脱出②
そして、今日が決行当日である。
俺はいつものように昼の食事を済ませると、「よし、今日も魔術やるかー」などと独り言を言いながら庭に出た。
空は青く澄み渡っている。異世界であっても空の色は変わらないのだなと思うと、肩に入っていた力が少しばかり緩んだ。
クレアが後ろからついてきていることは、振り返らなくても分かる。俺は屋敷でのほとんどの時間をクレアと共にしている。それは、仲が良いとかそういう類のものではなく、ただ監視し、監視される立場にある者同士がそれぞれの役割に従っているに過ぎない。
俺は一つ深呼吸をして、魔術の練習を始めた。既に抜け穴は完成させてあったから、俺直伝の二属性同時行使をする必要はない。
ほどほどに時間が経ったところで、俺はクレアにある提案をする。
「なあ、クレア」
「なんですにゃ」
「そろそろ一人で空に向かって魔術ぶっ放すことにも飽きてきたしさ。少し相手になってくれないか」
「ほー、蚊一匹殺すこともできない渉が、ミャーと戦えるのかにゃ?」
蚊一匹くらいは余裕で瞬殺できるはずなのだが、そこで口答えしていては日が暮れてしまう。
「もちろん、条件は付けさせてもらう。俺がこの庭のどこかに隠れるから、お前はそれを探してくれ。一時間以内に見つけられなければ俺の勝ち。時間内に俺を見つければお前の勝ちだ。な、分かりやすいだろ」
「そんなちゃちな条件で良いのですかにゃ。この屋敷はミャーの庭。どこに隠れようとものの数分で見つけちゃうにゃ」
「御託はいいから早くやろうぜ」
俺は両手を胸の前で合わせながら、クレアに近づく。
「ちょ……何するつもりにゃ」
「鬼は俺が隠れるまで目をつぶってなくちゃいけないんだけど、ほら、お前そういうとこずる賢いじゃん。だから……」
俺は合わせた手を地面に勢いよく押し付ける。
「こうするんだよ!」
次の瞬間、土が堰を切ったように押し寄せていき、たちまちのうちにクレアを取り囲む高く厚い壁となった。
「お前がそこから出られたらスタートな!」
そう言い放って、俺は茂みの中の隠し穴に向かった。




