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ラストリゾート  作者: 水野たまり
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今、思うこと 前編

 今なら分かる。

 旧世界が滅びても、呪いは消え去っていなかった。


 もう燃えるものがなくなっても、業火はなお狂おしく燃えさかることを欲していた。


 かつて人生は素晴らしいはずだった。

 誰もがきれいごとを信じようとし、きらきら光るものを金だと思い込もうとしていた。


 世界は希望に満ちている。

 これから更に輝かしい時代が来る、

 はずだった。


 足元にある石ころには見向きもしなかった。


 正しいことと輝くものだけで彩られていた時代。

 快楽が幸せのイミテーションになろうとしていた時代。


 ほんの一瞬の間にも無限にも思える奇跡が起きていて、触れる物全てが黄金になると思われた。


 でも一方では、もうイチゴが見つからなくなっていた。


 全てが黄金になった時、黄金は石ころに同然になってしまった。それは奇跡のハイパーインフレーションと言ってもいい。


 人生は素晴らしい、いつしかその言葉は反転し、ついには呪いの言葉になった。


 時に人の心は数式のようだ。

 

 マイナスにマイナスを掛けるとプラスになるように、人々は呪われた世界をありったけの力で呪い返した。

 

 呪いに呪いをぶつけること、それは一種の鎮痛剤のような効果をもたらした。


 人々は呪うしかなかった。

 とても苦しかったからだ。

 呪うことで少しは沈静できる。


 それは自分を守る為の自衛手段といってもいい。

 生き延びる為、自分の心に防御創を刻み込んだ。


 その頃、佐久間は時代の先端にいた。


 人々は佐久間の暗闇を覗き込んで、自分よりも色濃い漆黒の闇に安堵した。

 そして同時にいとおしく思った。


 憎しみや悲しみを共有し共振する人と人。

 それは血よりも濃い繋がりを生んだ。


 佐久間はまるで地面に落ちたイチゴのように、自分がルーツから切り離されてしまっていたことを知っていた。


 佐久間は巨大な空洞を抱えていた。

 だから仲間の絶望を引き受けることができる容れ物になろうとした。


 彼が事故を起こしたかどうかはどうでもいい。

 誰が引き金をひいたなんて特定しても意味はない。


 確かに事故が起きたことは悲劇だろう。

 しかし最大の悲劇はそれではない。

 

 最大の悲劇、それはどんなことでも起こりえるようになってしまったことだ。


 旧世界の惨事は起こるべきして起きたのだから。


 佐久間と仲間達は日本に呪いをかけた。

 火種はくすぶっていただけで、消えていなかった。

 

 長い時間が経過して、今もなお呪いは継続している。


 そしてこれからという時、再び呪いがリーダーやオリエさんの足首を掴んだのだ。ルカの足首までも。


 僕は子供の頃、直感的に知っていた。

 呪いはまだ消え去っていないと。


 それに触れたくないのに触れていたい。それはとても不思議な感情だった。

 廃墟に立った時、心がざわめく一方で、なぜ安心感を覚えるのか。


 僕はその直感を封印してきた。

 でも封印できなかった。


 封印しても気持ちが溢れてくるからだ。

 呪いは僕に目をそらすことを許さなかった。


 呪いにかかっていない人とは理解し合えない。 

 呪いにかかっている者同士でなければ理解し合えない。

 呪いにかかっている者同士では、言葉を超えて互いに理解することができる。

 そして心の奥底から強く求め合う。

 

 僕はいつか誰かなしではいられなくなることを恐れていた。


 今なら分かる。

 

 僕は既に呪われていたのに更に呪われようとしていた。

 なぜなら呪いの先にしか出口がないことを知っていたから。

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