入国③
アーチの先には、トンネルがあった。ここを越えれば町にたどり着くようだ。
「おい、クレア、これどういうことだよ!」
荷車に乗り込んだ俺は手綱を握るクレアに向かって怒鳴った。
「どうもこうもないにゃ。渉ならきっとここに来ると思ったのにゃ」
クレアは前をじっと見つめながら言葉を返す。頭を覆うフードは、ちょうど耳の辺りに裂け目ができていて、そこから猫耳が覗いている。猫耳はふわふわと風に揺れ、ふさふさの尻尾は荷車の振動に合わせて左右に振れていた。
俺は無性に尻尾を掴んでふさふさしたい衝動に駆られたが、確実に怒られるので自重することにした。代わりに次の言葉を探す。
「……さっきの、奴隷って何だよ」
「こうでも言わないと通してもらえそうになかったからにゃ。気に入らなかったかにゃ?」
「いや、そういうことなら……別にいいけど」
「じゃあ、今後渉はミャーの奴隷として働いてもらうにゃ!」
「そういう意味で言ったんじゃねえ!」
俺は大きくため息をついた。
「全部、お見通しだったってわけか」
「まあ、気持ちは分からなくもないのにゃ。ずっと屋敷の中に閉じ込められていれば、自然と外に出ていきたくなるものにゃ」
「なあクレア、お前らはどうして俺を屋敷に閉じ込めようとしていたんだ?」
「その理由を教えるためにミャーが来たのにゃ」
「えっ、それってどういう……」
「さあ、もう見えてくるにゃ」
トンネルの終わりが近づき、一気に視界が開けてくる。
あまりの光量に思わず目がくらんだ。
だんだん目が慣れてくると、次第に町の様子が鮮明になってくる。
それは、ひどく寂れた場所だった。家と呼べるものといえば、吹き曝しのおんぼろな平屋くらいだ。行き交う人々はみな痩せこけており、明らかに栄養が足りていない。地面に伏している子供たちの表情は暗く、まるで喪に服しているかのようだ。俺はスラムを見たことがないが、きっとこういうようなところをそう呼ぶのだろう。




