宝物庫にて①
カルム王国編開始です。
結晶の輝きはやがて薄れていき、俺の視界は元の暗い部屋に戻った。
気づかぬうちに、目からは一筋の涙がこぼれていた。
「理解してくれたかな」
黒田老人の嗄れ声がする。年を経てはいるが、やはり記憶の中で聞いた声とどことなく似ている。
俺は今までの会話を思い出す。そういえば、魔法を信じるかとか、魔法を使いたいかとかいう話だったっけ。
「まあ、魔法が実在するってことは分かったよ」
俺は結晶を持ち直すように見せかけて、挙動の過程で涙をぬぐう。本人を目の前にして泣いていたと悟られるのは、さすがに恥ずかしかった。
ただ、これだけのものを見たら、魔法の存在を理解せざるを得ないだろう。
「して、少年よ。わしの魔力を継承する気はないか」
「継承? できるのか、そんなこと」
「わしに不可能なことなどない。もっとも、継承は魔力そのものに限る。わしが編み出した技や魔術は使えるようになりはせんがの」
「そ、そんなの……」
そんなの、承継したいに決まっている。さっき黒田の記憶を覗いたときに見たような物凄い魔術を使いこなせれば、きっとラノベの主人公のような存在になれるに違いないのだから。
ただ、気になることがあった。
「黒田さん、あなたは結局、イリスさんを救えたの?」
しばし沈黙が流れる。
「……いや、あと少しのところまでは行ったんじゃが、倒されてしまったようじゃ」
「誰に? あの、安西ってやつか?」
「違う。あやつはわしが仕留めたはずじゃ。じゃが、そこからの記憶が……ない」
「あなたは安西を倒した。でも、その直後に何者かに殺された。そういうことですか」
「うむ、おそらくはな」
黒田老人は長く溜息をついた。
黒田は何十年もかけて、イリスの行方を捜していたのだ。そして、彼はあと少しのところまでたどり着いていた。あと一歩でイリスを助けることができる。そんな状況で殺されたのだから、彼の無念は言っても言い尽くせないだろう。
とすれば、黒田老人は魔力を与える代わりに、俺にイリス救出を依頼しようとしているのかもしれない。
「別に、君にイリーを救ってもらいたい、などと頼むつもりはないよ」
黒田老人は、俺の心を見透かしたかのように付け加えた。
「魔力をどう使おうと、君の自由さ」
「じゃあ、あなたが俺にそこまでする理由は何ですか」
「わしはただ……早くあの世に行きたいだけじゃよ。こんな中途半端な形でこの世界につなぎ留められてちゃたまらんからの」
それに、と黒田老人は呟く。
「この世界の人間はどうも信用できんからな」




