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ラストリゾート  作者: 水野たまり
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リーダーとの会話7

「あなたらしい大胆な判断ですね。


 確かにあれだけの量から漏れ出しているとなると、どこまで逃げれば安全ということはありません。船だったら遠くまで行けるし、移動も容易だという訳ですね」


「それしか方法がありません。

 長距離を移動することにもう我々の体は耐えられそうもありませんからね。


 私の端末は旧政府用の仕様である為、汚染センサーは付いていません。汚染が進行する速度が非常に早かったこともあって、気づくのが遅れてしまいました。


 私たちが気づいたのは葛葉の値に上昇傾向が出始めてからです。しかしその頃にはこの土地は既に手遅れでした」


「でも生きのびる方法はないのですか。他に選択肢はないのでしょうか」


「一見他に選択肢があるようですが、実際そんなものはありません。本当に重要な時はいつもそうです。覚悟を決めて、唯一の方法に賭けるんです。


 オリエの仇を討たず、追われるままただ逃げて、何もできなかったという負い目を抱えたまま死ぬ、そんな選択肢はないのと同じです。

 

 全員思いは同じです。


 自分の中に残っているありとあらゆるものをかき集めて、最後にすべて燃やし尽くしたい。お祭りも最後ならばなおさら華々しくありたいのです」


「私は外の人間なのに、あなた達の夢に自分の思いを重ね合わせていました。私はあなた達の未来が見たかった。


 でも私はリスクを負わずあなた達に夢を見させてもらっただけだった。私は臆病な人間ですね」


「もうすぐ私は仲間と一緒に自分の命を終えることになるでしょう。命を惜しんで戦うつもりはありませんから、生き残った後のことを考えても仕方ありません。


 しかしたとえ生き残ったとしても、私の体はもう長くは持たないでしょう。


 どちらにしても終わりです。でも私達の夢はまだ終っていません」


「どういうことですか」


「子供の頃のことを思い出したのです。


 終わりを意識すればするほど、不思議と子供の頃の思い出があふれてきて抑えられなくなりました。


 私は子供の頃、死ぬまでに南の島に行ってみたいと思っていました。アーカイブで南にはリゾートという場所があることを知っていたのです。


 そこで人々は大きな椅子に座って景色を眺めたり、気が向くと海で体を冷やしたり、疲れた心と体を休める為に無為な時間を楽しむのです。ナツメさんも知っていますね」


「私もあこがれました。人々は体に良いとはいえない、きれいな色の飲み物を飲むそうですね」


「体に悪い飲み物なんて誰も気にしません。なにしろそこは汚染されていない砂浜と海があるのですから」


「過去には華やかなリゾートだったかもしれません。でも今では何もないのではないですか」


「きっと何もないと思います。でもまた開拓すればいい。

 そんなことなんでもありません。


 想像してみてください。そこ汚染されていない土地です。

 

 私達を抑えつけている目に見えない汚染と呪いから解放された自由な世界です。ただもうそれだけで充分ではありませんか」


「子供の頃は私もあこがれていました。でも遠い国の話だと思っていましたから、行きたいと思ったことはありませんでした」


「私が子供の頃は生きることがたやすかった。そしてとても幸せでした。私は6歳になって学校に行くようになると午後におやつが配られていました。


 それは生きる為に食べなければいけない食事とは違います。生きることと直接関係のない、ほんのちょっとした楽しみです。

 

 もちろんその時はそんなことは考えず、ただただおやつだけをお腹一杯食べたいと思ったものです。


 生きる為に栄養のあるものを食べなければいけない。それは分かっています。

 

 我々の選んだのは利口な生き方ではないかもしれません。それは最初から分かっているんです。


 おやつを楽しみに学校に通っていた子供の頃の自分からみても、汚染されていない南の島の存在は、まぶしいぐらいのあこがれだったのですから」


「そこにあなた達は最後の望みを繋ごうとしているのですね」


「ラスト・リゾートを目指すことが最後の手段だなんて、まるでたわいないジョークです」


 もう引き止める言葉が見つからない。


 生きていてほしい、その言葉を飲み込む。

 

 僕は理解しなくてはいけない。

 その言葉がどんなに残酷な響きを持つ言葉なのか。


 頬に涙が伝う。

 死に場所を探し求めている人がようやくその場所を見つけたのだ。それもハッピーエンドの形の1つに違いない。


 旅立とうとしている人に対してかけるべき言葉は1つだけだ。

 笑顔をつくり言葉を搾り出す。


「幸運を祈っています」


 リーダーの顔が一瞬ゆがんだ。

 いやそれは笑顔だったのかもしれない。

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