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ラストリゾート  作者: 水野たまり
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総会1日目

 イサク発議により緊急総会が開かれた。昨日の発議の段階で、既にイサクが議長として選出されていた。


 まず僕が状況を説明した。


 海外から放射性廃棄物が運び込まれていて、その廃棄物が漏れ出していることが今回の汚染が悪化した原因であること。

 

 スクールはその運搬を阻止しようとしているが、既に投棄された廃棄物からの汚染を防ぐ術がなく葛葉はもうじき人が住めなくなること。


 その後、端末の画面を共有し放射性廃棄物が地平線まで続く映像をノーカットで約20分流した。


 映像を流した後には重苦しい沈黙が流れた。その沈黙を破ったのはイサクだった。


「まず最初に論点を整理しておきたい」

 話した音声は即座に文字変換されて、各自の端末に表示される。


「今日は全体で意見交換を行って、それから各々が自由に話し合ってもらう予定です。それから明日葛葉全体の方向性を決める決議を行うというスケジュールを考えています。


 それで良いかどうか、最初に承認をお願いしたい」


 端末を操作して、承認するしないを選択する。


「異論はないようですね。スクールからの情報によれば、投棄された廃棄物から漏れ出ているようです。


 この数値では現地での撤去作業はおろか、近づくこともままなりません。そもそも漏れ出ている箇所は特定できいません。

 

 そういう現状を踏まえると検討すべき論点はシンプルです。


 避難するか、しないかです。


 質疑を始めましょう。最初は私が質問に答えますが、違う意見がある人はその都度発言をしてください。質問がある人はどうぞ」


 ある人が発言権を獲得した。

 

「どちらも決められません。この事態を旧政府はどう考えているのか、それを確認してから今後を決めた方がいいのではないでしょうか。


「旧政府が実際どう考えているのかは分かりません。しかしこの映像を撮影したのは旧政府です。撮影した日付からもう随分経過しています。


 もう3週間も前に事態を把握しているのに、葛葉には知らせようとすらしなかったのです。


 昨日、渉外担当を通じて旧政府に事実確認の問い合わせしましたが、まだ返事はありません。緊急連絡と伝えているにも関わらず放置されているのです。

 

 これでも旧政府に期待できるとお思いですか。他に質問はありますか」


「避難するにしてもどこに避難すべきかあてはありますか」


「私にはあては思いつきません。誰か良い考えがある人は意見を述べてください。


 西側はこのあたりに比べてもコミューンの過密地帯です。簡単に避難場所は見つからないでしょう。


 それに食料の問題があります。今の保存食は全員分で3ヶ月分はあります。しかし自力で運べる食料は工夫をしても3週間がせいぜいでしょう。

 

 避難場所が見つかったとしても、そこを開墾して作物を育てて収穫するまでの間の食料をどうしたらいいかという問題もあります。


 スクールのように森で狩りをするにしても、子供と女性、体の不自由な者も多数いてこの人数で安定的に食料を得られる保証はありません」


「他のコミューンはこのことを知っているのでしょうか。他のコミューンの対応が決まったら、こちらもそれを踏まえて対応を決めてもいいのではないか」


「1週間ほど前の休日、告知が出た後に私は双葉を非公式に訪問してみました。葛葉出身者を中心に何か知っていないか尋ねてみましたが、知っている形跡はありませんでした。


 また葛葉全体で避難することになった場合、避難場所の取り合いとなる可能性がありますから、先に動いた方が得策です」


 2時間が経過してもまだ質疑は続いた。


 同じような質問が多いのに質疑が終らないのは、皆不安なせいだろう。まだまだ続きそうだ。

 

 現在は西のコミューンの出身者に避難先となりそうな森がないか事情を聞いている。


 表向きは森を少し入るとどこのコミューンの管理でもないが、水源となる川の上流は実質、既存コミューンにおさえられているらしい。以前リーダーが言っていた通りだ。


 食料もそうだが、どこに移動するにしても水の確保が最大の懸案だ。


 いざとなれば食料は野草を食べたり狩りでもやればいい。しかし水を安定的に得ようとすると、必ずその水を管理している現地コミューンとの軋轢が生まれるだろう。


 避難先の候補が上がっては消えることを繰り返している。僕は僕で考えを巡らせているせいで、次第に総会の議論が耳に入らなくなっていた。


 自分がどうするかはもう決めてある。

 僕はどういう決定がされても旅立つしかない。


 しかし子供達はどこに行けばいいのだ。


 子供は総会での議決権を与えられていない。端末が与えられていないからだ。


 誰も皆、子供は大人が決めたことに従うことを疑っていない。

 

 確かに子供達が大人の支援なしで生きていくことはできない。だから大人の決定に従うべきだと考えるのも分かる。


 実際、議論の流れが残留に傾いている。


 流れに逆らわずに生きる。

 死ぬべき時に死を受け入れて、いたずらに生にしがみつかない。


 葛葉の人間は子供の頃からそう教えられてきた。

 だから葛葉に残留して、実質的に生き延びる選択肢を放棄する決定をするかもしれない。


 しかしそれでいいのだろうか。


 3時間半が経過してようやく全体質疑が終ると、広場で個人単位の議論が始まった。

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