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ラノベの世界の狭間にて  作者: 雪山 雪崩
メイスの過去編
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メイスの過去⑤

 「すごいすごーい!」

 イリーは手を叩いて子供のようにはしゃいでいる。

 エルフ族とは異なり、魔術詠唱師(マジックキャスター)はあらゆる属性の魔法も、魔術刻印さえあれば行使することができる。黒田の魔術刻印には雷・炎・土・氷・風・強化の属性が刻まれている。

 ガリウスの出した最終試験は二つ。一つは、木人形を使った組手だ。これは、今黒田がやってのけた通りだ。もう一つは、ガリウスとの一対一でのバトルだ。師匠に勝つことができれば免許皆伝、なんていう事態になるとは、黒田自身、最終試験の内容がガリウスから伝えられるまで思ってもみないことだった。

 魔術詠唱師(マジックキャスター)という役職は、接近戦には不向きであり専ら後方支援に徹するべきという考えが主流だ。しかし、ガリウス曰く、それでは所詮、二流止まりになると。だから、ガリウスはこうした体術を駆使した魔術の行使法を身につけるよう黒田に指導している。

 今日の出来は、まあ六十五点といったところか。途中、体術と魔術の切り替えがぎこちなくなってしまった点や、木人形への打撃がわずかにそれた点が減点対象だな。しかし、あとは何とかこなせているから、及第点ではあるだろう。

 そのままイリーにバトンタッチする。

 この組手は瞬発的に多くのエネルギーを消費するため、黒田の足取りは重かった。

 黒田は足を引きずりながら、無造作に転がった木人形の残骸に腰掛けた。

 「じゃあ、いくね」

 イリーは目を閉じて、両手を空にかざす。

 イリーの訓練は、爆炎魔術の爆心を自分からなるべく遠ざける練習だ。以前のイリーは、魔術の威力は高いのだが、爆心を自分の周囲十メートルの範囲までしか遠ざけられなかったため、イリーの魔術は、周りから『自爆魔術』と揶揄されていた。

 イリーが詠唱を始める。魔術刻印により詠唱を省略することもできるが、詠唱によった方がより高威力になる。

 「……お日様よりも強く、熱く、たくましく!」

 ……どこかの小学校の校訓にでも出てきそうなことを唱えているイリー。結局は、詠唱もイメージをより強固にするための予備動作に過ぎないから、文言自体は何でもよく、詠唱文句は人によって変わるのが常だ。が、イリーのは少し間が抜けすぎている気がする。

 「遠く、遠く、ずっと遠く、天まで届け、爆炎よ!」

 と、空のかなり高い位置の空間がゆがんだ。ほぼ同時に、白く発光する炎がそのゆがんだ空間に渦巻き、だんだん大きくなってゆく。そして、その光が一瞬ぎゅっと圧縮されたと思った次の瞬間、直視していれば視神経がやられてしまいそうなほど強い光が辺りを覆う。ゴオオオオオオオという音が少し遅れて鳴り響く。

 黒田はかざした右手の隙間から様子を窺うと、まるで離陸直後に大型ロケットが爆発してしまったかのような、赤々とした炎と黒煙が空に広がっていた。この規模ならば、地上ならばロバゴ村が跡形もなく吹き飛んでしまうだろう。

 地上にいる黒田は、特段熱を感じなかった。イリーの魔術は成功したのだ。

 当のイリーは、空を見ながらへなへなと倒れ込んでいた。

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