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衝撃の事実

私はエスメラルダ・アーデン。

16歳。

波打つ金髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ伯爵令嬢。


父は辺境伯だから近くに友人は数人しかいないが、家族仲はよく、使用人もみんなやさしい。

私は恵まれていると自覚しているし、環境に感謝している。


ただ、そんな私には悩みがある。


適齢期が15~17歳のこの国の貴族でまだ婚約者がいないことだ。


理由はわかっている。

私があまりに醜いからだ。


あれは三年前、それまで『アーデンの宝石姫』と呼ばれていた私は一人の少女を拾った。

奴隷商から逃げてきたというその銀髪の少女はがりがりに細く、頬はこけ、浅黒い肌は薄汚れ…、今にも死にそうだった。

ただ、大きな黒い瞳だけが「生きたい!」とギラギラしていた。

私はその目が気に入った。


「名前は?」

「エル…」


その日からエルは私の物になった。

そして、人間らしい生活をさせたら見違えるほど美しくなった。

黒曜石の瞳にエキゾチックな褐色の肌、背中の真ん中まで伸ばされている絹糸のようなプラチナブロンド。

すらりと高い均整の取れたスタイル。

皆がエルを見たら称賛のため息をついた。


反対にその日を境に私は全身が鱗のように乾燥しひびわれた醜い姿になってしまった。

『魚鱗病』という原因不明の不治の病だった。

中にはエルのせいだという者もいたが、私は必死でかばった。

『魚鱗病』は移る病ではないし、ただの偶然だと思っていたし、なにより私はエルの美しい姿とともに、その心形を気に入っていた。


エルは寡黙だったが、醜い姿になってから喧騒より静寂を好むようになった私にはちょうどよかった。

私の心の慰めにと美しい花を毎日いけてくれたし、私の好きな作家の新刊はすぐに用意してくれた。

大好物の入手困難なチョコレートも朝から並んで買ってきてくれた。

「お嬢様はお美しいです、誰よりも」

エルはよくこの言葉を口にしたが、嫌な気持ちになることはなく私は心があたたかくなった。


エルがいれば心が満たされた。

「エルが男性ならよかったのに」

ある日私は何気なく口にした。

エルがぴくっと反応した。

「なぜですか?」

「お前となら一人よりも楽しいわ。結婚するならエルみたいな人がいいわ」

私は微笑んだ。

笑った瞬間に肌が少し割れて血が出た。

「お嬢様…!」

エルはあわてて私の頬の血をぬぐう。

そのままじっと私の顔を見る。

「エル…?」

「お嬢様に黙っていたことがあります」

エルは黙ってお仕着せを脱ぎはじめた。

「エル、どうしたの?」

そこにやわらかな胸はなく、うすい胸板があった。

「私は両性です。伴侶の性別に合わせて体が変化します」

「両性…?伴侶…」

エルは私の手を大事そうに包んだ。

「お嬢様、お慕いしております」

黒曜石の瞳が熱をおびる。

「私と結婚していただけませんか?」

私は驚いて声がでない。

「わ、私は醜いわ」

「私には誰よりも美しく見えます」

私の髪をひとふさとり、口づける。

「私より年下でしょ」

「私はお嬢様と同じ16です」

エルは私を見下ろして笑った。

「成長期ですからまだまだのびます」

「身分が違うわ」

「それは…」

エルが悲しそうな表情をする。

私は胸が痛くなった。

「身分は気にしないわ!」

私はエルの髪をなでた。

「でも結婚は急すぎるわ」

「何年でも待ちます」

エルは微笑んだ。花が開いたような、ぱっとした美貌であった。

私はしばし見とれた。

なんだか胸がドキドキしてきた。

(こんな美しいエルが私の伴侶に…)


その時、ドアがノックされた。

「お父様」

父が部屋に入ってきた。

「エスメラルダ、朗報だ!婚約者が決まったぞ」









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