エルの告白
夜、ベッドで休んでいるとドアがノックされた。
「お嬢様」
エルだった。
夜に訪ねてくるなんて三年間で初めてだった。
「少しお話したくて…」
エルは白いシャツに黒っぽいズボンをはいている。いつもはお仕着せなので女性に見えていたが、今は男性に見える。
「いいわよ、どうぞ」
私は部屋に招き入れた。
「私は焦っています。ヴァルカン様は魅力的な方でした。また、彼は男色家ではないでしょう」
エルの言葉に驚く。
「どうしてわかるの?」
「…」
エルは黙る。
「私は男色家でもどちらでもいいわ。あの方は私を人間として扱ってくれたわ。私の肌に嫌な顔ひとつされなかった。それだけで十分」
私は昼のユージン様を思い出す。
「そんな…、お嬢様はもっと上を望んでよい方です」
エルが私の手を両手で握る。
「私が幸せにしたい。幸せにする。私と逃げてください」
私はゆっくり首を振る。
「私は一人では何もできない病気の女よ。お前の足手まといは嫌だわ」
「お嬢様…!」
気づいたらエルの腕の中にいた。
「やさしくて美しいお嬢様。私の魂を捧げますから私と一緒になってください…!」
「むぎゅ…、苦しいわ」
「すみません…!」
腕から解放されたと思ったらやさしく抱き締め直される。
「私は魔族です。ダークエルフです。私たちは16歳に性別が決まります。私はお嬢様を生涯の伴侶にしたいと願ったから男性化しました。ダークエルフは伴侶を決めたら決して変えない。私にはお嬢様だけなのです」
魔族との言葉に体が固まる。
魔族は北に住んでいて、領地をアーデン伯爵家と長年争っている。いわば敵である。
「あなた、魔族だったの…」
私は少し落胆する。
その様子にエルが焦る。
「魔族にも善き者はいます。人間と変わりません」
私は微笑む。この三年のエルを思い出したのだ。
「魔族はわからないけど、エルは好きだわ。お前を信じるわ。でも結婚はできないわ」
「なぜですか…?」
エルが悲しげに言う。
「だって昨日まで女の子と思っていたのよ。急には無理よ。でもエルなら大丈夫かしら…」
私が最後につぶやいた一言にエルがくいつく。
「好きにさせてみせます!」
私はエルの勢いにおされてうなずいた。
(ユージン様はどうしようかしら)
二股はよくない。
でも魔族と男色家…。
私は普段使い慣れない頭を使いすぎて頭痛がしてきた。
「もう寝るわ。ユージン様のこともよく考えるわ。おやすみなさい、エル」
「はい。ヴァルカン様には負けません」
こうして私の長い1日が終わった。