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ラストリゾート  作者: 水野たまり
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最後のメッセージ2

 以前に私の生い立ちを話した時のことを覚えているでしょうか。

 

 母親が死んだ後に私は海を見てから死ぬつもりでコミューンを出ましたが、途中でスクールの前身となった隔離所の人たちに拾われました。


 当初、私はスクールの人に心を開こうとしませんでした。


 自分でも理不尽だったと思うけれど、どうしても誰かと楽しく話したり、仲良くしたりできませんでした。

 

 人との距離感や感情をどう加減して表に出したらいいか分からなかったのです。


 私は母親から薬草の見分け方やお茶の淹れ方を教えてもらっていましたから、隔離所では茶屋をやることで食料を分けてもらっていました。


 夜1人になるといつも空想でトレーニングしていました。誰かとにこやかに話しをしているところをです。


 でも現実に戻ると、私はただ無愛想にお茶を淹れて出していただけでした。冗談を言われてもニコリともしません。

 

 実際には想像と現実が違いすぎてどう接していいか分からなかっただけなのです。


 でもスクールの人達はそんな心を閉ざしたままの自分を受け入れてくれました。


 何も言わなくても、私の心に大きな傷があることを分かっていてくれていたのです。いびつな私をいびつなままで受け入れてくれました。


 隔離所を追われて森に行く間で女性達は途中のコミューンに一時引き取られることになりました。離れる時にリーダーに言われました。


 いずれスクールが完成したら戻ってくれたらうれしい。しかしその時あなたが本当に幸せだったら戻ってこなくてもいい。

 

 あなたは自分の幸せを第一に考えて、自由に生きてくださいと。


 私の為に泣いてくれている人もいました。


 私は今までの自分の態度を激しく後悔しました。私を思いやってくれる言葉、流してくれる涙が、とてももったいないと思いました。

 

 隔離所で私は幸せだったのに、なぜ心を開くことが出来なかったのかと。


 その時、私は決心しました。


戻ってきていいと言われたらすぐにでもみんなのところに戻る。再会したらきちんと感謝の気持ちを伝えて、私を拾ってくれたご恩を返す。


 それが私が生きる目的となりました。


 それからの私は疎開先のコミューンの人と必死で話をするようにしました。全てはスクールに戻るためです。


 でもどうしても長時間は難しい。

 心が疲れてしまうのです。


 負荷がかかりすぎて頭から煙を出そうになると、昔のように空想の世界に助けてもらいました。


 その頃私はリーダーからの定期的な連絡を心の支えにしていました。なるべくスクールの近くにいたい。その一心でついに一番近い葛葉まで辿りついたのです。


 葛葉に来た時に私は一見普通に振舞うことができるようになっていました。でもその一方心がボロボロになっていました。


 自然に振舞っているようにみせることはできても、それは無理をしているからです。

 

 人と話していてちょっとした食い違いだけで、私は気が動転してしまって衝動的に何か叫びたくなることがあります。


 それを力づくで押さえ込んで、心から外には出さない。それが私なりの解決方法でした。


 丸いものを無理やり平面にしようとするといびつになったり、不自然な切れ目が入ってしまう。私の心はそういう状態だったのです。


 私は思いました。後天的に学んでも決して越えられない溝があると。


 子供の頃に学校に行けなかった、友達とも遊べなかった。子供の頃に幸せな記憶がないというのは最悪です。

 

 拠って立つものがない、崩れそうな時自分を支えられるものがないのです。


 学校で楽しく過ごすこと、そして無邪気な子供時代、その延長に何の作為もなく素のままで笑っている自分がいたはずです。

 

 大切な時間を無駄に過ごしてきた、そういう思いが自分を苦しめていました。


 失った時間はあまりにも大きくて、今から埋めようとしても、もう間に合わないのではないかと怯えていました。私には決定的に何かが欠けているように思いました。


 それはまるで壊れた心のパズル組み立てようとしていて、組み立てる途中でパズルのピースが足りないことに気づたようなものです。


 葛葉に着いて数日過ごした時、ここは落ち着けるコミューンだと感じました。ここでなら私はもう一度自分の心を整理することができるような気がしてきました。


 少し時間をかけて、心の欠片が沈殿するのを待つことにしたのです。底に落ちた心の欠片を拾い集めてみようと思いました。


 私には1人で過ごす時間を確保する為に、少し離れたところに住もうと思いました。気がつくと森に向かうあなたの後ろをついて歩いていたのです。


 私が後ろをつけて歩いていることに、あなたは気づく気配すらしませんでした。私は最初緊張して歩いていましたが、次第に心地よくなってきました。


 おかしいと思われるかもしれませんが、それも私にとってはコミュニケーションの一種だったのです。いびつな私がこの世界に慣れる為に必要な時間です。


 このままずっと後ろを歩いていたい、そう思った時に自分でも驚いたことになつめさんに声を掛けていました。それもとても自然に。


 仕事以外で自分から誰かに声をかけたことがほとんどありません。それまでは困ったふりをしていたら、誰かが声を掛けてくれましたから。


 思えばこれまで私はあまりに受身すぎたので失うことばかりでした。欲しいものを掴みにいけば何かを得られることがあるのですね。

 

 それが分かっただけでこの人生は元がとれた気がします。

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