん? 本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫です……すみま……せん」
うわ、手足に力が入らねぇ……こんな強烈な睡魔は初めてだ。
どういうこった? 意識が保て……ねぇ……
「そ、んな……嘘だ……ろ……」
瞼が重みに耐えられなくなって、視界が靄掛かってきた。
まるで薬でも盛られたのかってくらいの勢いで全身の力が抜けていく。
揉みほぐしていた指先はおろか、腕すら上げる事ができない。
立っている事さえもままならなった俺は、糸の切れた繰り人形のように、受け身も取る事もできないまま、足元から崩れるように倒れていく。
その時、施術台にうつ伏せの体勢だった女性客の顔が視界に入った。
突然倒れた俺を心配して介抱してくれるかなぁ?
それとも救急車呼ばれちゃうかなぁ?
まさかこのままスルーされて帰っちゃうかなぁ?
何となくこの後の展開を考えたんだけど……おそらく全てハズレだ。
ペロリ。
俺の閉じかけた視界から朧気に見えたのは、黒髪の美女が淫靡な表情を浮かべてながら、下舐めずりしているという、予想外の光景だった。
「うっふふふふ……私、貴方の事が凄く気に入っちゃったわ♡」
その一言を耳にした直後、俺の意識は成す術もなく、暗闇に呑み込まれた。
まずは見ていただいた方々に感謝いたしますm(__)m
自身まだ2作目ですが、プロットはかなり前から考えていた作品です。
別作品と同時進行なので不定期になりますが、要望によっては定期的にする事も考えております。まずはそうなる為に頑張りますので、お付き合いいただけると嬉しいです。