入国②
小屋を通らずにこっそりと町に入れないだろうか。俺は辺りを見回したが、町は高い外壁に覆われており、蟻一匹たりとも侵入する隙がない。魔術を使うにしても、今から穴を掘るのは時間的に厳しい。
対策の見つからぬまま、俺は小屋のすぐそばまで来ていた。あと三人で俺の順番になってしまう。
俺は脳みそをフル回転させて上手い言い訳を考える。しかし、パスポートのない人間をやすやすと通す入国審査官がどこにいるというのだ。いや、いるわけがない。
一つ前の行商人の荷物の確認作業が終わった。
「よし、いいぞ。通れ」
こうなればやけだ。
俺は行商人の荷車の影に隠れて小屋を通り抜けようとした。
「待て、そこのお前!」
即座にアーチの奥の衛兵に気付かれてしまった。
「入国証は持っているのか。不法入国は大罪だぞ」
「お前、何しにここに来たんだ」
「どうせ出稼ぎの浮浪者だよ。魔族の庇護下にない人間なんて、はぐれ冒険者か金のない浮浪者くらいなものだ」
衛兵達の嘲笑が響く。
「その男は、ミャーの売り物の奴隷だにゃ」
前の方から女の子の声がした。見ると、先ほどの前の行商人がそう言っていた。姿形は荷車に隠れて見えないが、俺はこの声に心当たりがあった。
「あっ、そうでしたか、クレアフィレスさん。てっきり、怪しい者かと思ってしまいました」
「大事な商品なのにゃ。丁重に扱ってほしいのにゃ」
「はっ。承知いたしました」
急にかしこまった衛兵達は俺の元を離れ、持ち場に戻っていく。
「さ、来るにゃ」
短く呼ばれ、俺は小走りで石のアーチをくぐった。




