竜来訪
竜の鱗はよく効いた。
私が薬を飲んだ翌日からうろこのような肌がポロポロ落ち、3日目には下からピンクの新しい肌が見えてきた。
一週間後にはもう乾燥部はなくなり、赤ちゃんのような柔らかい肌に生まれ変わった。
「本当にありがとう、エル」
私は思い切り笑顔を作る。
いくら顔を動かしても肌が裂けることはない。
「お美しいです、お嬢ーー」
「エスメラルダ!」
私はエルの声にかぶせる。
「もう婚約者でしょ。エスメラルダと呼んで?」
エルが真っ赤になる。
醜い容貌のはずなのにかわいい。
「……エスメラルダさーー」
「様もなし!ね、エルヴィス」
私はエルの真名を呼ぶ。
魔族にとって真名は番にしか呼ばせないと聞く。
ますますエルが赤くなる。
(かわいい!どうしてくれようかしら)
私は背中からエルに抱きつく。
「もう…、煽らないでください」
エルが困ったように笑う。
「煽ってないわ。私が抱きつきたいの」
「それです」
私たちが笑いあっていると、お父様が来た。
「仲がいいな」
父ははじめは私たちの婚約に大反対だったが、私の魚鱗病を治したこと、なにより私がエルでないと誰とも結婚しないと言い切ったので折れてくれた。
「またこんなに笑うエスメラルダが見れるなんて」
お母様も涙ぐんでいる。
その時、突風が吹いた。
館が揺れる。
「なに?」
急いで外を見ると黒い竜がいた。
「黒竜!」
エルが叫ぶ。
竜はするすると小さくなり、人型になった。
黒髪の妖艶な人外の美女である。
「そなたがエスメラルダか。」
声も美しい。
美女は私を眺めると「確かに美しいな」と目を細めた。
「どうしたんですか?急に」
エルが緊張している。
「そう構えんでよい。結婚すると聞いて祝いを持ってきた」
美女はエルに近づくと手をかざした。
強い光。
私が反射的に目をつむり、開けると目の前には以前の美しいエルの姿があった。
「エル、顔が…!」
私が駆け寄るとエルは自分の顔をさわりながら信じられないという表情だ。
「久々に純愛というものを見せてもらった礼だ。幸せにな」
美女は竜に戻ると飛び立っていった。
「エル…!」
「エスメラルダ様…!」
私たちは固く抱きしめあった。