最後のメッセージ1
葛葉に着いたのは夜遅くなってからだった。最初にルカの家に行って、帰宅したことを伝えようとしたが、灯りが消えていた。
もう寝てしまったか、中央に泊まっているのかもしれない。
仕方なく自宅に戻り、リーダーから言われたように端末をリセットしてみた。端末の起動にいつもより時間がかかる。何か大きな更新をしているようだ。
しばらく待っているとようやく操作可能な状態となった。1件メッセージが届いている。
タイトルは「なつめさんへ」
ルカからだ。
急いで開封してみた。
なつめさんにこの知らせが届いたとしたら、その時に私はもうこの世にはいません。リーダーにお願いしておきました。
私はスクールの人間でした。
黙っていてごめんなさい。
私はあなたの後を付いて葛葉を出て、そのままスクールに合流しました。私たちの計画は知っていることと思います。もうすぐ廃棄物を乗せた運搬船が到着する予定です。
私はこのメッセージを書く為に、少し離れたところにいます。
広場に自分のいたコミューンの歌を歌っている人がいます。たとえ追放された身だとしても、懐かしい思い出がいっぱいの故郷なのです
追放されて森の中に移動する間、自分のいたコミューンのことを懐かしむ人はいませんでした。
自らの意志で離れたのではなく追放されたのだ。戻る場所はない。故郷なんてものはない。その反骨心がスクールを築き上げる力になったのです。
しかし今や彼らは故郷への思いを隠そうとしません。私には彼らの気持ちが分かります。
彼らは幸せになれたから、許すことができたのです。この場所で過ごした幸せな日々が、被害者意識を乗り越させたのです。そして今、私達は残された人達を守ろうとさえしています。
オリエさんの仇をとりたいという気持ち、自分の土地を汚された怒り、確かにそういう負の感情もあります。
しかし同時に廃棄物の搬入をここで止めたいのです。もしここで止められたら、西の方は助かるかもしれないからです。
西には彼らが子供の頃を過ごしたコミューンがあります。リーダーはきっとなつめさんに避難してほしいはずです。だから葛葉にも告知を出した。
どうかその思いを分かってあげてほしいのです。
今、最後のお祭りが開かれています。とても楽しいお祭りですが、楽しければ楽しいほど涙が出てきます。
道化の人が泣いてみせては嘘泣きだったと舌を出す芸を何度もやっていましたが、途中で道化の人の涙が止まらなくなっていました。それでも嘘泣きだと言い張っていました。
それを見ていた私も最初は笑って見ていましたが、途中からみんな一緒に泣きました。
生きているってことは、泣いたり笑ったり大忙しなのですね。
私も20年と少しの間、泣いたり笑ったりして、今、駆け足で立ち去ろうとしています。私はあなたにお別れを告げなければいけません。
最初に伝えたいことは、私は今、とてもうれしいということです。なぜなら別れを告げられる人がいるのですから。
不思議と今は何もかもがなつかしいと思えます。私自身の終わりが近づいているせいなのかもしれません。
今この瞬間すら、なつかしい。
不思議と思い出すのは楽しいことばかりです。
以前お話した私の母親のことを覚えていますか。死んだ人は記憶の中でつつましくなるものです。
私の母親も今では私の中で、なつかしく、とてもやさしい存在になっています。




