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ラストリゾート  作者: 水野たまり
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今、思うこと 後編

 ルカとイチゴの話をしたことがある。


「なつめさん、奇跡を起こす方法を知っていますか」


「分かりません。どうすればいいんですか」


「それは奇跡を決して信じないこと。奇跡なんて起きないって、何度も何度も心に言い聞かせて、奇跡なんて起きないってことすら忘れてしまうようにする。


 そうすると奇跡は起こるの」


「奇跡を信じたらいけないのですか」


「だめ。奇跡を信じたら、奇跡じゃなくなってしまうの」


「そうするともし実際に奇跡が起きても奇跡だと信じられなくなるんじゃないかな」


「奇跡を信じない気持ちまるごとひっくり返すから奇跡なの。イチゴを探すってことはきっとそういうこと。


 ルーツから切り離されて地面に落ちてしまったイチゴ。でもそれがイチゴの死だなんて誰が言える?絶対再生しないなんて、なぜそう言い切れるの?」


 ルカは知っていたのだろう。

 いずれ僕が探し求めるようになることを。


 だから僕に聞かせる為に、物語を紡ぎ出していたのだ。


 希望のない世界でどうやって希望を探せばいいのか。それは物語を紡ぎだすこと。

 希望が石ころになってしまった時代に希望を探し続けるということ。


 かつて希望だったはずの石。

 希望の死、希望の不在を証明するもの。


 探し求める心、強い願い。

 自分の全存在と引き換えにしてもどうしても手に入れたい、でも叶わないかもしれない。


 人の思いがその主を失った時、思いは決して消えることはない。代わりに人の思いが宿る場所、そこには石が残される。

 

 ここに転がっている石も、かつて誰かの希望だったかもしれない。


 希望がない、それでも探し求める者に与えられるもの。それが石だ。


 悲惨なこの世界でも生きていられるのはなぜか。それは悲しみだけではないことを知っているからだ。


 石に込められた思い、小さな確信のようなもの。それはどんな業火でも焼き尽くすことはできない。


 パンドラの箱の蓋が開いてしまったこの世界では、希望を探そうとすると苦しい。でも探さないともっと苦しい。


 そして探し求める者にはひとかけらの石が与えられる。


 それは心を軽くするもの。

 そして痛みを忘れさせてくれるもの。


 僕は森のそばに住んでいただけなのに、世界を終らせる呪いに抗って物語を紡ぐ女性と出会い、いつの間にか物語の先頭を歩いている。


 いつの間にかルカの紡ぎだした物語の方がリアルに感じられる。まるで現実と物語が逆転したかのようだ。

 

 いつ現実と物語がすり変わってしまったんだろう。

 

 放射性物質が並んでいるきれいな写真を見てからか、いやその前かもしれない。あの森は魔物が棲むとは本当だったんだな。

 

 ルカが現実を連れて去ったのかもしれない。代わりにおとぎ話を残して。

 

 僕は今、自らの意志でその物語の続きを歩こうとしている。

 僕は彼女から石を受け継いだ。


 リーダーはとても大きな理想を追い求めていた。

 それは冗談でしか言い表せないようなたわいない理想。

 甘い理想論と思うかもしれない。


 でも誰が彼らを笑うことができる?

 なぜ地面に落ちたイチゴが再生しないと断言できるのか。


 彼らは自分らしくいられる場所をつくることに必死で、とても一生懸命生きようとしていた。だから僕は支えてあげたいと思った。


 僕は彼らの物語の続きを知りたい、その気持ちを抑えることができない。


 彼らが見せてくれた夢からまだ僕は覚めていない。

 まだ理想を追いかける時間は残されている。


 想像しさえすればこの世界を変えることができる。

 ばかばかしいほどの想像力だけがこの世界を変えることができるはず。


 自分にかけられている呪いを知ろう。

 想像してみてほしい、呪いの先の世界を。

 そして呪いを乗り越えよう。


 僕達は探し求める為に生まれてきた。

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