第6話「女神と過去と託されたスキルと」
ありがとうございます。
「起きてください、起きてください」
体を揺する動きと声に俺は目を覚ます。
目を開けると
優しげな顔立ちの女性が俺をみていた。
「お名前を確認してもよろしいでしょうか?」
銀色の髪、赤い色の眼、上品な仕立ての服。
場違いなほどに彼女の姿は美しく、
俺をみる目はどこか厳しい。
(彼女が女神か……)
「秋山夏男です」
「ゴリラバーの像はお持ちですか?」
俺はポケットから像を取り出す。
「これですか?」
「失礼します」
彼女はほっそりとした手で像を受け取ると
出現したウィンドウに像を入れた。
「サクラモチル、確認を」
「粒子残量、因子、時間残滓確認 1999年7月に消失した像と一致」
「ありがとうございます。
古文書に記されている通りのお姿、
そしてこの像、、認証完了しました」
「私の名前はベル・キシスと申します。
これからは指示通り、ベルとお呼びください」
俺は仮面を被ったような表情の彼女に少し不安を覚える。
「それじゃあ…ベルさんでいいですか」
「お好きなように」
「秋山夏男様、665回前の秋山夏男が指示された通り、
特異点と確認した貴方にこちらをお渡しします」
ベルさんは何もないところから宝箱を取り出した。
「665回前ってどういうことですか?」
「貴方が死亡した回数です」
そう言ってベルさんは宝箱の中から本を取り出した。
その本は秋山夏男 ぼうけんの記録と書かれている。
「初代秋山夏男 転生と同時に心臓麻痺により死亡
2代目秋山夏男 下級兵士ナップ・タップが奴隷逃亡と認識し処刑
etc」
ベルさんの朗読するスピードもあるが自分の死因を
聞いているとめまいがする。
200番台まできた辺りで限界を感じた俺は
ベルさんに懇願した。
「すいません、それぐらいで勘弁してもらえませんか」
ベルさんは本を閉じると咳ばらいをした。
「お分かりいただけましたか?」
これを分かったとすぐに言えるほど
心は強くない。
「秋山夏男様、この世界での貴方の魂はこの666回で終了です」
頭のどこかで嫌な音がする。
「失礼」
ベルさんは本のページを破ると、
俺の頭に貼りつけた。
「33代目の秋山夏男様があなたに託されたスキル
【状態回復】です」
すると音が消えた。
「33代秋山夏男様はこのスキルを手に入れた後、
伝染病に侵された国を救い、その命を捧げました」
ちょっとカッコいいと思ってしまった。
「ですが回復した民を待っていたのは魔族の侵攻、
彼らは秋山夏男様への忠義を胸に散りました」
ううう…そこは知りたくなかった。
「この本をあなたにお渡しします」
ズンと重みを感じる過去の俺の人生。
「それと…目をつぶってください」
言う通りに目をつぶる。
昔、どこかで嗅いだ草花の匂い…
すると頬に柔らかな感触を少しだけ感じた。
「目をお開けください」
目を開けると頬を赤らめたベルさん。
正面を向いているのに目は俺の顔をみようとしていない。。
「665代前の秋山夏男と共に旅をした過去の私からの頼みです。
もし、困ったことがあったら私の名を天に向かって
叫んでください。 少々、時間はかかりますが
助けに参ります」
ベルさんは翼を広げて、
北の方角へ飛んで行った。
俺は渡された本を抱きしめ、
最後の命となった俺のこれからに
深いため息をついた。
最後までお読みいただき
ありがとうございます。