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ラストリゾート  作者: 水野たまり
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旅立ち

 出発の日、僕は双葉に向かう道の分岐点にいた。大勢の人が見送りに集まってくれている。僕はゲンジさんに別れを告げてからイサクと合流した。


「どんな顔で出発したらいいか分からないな」

 イサクが言った。


「とりあえず笑っとけ」


「さあ行くか」

 イサクが言うと、見送りの人に手を振った。


 食料がぎっしり詰まった荷物を背負って歩き出した。


 イサクが言った。

「もう葛葉には戻ることがないだろうな。


 ここでの暮らしにあきあきしていたはずなのに、いざ去ると思うとこんなにも離れがたい。

 

 子供の頃、俺はもっと広い世界に出たいと思っていた。でも試験に通らなかった。お前は行こうと思ったら旧政府に行けたんだろうがな」


「僕は葛葉にいたかったんだ。


 お前には狭すぎたかもしれない葛葉は、僕にとっては広すぎたんだ。昔はこの水たまりに映っているものさえ、まるで宇宙そのもののように感じていたよ」


 振り返るとまだ見送りの人が解散していない。イサクが振り返って両手を振った。僕も両手を振った。


「確かに僕は旧政府に行きたくないだけだった。でも葛葉に残る選択をしたことに後悔はない。今こうしてみんなの思いを背負わせてもらえるのだからな」


「お前の言葉とは思えないな。前までのお前は良くも悪くも学者先生みたいだったからな」


「僕も変わる時が来たんだろう。いい加減、森のそばのもぐら生活に飽きて、外の世界に出てみたくなったんだ」


 遠くから歌が聞こえてきた。

 葛葉の歌だ。

 みんなで歌っている。


 イサクがうつむいた。

「俺達を励ましてくれているんだろう。自分達のこれからだって、すごく大変だっていうのにな」


 声が裏返っている。


 僕の頬にも涙が伝う

 しばらく無言で歩き続けた。


 しばらく歩いてから後ろを振り返ってみた。微かにまだ人が残っていることが分かる。

 

 もう歌は聞こえてこない。

 でも耳を澄ませば、まだ聞こえるような気がする。


 葛葉の通信圏外から出た時、イサクの端末の電源が落ちた。ところがそれからしばらくしても僕の端末の電源が落ちない。


「お前の端末はどうしたんだ」


「リーダーが僕の端末を触っていたから、その時に制限を解除してくれたんじゃないかな」


「何か意図があるんだろうな。あの告知を出したのも結局リーダーの仕業だったんだろう」


「おそらくな」


「あの廃棄物の動画も不思議と他の人の端末にコピーできないんだったな。画面を共有して見せるしかない」


「全て繋がったような気がするよ。


 汚染の進行が誰の目にもはっきりして、もうすぐ汚染を運ぶ船がまた来る前という絶妙なタイミングで緊急告知を出した。そうしたら僕がスクールに来るだろうと考えたんだろう。


 この周辺のコミューン全てに周知を出したのは、避難してほしいというメッセージであると共に、僕らがこうして事実を伝え歩く下地をつくろうとしたのかもしれない。


 コミューンを越えても端末の電源が落ちないようにしたり、動画を他の端末に移すことができないことなどは、そう考えると辻褄が合う」


「俺達は自分で考えているようでいて、実はリーダーの脚本とおりに行動していただけなのかもしれないな」


「人を操って喜ぶ人ではなかったよ。僕達は彼に託されたんだと思う。


 古の言葉にこういう言葉がある。

 あらゆる矛盾は一度極限まで行く。


 彼は今の世の中の矛盾にいち早く気づいていて、こういう事態になることすら想定していた気がするよ」


「そのリーダーとやらに俺も会ってみたかったよ」


「最後に会った時に生命値が17で赤なのに涼しい顔をしていたよ」


「生命値が赤の17なんて死にかけの数値じゃないか。それなのに涼しい顔か。ますますこの目で見てどんなやつか確かめておきたかったよ」


「リーダーに会いたいんだったら、僕達も南にいくさ。僕は死んだとは思っていない。きっとどこかでまた会えると信じているよ」


「俺は昔からひとかどの人物ってやつになりたかったし、実際それなりの人間になったつもりだった。


 要もそうだがリーダーも、肝心な時にきっちり俺に違いを見せつけてくれるものだ」


「心配いらないよ。これからお前の活躍の場所はいくらでもありそうだ。


 この国がもう一度1つまとまってこの事態を打開できるかもしれないし、このまま衰退するだけかもしれない。僕達はその岐路に立っているんだからな」


 そう言い終わると、急に体が震えた。

 反射的にポケット縫い付けた赤い石に握りしめた。

 

 その瞬間何かが弾けたような感じがした。


 様々な思いや記憶が溢れ出して、空中に放たれた。


「イサク、少し休んでいいか」

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